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21 迷宮都市ザイン

今週中にキリのいいところまで行きたいので投稿強化週間です。

暫くは1日3話掲載です。

19時、20時、21時の1日3回更新します。

よろしくお願いします。

「おぉ……」


 迷宮都市ザインの外円に到着した。

 乗ってきた馬車から降り、レイリィの荷物を下ろすと、俺は街の様子を眺めて感嘆の声を漏らす。

 雑多な建物が城壁の内側に所狭しと立ち並び、それなりに洗練されていた街並みのエノムとは打って変わって、下町のような雰囲気を醸している。

 エノムにも衛兵は多かったか、ザインんの兵士たちはあちらの兵士よりもいくらから粗野な印象を受けた。

 身に着けている装備は使い込まれており、顔や体に傷がついているものが多い。

 テントや天幕がそこら中に建てられており、大きなバックパックを背負った軽装の冒険者風の人たちが、何事かを大声で話し合ったり、酒を飲んだりしている。


「ここがザインか」

「ええ。迷宮都市ザイン……都市といっても、迷宮探索の為の拠点みたいなものね。住んでいる人のほとんどが探求者シーカーやその家族。あとは兵士よ」


 よいしょ、と大きなカバンを背負うと、レイリィが教えてくれる。


「おいしそうなにおいがたくさんするの!」


 ミリィが周りを見回し、くんくんと匂いを嗅ぎながら言う。


『なんじゃと! わしも外に出たいのじゃー!』

「こんな人が多いところで出られるわけないだろ。まぁ、あとで何か食おう」


 なんか俺、異世界こっちに来てから同行者の食事の世話ばっかりしてる気がする……。

 しかし、確かにいい匂いがするのは確かだ。


「そのまえに、ヘイムガルドの迷宮探索拠点に申請を出しに行くわよ」


 フードを目の辺りまで被り、レイリィ。

 野暮ったいだぼだぼ灰色のローブを着て、ツインテールにくくった黒髪を、フードの隙間から前に垂らしている。


「ほら、ミリィもフードをかぶって。ここにはいろんな人が居るから、あなたの正体に気づく人もいるかもしれないわ」

「わわわ」


 ぐい、とミリィのフードをひっぱって彼女の顔を隠すレイリィ。

 なんか、ここ10日でこの二人は随分と仲良くなったみたいだ。俺もうれしい。


「こっちよ。ついてきて。人が多いし、かなり道が入り組んでるからはぐれないように。ミリィは私と手をつないでましょ」


 ミリィの手を引いて、レイリィが歩き出す。

 俺も外套のフードを引っ張って頭にかけた。


 ――――――


 にぎやかな街の、ほぼ中心に位置するのだろうか。

 ひときわ背の高い――兵士が物々しく周囲を見回っている――建物に到着した。

 中に入り、レイリィに「少し待ってて」と言われて待つ。

 そこら中に立てられている看板には『探索申請はこちら』『魔石換金』『素材買取』などと書かれている。

 カウンターで兵士の男ににレイリィが何かを見せ、ひとことふたこと話すと俺に手招きしてきた。

 おとなしく近くに寄る。


「こちらが私の護衛。女の子の方は補佐よ。視察の予定は7日。採掘はしないわ」

「7日とはいえ、たった3人で潜られるのですか?こちらからも何人か出しますので、護衛を……」

「私のことは知っているでしょう?護衛といってもほとんど荷物もちのようなものよ」

「しかし……」

「王からも許可をもらっているわ。これ以上問答が必要かしら」

「す、すみません……」


 ひるんだ様子の兵士。


「ガッハハハ! 大丈夫さケビン、嬢ちゃんは強いし、今回は視察なんだろォ? 迷宮にいる魔物なんてあっちゅう間に消し炭よ」


 そういって、奥から巨大な男がのっしのっしと現れた。


「……ガラハド。来ていたの」

「よぉ! 久しぶりだなァ! 嬢ちゃん! おうよ! ここの駐屯兵の訓練のためにちぃとなァ!」


 そういってぐわしぐわしとレイリィの頭をなでるガラハドと呼ばれたデカいおっさん。

 体もデカければ声もデカい。

 傷だらけのフルプレートにの背中には、背丈――2mくらいありそうだ――よりも大きい戦斧ハルバードを担ぎ、茶色の短く刈り込んだ髪の毛に、同じ色の瞳は心底楽しそうに細められている。


「もう! やめてよ、あなた力つよいのよ……」


 そんなことを言いながらも、レイリィはそんなに嫌がっては居ない様子だ。


「知り合いか?」

「えぇ。ガラハドよ。その……私のパーティメンバーよ。前のね」


 ……つまり勇者パーティの一人だ。

 成る程。まぁ、見るからに強そうだこの人は。


「おう坊主。俺ァガラハド・ギャレンブリクだ! 嬢ちゃんの護衛だって?」


 よろしくなァ! と手を差し出してくる。

 ……聖属性持ってないよな……?

 おそるおそる手を握り返した。


「レイジだ。よろしく」


 ガッシリとした手は、歴戦のもののふを思わせる。


「レイジ! ……ァん? ……お前」


 す、とガラハドの瞳が細められる。


(やば、何かバレたか……?)

「そんなナリしてる割につえぇな!!」


 そして、ニカッ、と人のいい笑顔を向けられた。


「あ、ああ。そうでもないぞ」

「そうかぁ!? ガハハ! まぁ嬢ちゃんをよろしくなァ! なあ、ケビン! この兄ちゃんお前の何倍もつええぞ! この兄ちゃんと嬢ちゃんが居れば迷宮の魔物なんてものの数じゃねえよ!」

「はぁ……まあガラハドさんが言うなら……」


 ケビンと呼ばれた兵士は、ガラハドにバンバンと背中を叩かれて苦しそうにそう言った。


「それじゃあ、私たちは行くわ」

「あァ! しっかり視察してくんなァ!」


 そういってガラハドがもう一度レイリィのあたまをガシガシと撫でる。


「もう、やめてったら!」


 飼い主に無理やり撫でられた猫のように、するりとガラハドの手から逃れ、レイリィが俺の外套の裾を引っ張る。


「ほら、レイジもいくわよ」

「あぁ」


 ちら、と振り返り、ガラハドを見る。


「うん?」


 と腕を組みながら見返してくるガラハド。


(……魂魄情報ステータスは……覗かないほうがいいな。バレそうだし。余計な事しないでおこう……)


「いや、なんでもない。ガラハドさんも、またどこかで」

「おゥ! 坊主もまたなァ! ……ま、近いうちにどっかで会いそうな気がするぜ、俺ァ」

「そうか……?」


 それじゃ、と手を振って、俺たちは探索拠点の建物をあとにした。


 ――――――


 その日の夜。

 レイリィがとっておいてくれた宿で、俺たちは明日の作戦会議の為にレイリィの部屋に集まっていた。


「さて……明日からの探索のことなんだけれど」


 ラフな服装をし、髪の毛を下ろしたレイリィがティーカップを傾けながら言う。

 因みにお茶は俺が淹れた。

 俺はベッドに腰かけ、その隣にはミリィ、反対側にアリスが座っている。


「申請を出したのは1週間。その間に50層まで潜るわ。1週間たって私たちが戻らなければきっと捜索隊が組まれる。それを撒く為に追いつかれる前に『聖人の門』より奥に行くわよ」

「おぉう……強行軍だな……」

「えぇ。戦闘は出来るだけ避ける。どうしてもの場合道は私が魔法で確保するわ。レイジが前衛。中衛にミリィ、その後ろに私ね」

「わかったなの!」

「了解。俺は言われた通りに進んでいけばいいんだな」

「そうね。ルートは分かっているし、指示は出すわ」

「罠とかはどうする?」

「発見したら報告する……けれど、50層前までのルートの罠はほぼ解除されているはずよ」

「そりゃそうか」

「さて、それじゃあ今日は早く寝て、明日から迷宮に潜りましょう」

「おう」

「わかったなの!」


 そうして、俺たちは各々明日に備えて休むことにした。


 ――――――


 翌日。

 朝靄煙る早朝。

 宿を出た俺たちは迷宮に向かっていた。


「ふぁ……ねむいなの……」

「昼前には迷宮に入りたいわ。眠いのは我慢ね」


 装備をきっちり着込んだミリィ。腕には盾をつけている。

 レイリィは昨日と同じ風体だ。フードの隙間からツインテールを垂らし、大きなバックパックを背負っている。

 俺は黒の外套に、今日は籠手ガントレットをしっかりと腕に嵌めている。

 臨戦態勢だ。


「迷宮ってのはどの辺りにあるんだ?」


 辺りを見回す。

 まだ人が起きてくる時間ではないのか、あれだけにぎやかだった街は沈黙している。


「入り口はここから北に2時間くらい歩いたところよ」


 あっち、とレイリィが指さした方向を目を凝らして見てみる。

 吸血鬼になってからこっち、視力もよくなったようだ。遠くまで随分とくっきりと風景が見える、が。


「まだ見えないな」

「見えるわけないじゃない。結界が張ってあるわ」

「え、そうなのか」


 いや、そりゃそうか。そう簡単に見つかるわけにはいかないもんな。


 それからレイリィの言った通り2時間ほど歩くと、街はずれ、天幕やテントひしめく区画が見えて来た。


「……あれか」

「えぇ。あれが人の迷宮。ヒュマノファンタズムと、私たちはそう呼んでいるわ」


 騎士のような恰好をし、剣を掲げる石像が左右に1体ずつ。

 剣が交差したその下には、ぽっかりと口を開けた洞窟の入り口。

 入口までの道の周りには石柱が左右一列に立ち並び、地面は薄く輝く――魔力をうっすらと感じる――石畳で舗装されている。

 まさに遺跡……迷宮といった風だ。

 兵士が詰める天幕やテント、木製の掘っ立て小屋があるが、まだ早い時間の為か、最低限の見張り以外は見えない。


「さて、申請書を提出してくるわ」

「あぁ、頼む」


 ぱたぱたと、見張りらしき兵士に向かってレイリィが駆けていく。

 俺は入り口の左右に鎮座する石像を見上げた。

 20mくらいはあるだろうか。デカい。


『レイジ』


 と、影からアリスが声をかけてくる。


「ん? どうした」

『以前にも言ったが、わしはこの中では魔力を制限されるのじゃ。お主らならそうそう危険な状況にはならんじゃろが、どうしてもの場合は『助けてアリス様』といえば助けてやるのじゃ』

「……あぁ、わかった」

『うむ。……気を付けるのじゃ。わかったのじゃ?』

「お、おう」


 心配されてる……のかな。


「お待たせ。……準備はいい? いくわよ」

「あぁ」

「はいなのっ!」


 そうして、俺たちは迷宮に足を踏み入れた。

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