20 ザインへの道程で2
次々回から迷宮に潜ります。
それでは、またあした。
ザインへ向けて出発して3日目の夜。
当然のことだが、夜は移動はしない。
俺とアリスだけなら夜通し移動もできるが、レイリィは人間だし、ミリィ……は魔族だが、まぁ年相応の体力しかない。
俺達はレイリィが持参したテントを立てて、その前で焚火を囲んでいた。
「しかし、テントか……全く頭になかった」
これで移動も三日目だが、さすがにレイリィとミリィが寝ているテントで一緒に寝るわけにも行かず、俺は大体その辺で転がって寝ている。
アリスは大体ずっと俺の影の中だ。
「そのくらいは常識の範疇の持ち物だと思ってたわ……伝えなかった私も悪いけど」
木の棒で焚火をつつきながらレイリィ。
「わわわ、そんな風につっついたら火が消えちゃうなのっ」
慌てて空気を送り、火の勢いを強めるミリィ。
冒険の才能は野営やサバイバルといった分野でも発揮されるらしい。
そして、レイリィにその才能はなかった。
「あ、ごめんなさい……」
「大丈夫なの。レイリィちゃんはお湯が沸いたか見てほしいなの」
「あ、はい」
これじゃどちらが年上かわからない。
「ん……ていうか、二人とも何歳なんだ?」
そもそも二人の年齢を知らなかった。
「うん? 私は19よ。生まれ月が来れば20ね」
「はたちッッッ!!」
レイリィはお姉さんだった。
レイリィ姉ちゃんと呼ぼう。
「レイリィ姉ちゃん……」
「な、なによ気持ち悪いわね……。レイジは吸血鬼なんだし、見た目通りの年齢じゃないんでしょ?」
「いや、俺吸血鬼なりたてだから普通に見た目通りだぞ。17歳だ」
「……うそでしょ……」
絶句するレイリィ。『年下……?』というつぶやきが聞こえた。
「ミリィは10歳なの」
「うそん……?」
ミリィを見る。
確かに言動に幼い印象はあるが、見た目年齢としては14、5歳……日本で言う中学生くらいの少女に見える。
『魔族は体の成熟が早いのじゃ。肉体が全盛期に達すると、そこで老化が止まって、死ぬまで大体その姿のまま過ごすのじゃ』
影からアリスが解説を入れてくれる。
「へぇー」
『大体寿命は100年ほどじゃが、繁殖期は大体10歳から死ぬまでじゃ』
要らない解説も入れてくれる。
「その補足要らない」
そんな風に夜は過ぎてゆく。
――――――
4日目、馬車が中継地点の小さな農村で停まっている間、ミリィの盾の扱いをみてみることにした。
「よし、じゃあミリィ、今からい俺がちょちょっとミリィにちょっかいをかけるから盾で防いでみてくれ」
「わかったなの!」
「俺は怪我しても平気だから、思い切りやっていいからな」
「わかったなの!」
いい返事だ。
むん、と盾を正面に構えて俺の動きを見逃さまいと構えた盾の向こうからじぃっと見つめてくる。
かわいい。
……じゃなくて。
「よし、じゃあ行くぞ」
そう言ってかるぅーく地面を蹴る。
とんっ、とステップを踏んでミリィの頭に手を伸ばす。
ぽす、となんの反応もなくミリィの頭をなでることに成功した。さらさらの髪の毛が指の隙間を流れていく。
「!?!?!?」
わわわ!と慌ててミリィが俺を見上げる。
「え? え? え? いつ動いたなの??」
「あぁ、ちょっと早かったか……次はもう少し遅くするな」
「は、はいなの!」
バックステップで距離をとる。
うーん、今ので早すぎるなら……。
ほんの少しだけ……
(こんなもんか?)
跳躍ではなく、早歩きするくらいの速度でミリィの後ろに回り込む。
「ほれ」
頭をなでようと手を伸ばして
「はいなのっ!」
こつん、と盾に手が弾かれた。
す、と今度はおなかに手を伸ばしてみる。
ふに、と少女らしい柔らかいおにくの手触りが……
「ひゃんっ!?」
「あ、ごめん」
「くすぐったいなのー!」
『…………』
影から怒りのオーラを感じた。
――――――
7日目。
ザインへの道程も半分を過ぎた。
その間レイリィはミリィに魔法を教え、俺は先日のようにミリィがある程度盾を使えるようになるための訓練を行っていた。
素手で訓練を行うのは、少し問題があることが判明した――俺がミリィの体に触れるたびに俺の影から怒りのオーラが放たれる――ため、俺が石を軽く投げてそれを弾く訓練を始めた。
流石は盾Lv2、といったところか。ミリィの反応速度は瞬く間に上がり、今では4つや5つ、時間差で投げた石をきっちりと弾くまでに成長していた。
「魔法の方はどうなんだ?」
夜、いつものように焚火を囲んでいる時、ふと気になってレイリィに尋ねてみた。
当人は俺の膝に頭を預け、すやすやと寝入っている。
「そうね、強化魔法なら迷宮に入るまでには何とかなると思うわ。攻撃魔法なんかはまだ無理でしょうけど」
「なるほどな。まぁ身を守れればそれでいいから、あまり根を詰めない程度に頼む」
「ええ。……そっちのほうは?」
「んー、さすがLv2持ちって感じだな。いい感じだよ。受け止めるだけじゃなくて、逸らしたりいなしたり……まあ盾の扱いは相当なもんだと思う」
「そう。それじゃあそのうち『スキル』も発現するかもね」
「あぁ、そういえばそんなのがあるんだっけ」
「そんなのって……」
はぁ、とため息を吐かれた。
俺はこいつに何度呆れられたらいいんだろうか。
ぬ、と唐突にアリスが無言で影から出てくると、俺の隣に腰かけた。
「ん? どうした?」
「なんでもないのじゃ。影の中が窮屈だから出て来ただけなのじゃ」
そう言ってアリスは、ミリィが頭を載せていないほうの膝に腰を下ろす。
「あの……」
アリスの体重が膝にかかり、見下ろすと、彼女の鮮やかな赤髪が眼前いっぱいに広がる。
(ちかいちかいちかいちかいちかい!!)
なんか心臓がうるさいし、なんかいい匂いするし、なんか柔らかいし!!
「……」
レイリィがわたわたとしている俺をジト目で見つめる。
「なんですか!」
「いや、別に構わないけど……目の前でそうイチャつかれると、なんかむかっとするなあと」
「イチャっ……!」
なんてこというんだ、やめてくれ意識させるな。
「……ふふ」
口元を抑えてレイリィが笑う。
「な、なんだよぉ!」
情けない声が出てしまった。
「……だって、おかしくって。……ブラッドシュタインフェルト、あなた、顔、真っ赤よ。ふふふっ」
「っ!!」
ぴくっ、とアリスの体が跳ねる。
そのまま俺の膝から飛び降りると、影の中に潜っていった。
『赤くないのじゃ! ないのじゃからな!? わかったのじゃ!?』
「あ、あぁ……わかったよ……」
ドギマギしつつ答える。
一体アリスは何のために影から出て来たんだ。
「ふふふ……あなたたち、なんだかこそばゆいわ」
レイリィはレイリィで知った風な感じで笑ってるし……。
『ぅー……ぅーー……』
アリスはうーうー唸ってるし……。
「えぇっと……そうだ。スキルについて教えて欲しいんだった……」
どっと疲れた。ため息を吐きながらレイリィに尋ねる。
「はぁー……面白かった。スキルね、スキル。そうね……才能レベルが2以上になるとスキルが発現する場合があるの」
「それは知ってる」
「うん。大体が自分の経験から編み出すものなんだけれど……そうね、何千何万と繰り返した動作は自然と体が動く……っていう感覚は分かるわよね?」
「わかる。ルーティンみたいなものだよな」
「そうね。自然と体が動くような繰り返した動作、それをさらに磨いて技に昇華させたものが『スキル』よ。『スキル』まで昇華された技は、ショートカットスペル……えぇと、そうね、自分でつけた『スキル』の名前って場合が多いわね。それを唱えただけで発動するようになるわ」
「つまり、こう動けばこの動作になる、っていう過程をすっ飛ばして発動するってことか?」
「そう。自分の魂に刻み込まれた動作を、ただ発動するという意思を以って唱えるの。あとは自動的に体が動いて、発現したスキルが発動するわ」
「なるほど……」
奥義、みたいなものだろうか。
大分便利な代物のようだ。ただ、発現するまでに大分修行が必要みたいだけど。
――――――
10日目。
長い道程をへて、俺たちは迷宮都市ザインに到着した。




