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綿あめのきみ  作者: うわの空
最終話
14/14

綿あめのきみ

 多幸の木は、今日もおいしそうに水を飲む。

 水道水を吐き出したラムネのボトルをガジュマルの隣に置いて、眺めてみる。ラムネのボトルはプラスチック製の安物で、中に入っているビー玉も安物っぽくて、それでもとても大切なものだ。少なくとも、私にとっては。

 湊は朝食の準備をしながら、冷ましたおかずをお弁当箱に詰めている。そのお弁当箱は電子レンジに対応していて、中身は常にやたらと凝っていて、しかもすべて手作りだ。いつもそうだった。今日のお弁当も、きっとそうなのだろう。

『これから』はわからなくても、『これまで』はわかる。


「もうすぐコーヒーできるけど、パンかなにか要らないー?」


 キッチンから湊が叫ぶ。私はガジュマルの葉をつつきながら答える。


「要らない」

「コーヒーは?」


 ガジュマルの葉が揺れて、私は顔を上げた。


「砂糖はなしで、……牛乳をちょっとだけいれて」


 私の言葉に、湊も顔を上げる。それから、と私は追加した。


「今度、料理教えて。お義母さんの得意だったやつ」


 口が四角になっている彼の顔に思わず吹きだす。ガジュマルも笑う。



『これまで』は変えられなくても、『これから』は変えられる。




「夜桜を見に行った時、来年は綿あめを買って、その次はベビーカステラ、三年後はかき氷、四年後はチョコバナナって話をしたよね」


 湊が言った。まろやかなコーヒーをすすりながら私は頷く。


「あれ、ずっと綿あめにしようか。来年も再来年も、ずっと」


 なんで、と訊ねると彼はマグをテーブルに置き、真剣な顔でこちらを見た。


「歯がなくなっても入れ歯になっても、綿あめならずっと食べられそうだから」


 真顔で言いきってから照れたように笑う彼は、とても幸せそうで。

 私もとても、幸せで。

 いま、この瞬間に死んでもいいと思えた。 


 けれどもう少し、このひとと一緒に生きたいとも、思った。


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