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第1話 【プロローグ】 陰の実力者は、死に際すらも完璧に演出する

「ぐは……っ!」


静まり返る地下の最深部。圧倒的な権力の象徴として造り上げられた豪奢な玉座の間に、鮮血が冷たい石の床を叩く音だけが残酷に響き渡った。


身体を貫く七本の刃。それぞれが国宝級の魔力を宿した凶器であり、強靭な肉体の急所――心臓、肺、魔力回路の要所を的確に穿っている。


それは、彼が自らの手でどん底から拾い上げ、手塩にかけて育て、絶対的な忠誠を誓わせたはずの七人の側近たちが振るったものだった。


一切の躊躇もなく、呼吸を合わせるように放たれた完璧な連携奇襲。彼自身が叩き込んだ最高峰の暗殺技術が、皮肉にも彼自身の命を刈り取るため、これ以上ないほど見事に使われたのだ。


「な、なぜだ……? お前たちに、裏切られるいわれはないはずだが」


肺からせり上がる血を吐き出しながら、膝をついた男。裏社会のすべてを統べ、各国の王侯貴族すら恐怖させた組織の主が絞り出した問い。


それに返ってきたのは、かつての敬意や畏怖など微塵も感じられない、冷徹で野心に満ちた視線だった。


七人の中から、最も信頼を置いていたはずの天才魔術師である金髪の美女が一歩前に出る。彼女は路傍の石でも見下ろすような瞳で、薄い桜色の唇を歪めた。


「今までありがとう、アテル。――あなたが裏から築き上げた完璧な組織も、莫大な資金源も、これからは私たちが『表舞台』で引き継ぐわ。……あなたは完璧すぎた。政治も経済も影から盤石に支配する手腕は確かに見事だったけれど、私たちは一生、日陰であなたの手足として生きるつもりはないの」


彼女の言葉に、他の六人も同意するように冷たい笑みを浮かべる。


「陰の世界なんて退屈な美学は捨てて、私たちはこの莫大な力で光り輝く『世界の覇者』――王国の英雄になるのよ。だから、裏方にこだわるあなたはもう用済み」


主人公にあらず、ラスボスにあらず。物語の裏で暗躍し、その圧倒的な実力と完璧な手腕で世界を狂わせてきた男。


陰の実力者・アテルの人生は、命を預けられるほど忠実な手駒だと思い込んでいた者たちの、抑えきれない野心と冷酷な下克上によって、こうして唐突な幕引きを迎えようとしていた。


だが――。


常人であれば絶望に染まり、涙を流して命乞いをするか、あるいは激怒して死んでいく場面。しかし、激痛が脳髄を焼き、急速に体温が失われていく中でも、彼の意識の底に巣食う「中二病の魂」は、決して折れることを知らなかった。


否、むしろ歓喜に打ち震えていたのだ。


(きた……! きたきたきたっ! 『最も信頼していた有能な側近たちからの、権力と利権を狙った冷酷な下克上』! 陰の実力者の退場イベントとして、これ以上ないほど美味すぎる最高のシチュエーションじゃないか……ッ!)


表向きは悲痛な顔を作りながら、内心では全力でガッツポーズをキメていた。彼にとって、この命を落とす瞬間の出来事すらも「舞台」の一部なのだ。ここで無様に命乞いをして死んでは、これまでのクールで完璧な「陰の実力者としての演出」がすべて台無しになってしまう。


(ここでただ退場(おち)てたまるか……! 俺の美学が、演出が、世界を影から支配する壮大なフィナーレが、こんなところで完結していいはずがない! お前らが奪った俺の『組織』を、今度は一から裏工作で解体し尽くす……その絶望的なスパイスこそが、次なる舞台を最高に盛り上げる極上の前振りになるんだ!)

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