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日曜の朝

休日の朝、いつもの朝とは違ってどうしてもグダグダベッドから起きられない。休日出勤に出掛ける奥さんがドタバタと出ていく音を聞きながら何しようかと考える。別段予定もなく、やりたいことはあれこれあれど、特別これをしようというものは無かったりする。まあ、本当はやらなければならないというような類の事は沢山あるのだけれど。




とりあえず、歯を磨く。休日だから、寝ぐせと無精ひげには目をつぶり、最低限度の身支度を済ませる。ぼんやりとした頭が少しずつ刺激され、血流も早くなってきて、伏目がちだった瞼がちょっとずつ開いていく。



「まあ、とりあえずコーヒーでも淹れるかなぁ。」



冷凍庫から豆を取り出し、どれにするか悩む。あれはいつも飲んでるし、これはこの間飲んだし、でもこっちはちょっと華やかな香りが気分じゃなくて、そっちだと今日飲むのはもったいない気がしたり。



まあ、予定も決まらなきゃ、コーヒー選びすらままならない。



んんんー、と誰も困っていない悩みをたった一人自分だけの為に声を出してまで悩んで、じゃあこれ、とあてずっぽうでマンデリンを選んだ。



お湯を沸かしながら、コーヒーを秤で30g測ってミルで挽き、器具をセットする。お湯が沸いたら蓋を取って、温度計を刺す。カップとサーバーにお湯をかけ温めたら、まだまだ熱々なので、そのまま放置。スマホを用意してストップウォッチ代わりに上にサーバーを乗せた秤の横にセットする。お湯が90度付近になってきたらドリップ開始。



コーヒーを淹れ始めると、淹れ終わるまではずっと集中しているから何も考えられない。でも、集中することによって、ぼんやりしていた頭もどんどん冴えてくる。抽出終了。うん、良い色だ、今日は上手く淹れられたかも。



カップのお湯を捨て、ほんの少しだけコーヒーを注ぐ。その最初の10ccくらいの淹れたてのコーヒーを回して香りをかぎ、味を見る。ちょっとだけしか入れていないから、くるくる回すことによって一気に温度が下がり、体温に近くなる分、香りや味が分かりやすくなる。コーヒーは、温度の変化によって味わいがどんどん変わるから面白い。その最初の味見が美味しかったのなら多分、そのコーヒーは美味しい。



そして、カップ一杯コーヒーを注ぐ。そのコーヒーはまだ熱いので、熱いコーヒーの味わいが楽しめる。淹れたての熱いコーヒーは、豆のむわっとした香りが楽しめる気がする。その熱い時期だけに感じられる美味しさは何とも言い難いのだけど、その温度でしか楽しめない味だと思う。



そして、少し温度が下がってきて、60~50度になってくると、酸味が立ってくる。酸味は温度が低い方が、味覚が敏感になるからなのかコーヒーの成分の問題なのかはわからないが、感じることが出来る。それに、酸味が強いコーヒーは90度以上の熱いお湯で抽出すると、酸味が和らぎ、甘みも出る。同時に抽出も強くなるので、厚みのある味になるのと同時に雑味も出やすくなるらしい。だから、高温での抽出は、出来るだけネガティブな味が出る前に、ポジティブな味を一気に引き出したら終わるくらいの時間でやらなければならない。



反対に、低めの温度で抽出すると、酸味はしっかりでる。強く抽出されないため、豆の美味しい部分だけが抽出されてクリーンな味わいになりやすい反面、薄めのコーヒーにもなりやすいが、ネガティブな味は出ずらいので長時間かけての抽出でも大丈夫らしい。



高い温度ではサッと短時間で抽出すれば、ネガティブな味わいが出てくる前に抽出が終わるので、粗挽きにして一気に抽出されやすい円錐フィルターのドリッパーを使うと良いという。低い温度ではゆっくりと抽出してクリーンでありながら甘みやコクなどのポジティブな部分を余さず出すように浸漬式のドリッパーやネルドリップ、フレンチプレスなどで抽出すると良いらしい。



まあ、そんなこと言っても、その日はその日のコーヒーが生まれるわけで、頭でわかっているほど実際は上手くいくことは少ない。どうぞ、今日のコーヒーは美味しいコーヒーになりますようにと、どこにいらっしゃるかはわからないコーヒーの神様に願いを込め、せめてその気持ちだけでも伝わりますようにと、丁寧に豆にお湯を落としていく。



どうやら美味しくできたマンデリンをカップに注ぎ、二口三口連続で啜り、味を確かめる。



あれ?フルーティーだなぁ。酸味が明るい柑橘系のフルーティーさじゃなく、どっしりとした濃いベリーのような渋みを伴った果実感。ケニアに良く感じる、ドライトマトのような風味。



うん、良く言われる苦みとハーブ感と頭で思っていたけど、僕の感覚器官が感じたのは全く違う味わいだった。もしかしたら、これが中学生の時に感じたマンデリンの味だったかな?ちょっとそれとも違う感じがするけども。



そんな感じで何もやることは無くても、いつものコーヒーを淹れるルーチンをすることで、自分の何かが動き出すような気がする。



何も、飲むことだけがコーヒーの良さじゃない。



何もやる気が起きない日でも、悲しい気持ちでいっぱいの夜も、幸せの喜びにあふれる朝も、どんな日でもその一連の動作は変わらずやる。それが、自分の何かをリセットし、自分の何かを準備させ、自分の何かを奮い立たせ、自分の何かを諦めさせるのだと思う。



さて、一連のコーヒーセレモニーが終わった今、僕の中で何かの欲求が生まれ出てくるかとわくわくした気持ちで待っていたが、うん、何もやっぱり浮かんでこない。



「仕方ないなぁ。」



そうひとり呟くと、ジーンズにⅯ65を羽織り、バイクに乗ってあてもないまま峠道に飛び出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむふむ… やかんからコーヒーポットに注ぐ時に100度ではなくなり、コーヒーポットから注ぐ時もさらに温度が下がるから〜 くらいの呑気さです。(о´∀`о) ウチの旦那さんもバイク乗りで…
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