思い出の味は、思い出の中に
僕が初めて珈琲の産地の名前を覚えたのが、マンデリン。
音の響きは、一緒に覚えたグァテマラより可愛らしい。
中学生の頃、お歳暮かお中元で素敵なインスタントコーヒーを頂いた。インターネットでいくら探しても見つけられなかったのだけど、円柱を四分割したような形で、四種類の産地のコーヒーが楽しめるものだった。シングルで飲んでもいいし、ブレンドしてもいいように、レシピまでビンに書かれていたような気がする。今考えても、そんなおしゃれなインスタントコーヒーはあれ以外見たことが無い。小さな金属のスプーンが四つのイチョウ型の円柱の真ん中に差せるようになっていて、コーヒー好きには凄い遊び心がくすぐられる物だったのを覚えている。
そのうちの二つの味は、前述したマンデリンとグァテマラで、他はモカとブラジルだったような気がする。その中で僕が美味しいなと思ったのが、マンデリンだった。
四つのコーヒーを一つずつ淹れて飲んでみる。なんとなく味の違いが分かる気がしたんだけど、美味しいとか普通とかの大雑把な味の違いに感じたかもしれない。兎も角、その中でマンデリンが一番おいしいと感じて、それを飲んで減っていくのがとても惜しく感じた。
僕がマンデリンを飲んで感じた味は、
「フルーティー」
だった。
コーヒーが好きな方ならお分かりだろうが、どちらかと言えばフルーティーという味の表現をされるのは、グァテマラやモカで、マンデリンは苦みが特徴とされる。しかし、中学生の頃の僕が感じたのはマンデリンの圧倒的なフルーティーさだった。比べてグァテマラの方が苦いように思えた。
今は色んな国の豆を取り揃えて、毎日いろいろ試して飲んでいる。今飲むグァテマラは苦くは感じず、程よい酸味とチョコレートやブドウのような重めなフルーティーさを感じる。モカは酸味と言うより、花の香りが一番の特徴で、唯一無二の香りを持っている。
マンデリンはずっと試してこなかった。
コーヒーを知れば知るほど、自分の記憶の中のマンデリンの味がどこかへ消えてゆきそうで、本当のマンデリンの味を味わうことをためらってしまっていた。
ずっと避けてきたマンデリンを淹れてみた。
スクリーンサイズ(大きさ)は、大きくて立派な豆面をしている。コロンビアスプレモやケニアAAのような大きな豆。こういう大きな豆は、豆本来の香りが強い気がして好きだったりする。エチオピアのような小さいサイズの豆も、華やかな香りがしそうでそれはそれで好きだったりもする。見た目の良い豆は本当に美味しそうに見える。
挽く前の香りは良い。挽いてみると、パッと香りが広がっていく。フルーティーと言うより、やはりコーヒー感の強い香り。
フラワードリッパーで20g抽出。コーヒーの色は深く濃いめ。ちょっと口に含むと、好みの濃さだった。
味は、苦みが特徴で、でも、嫌な苦さではなく、深くコクのある感じの重厚さと、中煎りだったのもあって、酸味は少ないものの爽やかな味。うん、これは美味しい。
やっぱり評判通り、美味しい苦みが特徴のコクのあるコーヒーだった。
あの中学生の時に感じたあの味と香りは何だったのだろう?
あのフルーティーなマンデリンの味は大切な思い出としてとっておこう。そして、今日出会った美味しいマンデリンを好きなコーヒーのラインナップにいれよう
。思い出も、現実もどちらも僕の大切なものには違いないのだから。




