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アンと紅茶12

「 バン! 」




と乱暴にドアが閉められる音、営業部の皆が一斉にビクッとして何事かと顔を合わせる。丁度入り口の近くにいた僕は上半身だけ廊下に出して様子を伺った。




カツカツとヒールの音が刺々しい。肩を怒らせたアンが歩いてきた。



「アン、どうかしたの?」



と声を掛けたけど、僕に向かって制止するように手を挙げて、一言、



「Sorry」



とだけ言って僕の前を通り過ぎていった。




一見冷静さを装っているけど、口元が強張っているし、目線は少し伏せがちで目を合わせようとはしなかった。あ、怒ってるな。それも相当の事らしい。



----------------------



「イギリス人はね、日本人と似ていて感情をあまり外に出さないの。」


「え、でも、アンよく怒ってるじゃない。」


「それはちょっとしたことでしょ?本当に怒っている時こそ怒りを見せないの。(stiff upper lip、上唇を固くする)っていうんだけど、平然とした姿で意地を張るのよ。」


「へぇ、なんかお侍さんみたいだね。」



----------------------



あの時言ってたあの姿そのままだった。平静を装っているけど、あんなに硬くなったアンを見たのは初めてだった。ママと電話で口論している時だってそこまでではないし、むしろ表情豊かに怒っていた。




「ごめん、ちょっと行ってくる。」




部署のスタッフに見送られながらアンの後ろを追う。こんな時は休憩室しかない。スライドドアを開けようとしたが鍵が掛けられていて開かなかった。



「アン、僕だよ。落ち着いたらさ、ここを開けてよ。」



前にアンを怒らせた時、すぐに謝ろうとしたら怒りが収まっていなくて、もっとヘソを曲げたことがあった。ゆっくりと時間を掛けて、自分の冷静さを取り戻さなければと思わせて、少し時間を置く。



「ガチャ」



3分くらいしてスーッとドアが開いた。中に入る。アンはずっと下を向いたまま。



「アン、紅茶でも飲むかい?」



コクっとうなずいたのを確認して、何も聞かずにお湯を沸かし始めた。後ろの方で、ズズッと鼻をすする音が聞こえる。それでも何も言わずにお茶の用意をする。シーンとした休憩室。グラグラと揺れるケトル。



「カタカタカタカタ、ピーーーー!」



と、お湯が沸いたと同時に、



「ウワァーーーン!」



という声とともにアンの泣き声が部屋に響いた。



そうだよ。意地を張ってても良いけど、いつかは感情を開放したほうが良い。



僕の前では、意地なんか張らなくてもいいんだ。そう思える相手でいたいし、僕もアンの前では、素直な自分でいられるのだから。ここは(僕がいる場所)、君が安心できる場所なんだから。

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