ちょっと熟成
「…、こんな味なのかぁ。なんか違ったなぁ…。」
色んなコーヒー豆を探しては、吟味してお店で買ってみたり、ネットで注文してみたり。
産地の違いや、焙煎度の違いなどで自分が美味しそうだなと思う豆を取り寄せてみる。ネットには生産者や焙煎士の思いや品質が書いてあったり、その人たちの写真が載っていたりして、さぞかし美味しいんだろうなぁなんて期待を膨らませて注文。その豆が届くまで、ドキドキワクワクしながら待つ。
そうして、数日後に焙煎された豆が家に到着する。包装の上からもすでに美味しそうなコーヒーの香りがしてたまらない気持ちになる。バリバリと包装を開けて豆を取り出すと、豆面も良くて、美味しそうな姿をしている。お湯を沸かしてまずは一杯飲んでみようと心弾ませながらミルを回して粉を挽く。粉上になったコーヒーの香りはとても香しく、液体になった時にはどんな美味しさになって喉を通るのかと期待が高まる。
ゆっくりとドリップ。綺麗な赤褐色のコーヒーがサーバーに溜まり、後はいよいよ試飲するのみ。
厚手の小さなグラスにちょっと注ぎ、匂いを嗅ぐ。うん、良い匂いだ。
そして一口飲んでみる。おや?おかしいな。もう一口。あれ?なんか、美味しくない。え、どういうこと?
そんな体験が毎回だったりするのが、コーヒー地獄の一丁目一番地。
刺々しかったり、スモーキー味が強かったり、ものすごい酸味だっていたり、粉の時に感じた香りがしなかったり…。
期待が高いだけに、落胆がものすごく大きかったりする。もうね、心は傷つきますよ、本当に。
でも、そうやってあまり好みじゃないコーヒーをあの手この手で抽出のやり方を工夫して、粉の粒度を変えてみたり、お湯の量や温度を変えてみたり、ドリップのやり方を変えてみたりといろいろ工夫して、このコーヒーはこういう味なんだなと思いながらちょっと苦痛を伴ったままのみすすめる。そんなコーヒーたちが冷凍庫にどんどんたまっていくのだから、こっちはたまったもんじゃない。
で、ある日、そうやってしまっていたコーヒーをそろそろ消化しないといけないなと思って、ドリップしてみる。
「あ、美味しい。」
美味しい味がする。それも、ネットで書いていた事と同じような味の表現が感じられた。飲んだばかりの時は、あんなに刺々しくて飲みづらいコーヒーだったのに、香ばしくて飲みやすくて味がしっかりするコーヒーになっていた。
その時やっと気が付いたことは、焙煎直後の豆を挽いて飲んでいたということ。
ここは、焙煎直後の方が美味しいとおっしゃられる方もいるので、個人的な嗜好となってしまうのだけど、たぶん美味しくなかった理由が分かった気がした。
焙煎直後に送られてきた豆を直ぐに挽いて飲んでいた。で、美味しくないとそのまま、密封した容器に入れて冷凍庫に入れていた。これも悪かったのかもしれない。
焙煎後一週間後くらいで味が落ち着くなんて話をよく聞いていたが、鮮度の古さには気を付けていたけど、新しさにはちょっと無頓着だった。で、ある程度時間がたって落ち着いてきてから飲んでみると本当に味が違ってきて、美味しくなった。ある豆だけではなく、どの豆も美味しくなったから、豆の種類のせいじゃなく、やっぱり豆の環境だったに違いないと思った。
焙煎直後の豆を冷凍庫に入れたものなら、二週間から一か月後から美味しくなった。多分、すぐに冷凍庫に入れたから、焙煎直後のまま熟成が進まなかったのだと思う。
味も香りもとても良くなるから本当に驚いた。
焙煎直後は、ブラジルは平板で面白みもない香りも少ない液体、コロンビアは本当に酸っぱくて飲むのも苦痛、エチオピアイルガチェフェは特徴である花の香りがほとんどしない味で、スーパーで売っているコーヒー豆の方がよっぽどおいしく感じた。
でも、熟成が進んだブラジルは香りも味もグッと出てきて、ザ・コーヒーという味がして本当においしかった。
お勧めは、買ってきて未開封のままで焙煎日から一週間から二週間の間を空けて、最初の一杯を飲み、味の状態を確認し、まだ早ければそのまま常温保存、丁度良ければその後は冷凍保存にするという方法が良いと思う。
直ぐに飲みたい気持ちをちょっと抑えて、ちょっと熟成させてから飲んでもらった方がいい気がするので、購入直後に美味しくなかったとしても、すぐにその豆の評価をしない方が良いかなと思う。
まずは購入直後は熟成期間をちょっととって、焦らないようにしてコーヒーを楽しもうと思う。




