第41話 アンジー 冒険の始まり
厨房でたっぷりパンケーキを食べた二人は城門の馬車の前に来ていた。
二人を見送るためにアドルフ・フローラ・フレイアなど城の皆が城門に来ていた。
「うぷっ」
「気持ちわるい」
パンケーキを討伐し終わった二人が口を押えて立っている。そんな姿を見た姉のフレイアが話し出す。
「アンジー!出発前から何をやっているのですか! しっかりしなさい!」
「アンジーもですが・・・カミラまで一緒になって! 偵察は大丈夫なんですか?」
フレイアに二人とも怒られてしまう。
「大丈夫です。うぷっ」
アドルフ達は苦笑いしている。そんな中フローラだけは笑顔でカミラを見つめている。
元々は豪快な性格でとても明るい女性であったカミラだが、アーロンが亡くなってからは親友だったアーロンの家族を守るため、フローラ達と一緒に辺境伯であるフローラの父が治めるビート領まできてくた。その使命感もあり、笑顔が減り性格も少し硬くなり気難しくなっていた事を心配していた。
しかし、アンジーといる時は昔の明るいカミラに戻る瞬間がある事をフローラは嬉しく思っていた。
「アンジー!カミラの言う事をちゃんと聞くのですよ。カミラ!アンジーの事よろしくお願いしますね。」
フローラがカミラに頭を下げる。
「大丈夫よ任せて!フローラ行ってくるわね。」
カミラは照れながらフローラの方を見て答えて馬車の御者台に座った。アンジーもカミラの横に座った。アンジーの元気な声と同時に馬車はドワーフの国アヘンバッハに向けて走り出す。
「皆!行ってきますね~!」
今回の二人の任務は、最近ビート領内の鉱山で鉱物資源がドワーフ達によって無断で採掘されているという件の偵察である。
無断採掘の規模は大きくないが、ミスリルやオリハルコンなどの希少鉱石が含まれる事と他国の鉱山でも同じような事例が起こっているらしいので現在ドワーフの国で何が起きてるのかを調べるのだ。
最強クラスの武器や武具を製造する事の出来るドワーフの国が鉱石を他国から集めて大量の武器を製造しているのであれば大変なことになる。
ビート領での無断採掘は極々少量であるが、今のうちに手を打っておきたいアドルフがカミラに調査を頼んだのだ。鍛冶に対してプライドの高いドワーフが鉱石を盗むなんて在りえないことである。
アドルフはドワーフの国で必ず何かが起こっていると考えていた。
ビート領からドワーフの国アヘンバッハは北西の火山地帯に在る。
幾つもの領地というものが無くすべてのドワーフが大精霊イフリートが住むというリート火山を取り囲むように造られた王都に住んでいる。他国の王都の10倍程ある大都市である。
馬車はまず王都の方向に進み途中で進路を西に変えドワーフの国にむかうことになる。
ビート領を出発したカミラ達はまずエアフルトの王都に向かう街道を進んでいた。
アンジーは4年前に王都から脱出する際に通った街道だが幼くて覚えていなかった。
左側には森が右側には草原が広がってい。森と草原を街道が分けるように地平線まで続いていて今日みたいに天気が良い日はとても気持ちが良い。
「初めてビート領を出ましたが、外の世界は本当に広いですね!師匠!」
「そうだな。私達の国は自然豊かな大地に恵まれた国だからな綺麗な所が多いんだ!」
「今から向かうドワーフの国などは大火山地帯に王都がある。鍛冶師の国だけあって鉱石が豊富にとれるが、その代わり王都の周りは火山と岩場ばかりだぞ。だから食料などは全て他国からの輸入に頼っている。」
アンジーがカミラの話を聞きながら何やら考えている。
「師匠、ドワーフの国は食料全般輸入に頼っているのですよね?それって危なくないですか?他の国が食料を売ってくれなくなると大変じゃないですか?」
アンジーは7歳だが、なかなかに賢い。姉のフレイアから色々と教え込まれている。
カミらもアンジーが普通の7歳の女の子より賢いのは解っているのでたいして驚いたりはしない。
「そうだな、普通の国なら大問題なんだろうがドワーフの国は特別なんだよ。」
「なんたってドワーフの国が造る武器や武具が別格の強さで他国が絶対に真似できないのさ。」
「ドワーフ製の武器や武具か重宝されてるから、どの国も食料との交換で貿易を続けているんだよ。」
アンジーは興味深々でカミラの話を真面目に聞いている。
「そんなに凄いのですか、ドワーフ製の武器は!私も欲しいです!」
「すごいぞ、岩がバターの様に切れるからな!」
「欲しい~~!!」
「ドワーフの国に着いたらアンジーに合う剣でも探してみるか。」
「はい!!!!」
そんな話をしながら森沿いの街道を進んでいると、森の中から人影が数体飛び出してきた。
その人影に驚いた馬が暴れだす。
カミラは手綱を引いて即座に馬をおとなしくさせると、飛び出してきた人影の方を見る。
そこにはゴブリンが10匹立っていた。
「アンジー初任務です。2分で片付けなさい!」
「ハイハイ!まかせて~♪」
カミラがアンジーに声をかけると気の抜けるような軽い返事が返ってきた。軽い態度っとは裏腹にアンジーの表情が冷徹な殺し屋の様になった。
アンジーが御者台で立ち上がったと思うと一瞬で姿が消えた。
次の瞬間
馬車から一番遠い所にいたゴブリンの首が地面に転げ落ちアンジーの姿が、体だけになったゴブリンの傍に現れた。
馬車からは20メートルほど離れている。
「速かったわね。実戦に強いのかしら・・・」
カミラがつぶやく。
「ハイ、次!」
もう一度アンジーの姿がブレて消えると同時に残りのゴブリン達の間を風が吹き荒れているみたいに土埃が舞い始める。
高速でゴブリン達の首を刎ね、手足をバラバラにしながらゴブリン達の間をすり抜けてアンジーが馬車に帰ってきたからだ。
ほんの数十秒の出来事である。
アンジーが笑顔で御者台に座り直すまでにかかった時間は2分である。
「師匠!どうですか?指示通り2分ですよ。」
「私の弟子なら当たり前です!無意味に体をバラバラにしなければもっと早く終わったでしょうに。でもまぁ~良くやりました。合格です。」
カミラに褒められたアンジーは、花が咲いたような満面の笑顔でカミラの隣に座っている。
瞬殺されたゴブリンを放置して二人の馬車はドワーフの国に向けてゆっくりと進み始める。




