八章⑥
「光栄ですわ! ……ですが、絹を無駄にとは? ドレスを仕立てるときに端切れが出るのは、当然ではありませんの?」
小首を傾げるシルヴィアに、セオドールは少し困った顔をした。どう説明していいか迷っている様子だが、彼が纏っている絹衣を見て、ピンときた。
「わかったわ! ドラゴニアの衣服は日本の着物にそっくりだもの。それなら、生地を無駄にすることなく使えるわ」
「ニホンノキモノ? どういうことですの?」
ちょっと待ってと言いながら、ノートの用紙を一枚破って、縦横に線を引く。
前世の世界での文化祭で、盆踊りカフェをした賜物だ。生徒たちと浴衣を手縫いしたから、作り方はバッチリ覚えている。
「ーーはい、できあがり! これを裁断して縫い合わせれば、セオドールくんが着ているような着物ができるわ。着物はドレスの立体裁断と違って、一枚の反物を直線裁断して縫い合わせることで作られているの。だから、捨てる生地がほとんど出ないのよ」
「ほ、本当ですの!? まるでパズルのようですわね……!」
食い入るように用紙を見つめるシルヴィアに、セオドールは笑顔でうなずいた。
『……そのとおりだよ。マリンローズ先生は、ドラゴニアの文化についても博識なんだね』
「まあね。着物は、古くて歴史のある品ほど価値があるとされているわ。きっと、竜人族は寿命が長いから、衣服も耐用年数が長いものが好まれてきたのね。身頃の内揚げや袂に余裕を持たせて仕立てることで、成長期が来て急に背が伸びても調整ができる。ドラゴニア竜王国の伝統を感じる、素晴らしい服飾文化だわ」
『……ありがとう!』
ひときわ嬉しそうに微笑むセオドールの側に、パッと金色のパラメータが現れる。
セオドール・ドラゴニア(??)
【好感度】 100→120
学力 200
魔力 200
強さ 80
リッチ度 180
流行 50→100
可愛さ 150
(おおっ! ついに【好感度】が100を超えたわ! それに、《流行》がびっくりするほどあがったわね。〝宿題のプリント〟に『お手紙』な効果があったように、この補修授業に『お茶会』の効果があるとか……?)
それなら毎週開いてもいいかもと考えていたら、シルヴィアがただならぬ様子で立ち上がった。
「………ふ、ふふっ! 面白いですわ」
「シルヴィアさん?」
「着物!! 伝統!! 服飾文化!! 面白い!! とても面白いですわっ!! ーーアンジェリカ! 確か、先程こう言いましたわよね? 〝ドラゴニアスィーツは国内のみならず、近隣諸国からの観光客からも大人気〟だと!」
「は、はいっ! 毎日飛ぶような売れ行きです!」
「結構ですわ!! サマーパーティーのドレスは、これで行きますわよ! テーマは、〝伝統と調和〟!!」
そうと決まれば全員分の採寸をと、補修授業は急遽中止に。
ドレスを仕立ててもらう皆は、馬車でシルヴィアの屋敷に移動することになった。
パーティーまであと二週間しかない。
それまでに、五着ものドレスや盛装を仕上げなければないのだ。無駄にできる時間はない。
「メルリーヌ女史、早く馬車に乗ってくださいまし!」
「えっ? せ、先生はいいわよ。できるだけ地味なドレスで行って、壁の花になってるから」
「貴女はパーティーの主役ですのよ!? それに、一応と言えども、シリウスお兄様の正式な婚約者なのですから、我が公爵家に恥をかかせるような格好で出席されるわけにはいきませんわっ!」
憤慨するシルヴィアに、既に馬車に乗り込んだ面々は、「ええっ!?」といっせいに騒ぎ立った。
「正式な婚約者!? まさか、本当に婚約してしまわれたのですかっ!? 虫除けだと言われたのに!?」
「はあ!? アンタ、また男に騙されたのか!?」
「マリンローズ先生! ご自身をもっと大切にされてくださいませ!」
『……そんな婚約、今すぐに破棄して……!!』
呆れるレオンハルト、怒るアルベルト、蒼白になるプリシラに、嘆きのあまり聖獣による悲しみの雨を降らせるセオドール。
唯一、シルヴィアだけが素知らぬ顔をしている。
「セオドールくん! 雨を降らすのはやめなさい! 大丈夫よ。実際に婚約を結ぶ時は、誠実に申し込まれたんだから。ーーあっ、アンジェリカ。貴女も一緒に行きましょう!」
あのシルヴィアの屋敷を生で見るチャンスだと、店を出てきたアンジェリカにこっそりと耳打ちする。
しかし、彼女は通りの向こうをじっと見つめたあと、申し訳なさそうに首を振った。
「すみません、お店の片付けがありますから。それに、最近この子がよく動くので、あまり出歩けなくて」
「そう、出産はいよいよ来月だものね。ーーアンジェリカ、今日は本当にありがとう! シルヴィアから悩みが聞けたのは、貴女のおかげよ!」
「いえいえ! わたしは、なにもしてませんよ。……わたしは、自分の我儘のために戦線離脱したダメなヒロインですから」
「えっ?」
「な、なんでもありません! さあ、早くしないと馬車が行っちゃいますよ!」
背中を押されるままに馬車に乗り込まされる。
その後、私はフレースヴェルグ邸に着くまでの間、レオンハルトたちから怒涛の質問責めに遭い、シリウス兄様とのあれこれを洗いざらい白状させられることになってしまった。




