八章⑤
「お忘れですか、シルヴィア様! わたしはプロのパティシエールです! 今まで散々、お貴族様が開かれるあらゆる『パーティー』や『お茶会』に引っ張りだこにされてきました。だから、社交界の内情にはとても詳しいんですよ!」
「た、確かに貴女は稀代の天才パティシエールとして名高いですけれど……で、でも、それとドレスとは関係ありませんわ!」
「同じです! ドレスと一緒で、スィーツも流行が命!! 皆があっと驚くような、最先端を生み出し続けなければ! ーーでも、もしわたしのスィーツに争いを起こすようなメッセージがあるなら、絶対にお出ししませんよ。スィーツは、食べた人を幸せな気持ちにするものです。シルヴィア様が本当にドレスを愛しているのなら、戦争の火種になんか、絶対にしては駄目です」
澄んだ水色の瞳が、真っ直ぐにシルヴィアを見つめた。
穏やかに微笑む金の髪の少女の側に、パッと現れたパラメータの数値に、私は言葉を失った。
アンジェリカ・ロードナイツ(17)
学力 80
魔力 120
強さ 80
リッチ度 110
流行 200
可愛さ 200
(すごいわ、アンジェリカ……!! 流石は社交界にその名を轟かす天才パティシエールね!! 修行の成果もバッチリよ!!)
力強い言葉に気圧され、シルヴィアの白い喉が嚥下する。口元を覆っていた扇が、パチンと閉じた。
「……い、言いたいことはわかりましたわ。ですが、それならどうすればいいんですの!? 〝聖女の衣〟をいくらアレンジしても、波に乗っている〝金の衣〟の流行には敵わない。パーティーまであと二週間しかないんですのよ。今から新たな流行を起こすのは不可能ですわ!」
「その必要はありません! 新たな流行はこの抹茶パフェのように、お客様の前に出した瞬間に生まれるもの。ーーここにいる皆で考えましょう。サマーパーティーの当日に、招待客たちをあっと驚かせるドレスをね!」
「そんな……っ!? そ、そんな、夢のようなドレスを……わたくしに、デザインできるわけがーー」
「シルヴィア嬢。貴女になら、できますよ」
扇を握りしめ、小さく震えていたシルヴィアの手に、レオンハルトのそれが重なった。
強く握り込まれ、彼女は驚きに肩を震わせる。
見つめるレオンハルトの眼差しに、非難の色は微塵もない。温かく、柔らかに、相手の抱える不安を包み込むように、彼は言った。
「やりましょう、シルヴィア嬢。これは、私たちで乗り越えねばならない戦いです。貴女一人を戦地に立たせるものですか。私は、貴女のドレスが誰よりも輝けるよう、舞台を整えます。アストレイアとベオウルフの招待客たちを味方につけておけば、ベスティアがどんな批判をしようが貴女を守れます」
「つまりは、ただの根回しか? 考えが甘っちょろいな、レオンハルト! ーーシルヴィア嬢、ドレスに合わせてレオンハルトの盛装も揃えろ。ついでに、俺とプリシラの分もな! そうすれば、批判する輩自体を潰せるだろ?」
「良いお考えですわ、アルベルトお兄様!」
『……皆、仲間はずれにしないでよ。シルヴィア嬢、ボクの分もお願いしてもいいかな? キミが言った通り、ベオウルフ公国の建国を祝う場は、和平協定の締結を祝う場だ。アストレイアとベオウルフ、調停役を勤めたドラゴニアの王子であるボク。三者が同じ衣装を纏えば、ベスティアにこれ以上の経済侵略をやめるよう、反対の意思を示すことができると思うよ』
平和的にね、とセオドール。
それは魔法大国ドラゴニアからもベスティアに圧力をかけてやろうという、これ以上ない申し出だ。
「み、三つの王家の盛装をわたくしが……!? 確かに、それが実現できたら〝金の衣〟など足元にも及ばないでしょう……で、ですが、素材が足りませんわ! パーティーシーズンで絹は品薄、シャンドラマハール産の上物はベスティアが抱え込んでおります。かといって、安価な絹では国威が損なわれてしまいますわ!」
『……それなら、ドレスの素材はボクから贈らせてもらうよ。ドラゴニアは絹の一大産地だからね。中でも、天叢雲絹と呼ばれる、王家に伝わる門外不出の正絹を贈呈しよう』
その言葉には、この場の全員がどよめいた。
「ドラゴニアの絹を!?」
「素晴らしいですわ! 天に輝く雲に例えられるドラゴニアの絹は、手を伸ばしても決して手に入らない至上の品! これまで、多くの国々が交易を求めましたが、竜王陛下がお許しくださることはありませんでしたわ! そんな絹を、本当に扱わせていだだけるんですの……!?」
『……うん。交易を断るのは理由があってね。他国の衣服は、作るときに絹を無駄にしてしまうからなんだ。でも、今回は特別に許可を取ってあげる』




