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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
4話 餌付けしたのか、されたのか

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4 色々感激

薫たちが鑑賞するプラネタリウムの上映タイトルは「北の国の星空」だった。

 最初暗くなった時、正直眠くなる心配をしたのだが。

 目の前に広がる夜空の美しさに、薫のそんな杞憂が吹き飛ぶ。


 ――すごい、今のプラネタリウムって、こんなにリアルなんだぁ。


 満天の星空とはまさにこのこと。

 薫はこれが作られた映像だとは、信じられない思いだ。

 薫が昔連れて行ってもらったプラネタリウムは、確か公民館が主催した出張版で、ドームなども簡易的なものだった。

 それでもすごいと思った記憶があるが、こちらの最新の投影技術を駆使したものは、本物の夜空を切り取って持って来たようだ。

 更に自動でリクライニングされた椅子の、頭を支えるクッションがちょうどいい心地で、まるで宙に浮いているかのような錯覚を覚える。

 日本では見られない北国の星空とオーロラがとても綺麗で、寝る暇なんかないくらいに見惚れたまま、上映が終了した。


「綺麗でしたねぇ」


「あんな星空は、ここいらじゃ見られねぇな」


明るくなったドーム内で、薫と小坂は立ち上がらずにぼうっと座って会話を交わす。

 まだ余韻を味わっていたいのだ。

 同じように上映終了のアナウンス後も、客のほとんどがすぐに立ち上がれずにいた。

 係員に誘導の声がかけられ、全員がようやく椅子から立ち上がる。


「はぁ、見ごたえあったぁ」


「来てよかっただろう」


感動しきりの薫だが、感動するとお腹が空くというもの。

 ということで、科学館を出た薫たちは、ちょっと早いがお昼にすることになった。

 今日の昼食は、小坂にお任せだ。


「こっからちょっと歩くぞ」


そう話す小坂の先導でしとしとと雨の降る中傘をさして歩いて、連れて行かれた店はというと。


「焼肉?」


そう、焼肉店だった。

 しかも看板を見るに老舗っぽい。


「焼肉とか、美晴と二人じゃ行かないなぁ」


「だろうと思ったんだよ」


どうやら、普段の薫の行動範囲を予測してのチョイスだったらしい。

 なんという心配りか。


「ここな、ランチやってるんだよ。

 冷麺とが美味いぞ」


小坂のお勧めに、薫の目がキラリンと光る。


「冷麺かぁ、あんまりちゃんと食べたことないかも」


それこそ、家族で焼肉店へ食事に行った時くらいだろう。

 そして食の細い薫は焼肉でお腹一杯になるため、誰かの冷麺をちょっと貰う程度。

 でも、冷麺単品なら完食できるはず。

 焼き肉店の冷麺と言えばキムチ。

 キムチも薫の大好物だ。

 期待に胸を膨らませつつ、二人は早速店内へ。


「いらっしゃいませ、二名様ですか?」


「そうです」


迎えた店員にテーブル席へと案内された。


 ――もうお客さんが多いなぁ。


 昼には少し時間が早いかと思っていたのに、座敷席は家族連れの客で結構埋まっている。

 小坂が勧めるくらいだから、人気がある店なのだろう。

 薫は席に着いてメニューを眺めると、予想よりも値段がリーズナブルなことに驚く。

 焼肉というと千円札が数枚飛んでいくイメージだったのに、ランチメニューはどれも基本千円以内。

 オプション代金で、白ご飯をミニビビンバに変えられるのも魅力だ。

 さらにどのメニューにも、もれなく味噌汁が付くというお得感といったらない。


 ――焼肉屋さんを舐めてたわ、私。


 メニューと睨み合ってからしばらくして、店員が注文を取りに来る。


「ご注文はお決まりですか?」


「私は冷麺!」


「俺は焼肉ランチをミニビビンバで。それと冷麺も」


それぞれに注文を告げる。小坂はランチセットに冷麺までとは、相変わらずの羨ましい食欲である。


「では、少々お待ちください」


店員がそう言って下がり、二人はお喋りをしながら料理を待つのだが。

 薫がこの間に気になったのは、テーブルに置いてある自家製コチュジャンの広告だ。


「美味しいのかなぁ」


自家製という響きに弱い薫に、小坂が教えてくれる。


「ここのコチュジャンな、人気あるらしいぞ」


「マジですか!?」


人気があるということは、味も期待できるというもの。

 ワクワクして待っていると、店員が一度テーブルの鉄板に火を付けに来た後、注文した料理が運ばれてきた。


「お待たせしました」


先に運ばれてきたのは、小坂の焼肉ランチセットだ。

 選んだ肉三種類が少しずつ盛られたもので、本気でがっつり食べたいのでなければ、この程度で十分な気がする。

 小坂が選んだのは、ロース・カルビ・牛タンだ。


「キムチとコチュジャンは、ご自由にどうぞ~」


店員がそう言ってドン! とキムチとコチュジャンの器を置いた。

 好きなだけ食べていいとか、天国過ぎる。

 店員が去って、薫が料理を写真で撮らせてもらった後、小坂は早速肉を焼き始めた。


 ジュワァァッ!


 肉の焼ける音というのは、どうして美味しそうに感じるのか。

 いつもこの音と香りに釣られて肉を食べ過ぎて、冷麺にたどり着けないのだ。


 ――けど、今日の私は冷麺を食べるんだもんね!


 「いつものようにはいかないぞ」と、焼肉に対して薫が決意表明していると。


「井ノ瀬も、肉ちょっと食えよ」


なんと小坂に誘惑された。

 戦っている者に向かって、なんという小悪魔ぶりだろうか。

 だがここで遠慮するのも良くないというのは、前回で学んでいる。


「えっと、じゃあちょっとだけ」


答える薫に、小坂はカルビと牛タン一切れずつくれた。


「うわぁ、ありがとうございます!」


「おう、食え食え」


せっかくの好意なので遠慮なく貰い、肉に噂のコチュジャンをのせて食べてみる。


「お肉旨っ、コチュジャンも旨っ!」


これでたくさん食べられるならば、いくらでも食べたくなる。


 ――このコチュジャン、帰りに絶対買って帰る!


 それからビビンバも一口貰ったところで、本番の冷麺が運ばれてきた。

 冷麺は写真映えを意識しているのか、野菜やキムチの盛り付けが綺麗である。

 こちらも写真に収めたところで、早速箸を伸ばす。


「うん、美味しい!」


麺はツルツルもっちりしており、スープは出汁がよく効いている。

 それにキムチの辛味と酸味がよく合っていて、スープと共によく麺に絡む。


「この冷麺の麺って、独特ですよね」


薫はもっちもっちと冷麺を食べながら、感想を漏らす。冷麺の麺は中華麺やうどんなどの麺類より、弾力があって食べ応えがある。


「スーパーで売っているヤツを買って家で作っても、なんかちいっと違うんだよな」


焼肉とビビンバをとっくに食べ終えてた小坂がやはり冷麺を食べて、自炊する者らしいコメントをした。


「やっぱ、自家製麺だからですかね」


「だろうなやっぱり」


それからしばし、二人で無言でもっちもっちと冷麺を攻略する。

 美味しいものを食べる時は、誰しも静かになるものらしい。

 結果として、大満足の昼食であった。

 小坂がこれまた店の名物らしい抹茶アイスまで追加注文し、これも一口貰った次第である。


「ありがとうございました」


「ごちそうさまでした!」


薫たちが会計を済ませ、店を出る際には待っている人が外に並んでいた。


「うはぁ」


「俺ら、運がよかったな」


行列を横目に通り過ぎながら、小坂と話す。

 どうやら早く店に到着して正解だったようだ。

 ちなみに会計の際、もちろんコチュジャンをちゃんと購入した薫だった。


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