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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
4話 餌付けしたのか、されたのか

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2 空き教室に突撃

今日はお菓子同好会の活動日ではないが、薫は図書館で時間を潰して下校時間をずらし、小坂に会いに行くことにした。

 「雅美」という名前について話をしたくなったからだ。

 午前中は晴れていた天気も、午後になると次第に雲が多くなり、今では小雨がしとしと降っている。

 なのできっと屋内で時間を潰しているはずなので、教えられていた場所を覗く。


 ――あ、いた!


 果たして、とある空き教室に小坂がいた。

 そこは生徒数が今よりも多かった時には教室だったが、今では物置と化している場所である。

 窓際の席に座った小坂が、机に伏せて寝ている。

 そこへ、ドアの隙間から声をかける。


「まさみん先輩発見!」


ガタッと椅子を蹴立てて起きた小坂が、驚いた顔でこちらを見た。


「……井ノ瀬か、あービビった」


そう言って再び座り直したところで、はたと気が付いたように眉をひそめる。


「ていうか、まさみんってなんだ」


小坂だってきっと、そんな呼ばれ方は今までされたことがないだろう。

 薫だって、小坂と交流を持たなかったら、こんな呼び名をする勇気はない。

 女の子をいきなり殴るような人ではないと知っているからこそ、出来る暴挙である。


「矢口先輩に聞いたんです、小坂先輩のフルネーム」


「……んのやろ、余計なことを言いやがって」


薫がそうバラすと、小坂が渋面になる。


「いいじゃないですか、マサミって名前、ウチのクラスの男子にもいますって」


薫はそう話しながら、小坂の元まで歩み寄る。


「字が悪い、親ももっと考えやがれってんだ」


確かに、せめて字を代えてやればよかったのにと、薫も思わざるを得ない。


「小学生の頃は、この名前でよくからかわれたな。

 クラスに同じ名前の女子がいたから、余計に」


小坂は今では立派な体つきをしているが、小学生の頃はあまり体格が大きい方ではなかったそうで。

 からかわれやすい男子だったのだそうで。

 今の小坂からすると、意外なエピソードだ。


「でも、からかった奴はボッコボコにしてやったけどな。

 それでよく親を呼び出された」


前権撤回、全然意外なエピソードではなかった。


「子供の頃の写真とか、ないんですか?」


興味津々と顔に書いてある薫に、小坂がしかめっ面をする。


「あっても見せるか、馬鹿野郎」


つまり、見せたくない写真であると。これはますます見てみたくなる。


 ――矢口先輩、持ってないかな?


 今度会った時に、ぜひ聞いてみよう。


「で、矢口さんとどこで会ったんだ?

 三年とは教室が離れてるだろう」


そう尋ねられ、薫は前の席に座って答える。


「昼休みに売店に行った時です。

ヌシ猫と遊んでいたら現れたんですよ」


「ヌシ猫って、あのぶっとい奴か」


小坂までぶっとい発言である。


「あの子はぶっといじゃなくて、貫禄があるんです」


「同じじゃねぇかよ」


薫の抗議も、いまいち小坂に通じていない。

 あんなに猫らしい貫禄をしているのに、ぶっといなどと言われるのは可哀想だ。


 ――あの貫禄がいいのに。


 薫が不満気に頬を膨らませると、小坂に指で突かれて空気が抜ける。

 「ブブッ」と間抜けな音がした。

「アイツに貫禄があるかはともかくな、矢口さんは無類の猫好きだ。

 猫を見かけると追いかける習性があるらしいぞ」


なるほど、だから前回も今回も猫きっかけだったのか。

 納得の理由である。


「今度からはヌシ猫を見たら、矢口先輩がいないか探してみることにします」


いきなり背後から声をかけられるのは、やはりドキッとするので、次があるなら先手を打ちたいところだ。

 そして薫はせっかく会ったのだからと、小坂相手にお喋りに花を咲かせる。

 最近は空手部の練習終わりにお邪魔するため、あまり話す時間がとれていなかったりする。

 薫たちの雑談に、矢口を付き合わせるのも可哀想なので。


「聞いてくださいよ! 今日の授業でですね……」


身振り手振りを交えて話す薫に、小坂も「ウザい」なんてことは言わず、たまに「なんだそりゃ」とツッコミを入れながら聞いてくれる。

 案外聞き上手なのだ。

 喋り続けていると、いつの間にか時間は過ぎていて。


 キーンコーンカーンコーン♪


 下校を促す鐘が鳴った。


「あ、そろそろ帰らなきゃですね」


薫が席から立ち上がって鞄を持つと。


「井ノ瀬」


「はい?」


呼ばれた薫が返事をして座ったままの小坂を見下ろすと、先程までと違って真面目な顔をしている。


 ――なんだろう、マズいことでも言ったりしたかなぁ?


 薫が自分の言動を振り返っていると。


「お前、俺と話して楽しいか?」


小坂がそんなことを尋ねてきた。


「結構楽しいですけど」


小坂は薫と全く違う環境で育った人なので、会話をしていて共感ポイントが少しズレていたりする。

 こうした違いが新鮮なのだ。

 薫が即答すると、小坂はなにか言いたそうな顔だったが、それを飲み込むようにする。


「あー……、ならいいんだ」


そして誤魔化すようにそう言った。


 ――なんだろう、今の?


 首を傾げて見つめる薫に、小坂が咳ばらいをする。


「もうすぐ期末テストだろう。前に約束したし、テスト前にどっか行くか?」


「……! はい、行きたいです!」


なんと、あちらの方から誘われた。

 小坂とだったら、美晴とは行けない激辛店へ行ける。

 お店によっては、女子二人だと入り難い所だってある。

 前回行った中華食堂がいい例であろう。

 食事だけではなくて、どこかをブラブラして遊ぶのも楽しそうだ。

 薫が行かなそうな場所を、小坂なら知っているかもしれない。


 ――うわぁ、うわぁ! どこに行こうかな!


 薫は今からワクワクするものの、一つだけ小坂に釘を刺しておかねばならない。


「変装は眼鏡もですからね!」


「……用意しとく」


こうして、テスト前のお出かけが決まった。

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