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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
3話 秘密のカンケイ?

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1 雨の日の出会い

五月の後半に入れば、梅雨の走りがやってくる。


「やだなぁ、雨って」


薫は午後の授業の間の中休みに一人でトイレに行った帰り、空を見上げて呟く。

 朝から降っていた雨が止んだものの、空は未だどんよりとしている。

 雨除けに雨具を来て自転車を漕ぐのも暑苦しいし、空気がジメジメするし。

 とにかく嫌だ。


 ――それに、さすがに小坂先輩もあそこに座ってないだろうし。


 放課後に実習棟近くで時間を潰している小坂だが、雨が降ればさすがに屋根がある場所に移動するだろう。

 それを連絡を取ってわざわざ追いかけるのも、薫の立場としてどうだろうか。

 小坂と薫の関係は高校の先輩と後輩で、週に二回のお菓子同好会の活動後も、特別待ち合わせているわけではない。

 ただ偶然行き会ったのが、ズルズル続いているだけ。


 ――こういう関係ってなんていうの?

 友達、スイーツ仲間、もしくは試食係?


 言葉で表そうとすれば悩むところだ。

 薫がこんなことをつらつら考えながら、一人トイレから教室に戻る途中。


「お、猫がいる」


窓の外に一匹の猫の姿が見えた。

 茶虎模様の猫はこの学校を縄張りにしているようで、一階にある一年生の教室からたまに見かけるのだ。

 薫は渡り廊下に出て猫のいる場所まで行ってみると、一所懸命毛繕いをしている。


「お前も、雨が上がったから出て来たのかなぁ?」


薫が毛繕いの邪魔をするまいと、眺めるだけにしていると。


「お、にゃんこ二匹発見」


背後からそんな声をかけられた。


「え?」


薫が後ろを振り向くと、身体が大きな男子が一人立っている。


 ――でも、二匹?


 今ここに一匹いるが、どこかにもう一匹いるのだろうか。

 キョロキョロとする薫に、その男子が話しかけて来た。


「お前、小坂のにゃんこだろう」


「……は?」


小坂というのはあの小坂のことだろうが、にゃんことはもしかして自分のことか。

 呆気にとられる薫の隣に、その男子もやって来て屈むと猫を眺める。


「コイツはこの学校のヌシみたいな奴でな、ふてぶてしい顔をしてるし」


確かに、この猫は愛らしいというよりふてぶてしい顔つきをしている。

 そこもまた猫っぽくていいのだが。


「やー、それにしてもここで会ったおかげで、雨の中待ち伏せする手間が省けた。

 このヌシ猫はいい仕事をする」


男子は一人ウンウンと頷いている。

 衣替えで上着がないため校章での判断ができないが、相手が先輩っぽいのは間違いない。

 その先輩っぽい男子が、薫に尋ねる。


「小坂のにゃんこはあれだろ?

 今日はお菓子同好会の日」


誰かに聞かれると誤解を招きそうなあだ名である。

 それにしても薫のことを知っている風だが、小坂から聞いたのだろうか。


 ――そんな世間話とか、する相手いなさそうなのに。


 それにしても、相手の呼び方がいただけない。


「『小坂のにゃんこ』って呼び方止めませんか。

 私は井ノ瀬です」


にゃんこ呼びを修正しようとする薫に、その男子がニカッと笑う。


「おう、名前までは知らなかった。

 井ノ瀬か、俺は三年の矢口だ」


やはり先輩、しかも小坂よりも上の三年生だった。


「小坂とは昔なじみでな、それなりに付き合いがあるんだ。

 で、今日の同好会終わり、空手部の練習場を見に来るように」


小坂との関係から、いきなり話がとんだ。


 ――空手部って何故に?


 それに先日、小坂関連でえらい目にあったばかり。

 なのに安易にのこのこと付いて行っていいものか。

 警戒心が沸き上がる薫に、矢口は「あ、そうか」と呟く。


「呼び出し事件に巻き込まれたばっかだっけか。

 そういうんじゃないから安心していいぞ。

 ただ、覗きに来たらイイコトがあるんだ」


 ――イイコト?


 「そういうのじゃない」という本人の意見を、どこまで信用していいのだろう。

 それに要領を得ない話だが、矢口はそれ以上の詳しいことを言いたがらない。


「ここで喋ったら楽しくないだろ?」


そう語る矢口だが、初対面の先輩にサプライズをされる謂れはない。


「絶対楽しいから、な?」


「はぁ……」


困惑する薫だったが、押しの強い矢口に負けて、結局ちらっと覗きに行くことを約束させられた。


 ――イイコトってなんだろう?


 薫が首を捻りながら教室に戻ると、ちょうど予鈴が鳴った。


「遅かったじゃない、トイレ混んでたの?」


薫が自分の席に戻る途中、美晴が教科書を机に出しながら尋ねて来る。

 薫が中休みになってすぐにトイレに行ったので、お喋りする暇がなくて暇だったらしい。


「ううん、猫がいたから」


「ああ、あのぶっといにゃんこね」


薫がそう話すと、美晴も猫の見当が付いたようだ。

 けれどぶっといとはなんだ、せめて貫禄があると言ってやって欲しい。


「あの猫ね、この学校のヌシなんだって」


「へー、誰から聞いたの?」


あの猫についての新情報に、美晴からの何気ない質問に、薫は一瞬迷う。

 小坂と会っていることを秘密にしたら、必然的に矢口とのことまで言い辛くなるもので。


「通りすがりの先輩から」


薫がそう誤魔化してから、自分の席に向かう。

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