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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
2話 不良とエリートと巻き込まれた私

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8 ヒーローは遅れてやって来るもの

***


「あー、バックレてぇ」


小坂はとあるレストランのトイレで一人、呟いた。

 今夜は両親の結婚記念日のお祝いで、家族で外食することになっていた。

 家族で食事という、思春期の男子にはいささか憂鬱なイベントである。

 待たせても面倒なので、トイレから家族の待つ場所へと戻る途中、スマホを見る。

 するといつの間にか、一件の着信が入っていた。

 誰からだろうとチェックすると。


『お前のオンナを預かった』


そんな文面が目に飛び込んで来た。


「……は?」


小坂はなんのことかと眉をひそめた直後、いつかの屋上での矢口の「不良狩り」についてのこんな言葉を思い出す。


『その「不良狩り」をしているのが、エリート高校のお坊ちゃまだという噂もある。

 小坂お前、こういうことしそうな奴に覚えがあるだろう?』


 ――まあ、あるっちゃあるけどな。


 中学まで空手道場に通っていた小坂だが、これは両親との約束だった。


『試合や大会はどうでもいいから、中学卒業までは空手道場に通うように』


恐らく小さい頃から腕っぷしの強かった小坂に、暴力との付き合い方を教えようとしたのだろう。

 優勝や段位に興味がなかった小坂は両親との約束通り、中学まで道場に通って稽古をするだけだった。そこで知り合ったのが、矢口なのだが。

 それでも道場同士の練習試合など、小さなイベントはあるもので。

 基本負けず嫌いではある小坂なので、そうした試合で負けたことはない。


 そんな中、中学の頃に妙に執着された奴がいた。

 どこぞの金持ちのお坊ちゃまで、大会で同世代に負けたことがないという、鳴り物入りの相手だった。

 これまで大会出場経験のない小坂を、情報だけで運動のために道場に通うひ弱な相手だと侮っていたのだろう。

 当時は髪型をいじっていなかったので、それなりに周囲に溶け込めていたのだ。

 それで、結果瞬殺してやったのだが。


『運がよかったな!

 僕が体調が悪かっただけで、お前が強いわけじゃない!』


まるで漫画のような負け惜しみを言って来たのだ。

 それ以来、妙に敵視され絡まれるようになったが、中学を卒業すると道場通いも卒業となり。

 その人物ともおさらばとなってホッとしたのだが。

 道場に通わなくなった小坂を未だ敵視しているようで、なにかと対抗心を燃やしているらしい。

 その人物が進学したのが、修栄館高校。このあたりの地域では有名なエリート進学校である。


 ――「不良狩り」とか、好きそうではあるな。


 そして今のこの文面。

 気になるのが「オンナ」という言葉だ。

 今の小坂には、「オンナ」と言われて思い当たるものがある。

 つい最近、街を連れ歩いた女子がいるではないか。


「……まさかな」


顔色を変えた小坂は一人、店を飛び出す。

 幸い指定された場所はここから近い。

 店を出た小坂の姿が見えたのだろう、姉から電話がかかってきた。


『ちょっとアンタ、どこにいるのよ?』


「悪い俺、ちょい用事ができた!

 勝手にやっといてくれ!」


『は!? なによいきなり!』


電話でそう断った家族は大騒ぎだったようだが、こちらもそれどころではない。

 小坂が走っていると、再びスマホが鳴る。


『お前のオンナを預かった』


また同じ文面で、今度は動画が添付されていた。

 走りながら、動画を再生してみる。


『なにすんのよ、触るなぁ!』


『いいから、大人しくしてろよ!』


暗い倉庫のような場所に、複数の男子高校生らしき声と、聞き覚えのある女子の声。


 ――これ、やっぱアイツか!?


 それに映っている男の制服は修栄館高校のもの。

 それに、動画につけられた文面がこれだ。


『皇帝からキングへの招待状だ』


「……んのやろう、調子に乗りやがって」


今は速度を上げ、全速力で走るしかない。


***


「なにもされてねぇか!?」


小坂の声が聞こえた途端、薫は目からブワァっと涙が溢れた。


「せんぱいぃ! とりあえずぱんつは死守してますぅ!」


上半身は守れているか若干怪しいが、下半身は無事だ。

 三人から寄って集られている薫の様子に、小坂が怒りの形相になる。


「てめぇら、しばらく人前に出れねぇツラにしてやんよ!」


吠えるように叫ぶ小坂に、三人がビクッとして数歩下がる。


「なんだよ、大声でビビらせやがって!」


「所詮一人じゃないか」


「お前も狩ってやる!」


しかし相手はたった一人と考えた三人が、それぞれ金属バットや鉄パイプなどを持って、小坂に襲い掛かる。

 しかし――


「ぎゃ!」


「うぎ!」


「ふぐ!」


殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ。

 三人はあっという間にボロ雑巾の方がマシな様子になり下がった。


 ――先輩、強い!


 最凶最悪の不良という噂は伊達ではないらしい。


「お坊ちゃんは家で寝てろっての」


小坂は三人にそう吐き捨てた。

 そして残ったが、離れた場所に居たあの彼だが。

 彼は三人がタコ殴りされている間に、薫の側に移動している。


 ――しまった、逃げとけばよかった!


 薫は小坂の暴れっぷりをぼうっと観察してしまっていた。


「あいつらは所詮、この程度の役にしか立たないか」


そう告げた彼は薫を逃がさないためか、片足を体重をかけて乗せ、肩に手をかけてきた。


 ――なにさ、カッコつけちゃって!


 しかし今は彼一人だけ。脱出のチャンスに、薫は手に持っていたモノを準備する。


「小坂! このオンナを助けたければ……ブッフォ!?」


彼は格好良く悪役のセリフを言うつもりだったのだろう。しかし最後まで台詞を言うことができなかった。

 何故なら、薫がずっと隠し持っていた七味爆弾が、彼の顔面にさく裂したからだ。


 ――うげ、ちょっと被った!?


 自分にまで被害が及んでしまったが、とにかく足が退いてヨロヨロしている彼の側から転がって離脱して、駆け寄る小坂の足元まで到着する。


「先輩遅いですよぅ!」


転がったままべそをかく薫に、しかし小坂が怪訝な顔をする。


「オイ井ノ瀬、なんでそんなもん持っているんだ?」


小坂の視線の先にあるのは、薫の手にある七味唐辛子の瓶だ。


「だって、先輩がケーキを投げるなって言ったから」


代わりに投げるものを持ち歩いていたまでである。

 一方、なんとか持ち直したらしい彼だが。


「小坂、格好つけていられるのも今のうちだぞ、キングなんかと呼ばれていい気になってるなよ!」


真っ赤な目で忌々しそうに小坂を睨む。唐辛子が目に入ったらしい。


「ソレ、俺が名乗ったんじゃねぇし」


「うるさいっ!」


小坂が鼻で笑うと、彼が殴り掛かって来た。

 しかしそれを、小坂は軽く受け止める。


「くそぅ、目障りなヤツめ!」


彼が小坂に向けて突きを繰り出す。

 武道でもやっているのか、瞬殺された三人に比べて身のこなしもよく、なかなか鋭い。


「てめぇが勝手に俺の前をチョロチョロしているだけだろうが。

 エリート様なら大人しくオベンキョしとけよ」


 だがそれを、小坂が軽くいなす。


「なにをぉお!」


「それにしても、なぁーにが皇帝だ馬鹿野郎が!」


「きさまがキングなら、僕が皇帝なのは当然だろう!」


「王様ゴッコは家でやりやがれ!」


そんなアホっぽい会話をしながらも、二人の間で攻防が繰り返されれる。

 しかし、それもそう長くは続かず。


「いっぺん死んどけ、この野郎!」


「うぐっ!」


小坂のストレートパンチが決まったところで、あっさり勝敗は決した。

 というか彼は七味爆弾のせいで涙目で、視界が悪かったのかもしれない。

 それで実力を発揮できなくても、自業自得である。

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