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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
2話 不良とエリートと巻き込まれた私

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13/31

7 待ち人来たらず

薫が見上げると、そこにいたのはあの公園にいた体格のいい男子だった。その後ろには残りの三人もいる。


「ねえ、これってどういうこと?」


薫が目の前の彼に疑問をぶつけると。


「さすが三校、頭よわーい!」

「拉致られたに決まってるだろう」

「餌だよ餌!」


彼の背後にいる三人が、囃し立てるように喚く。


 ――拉致? 私が? この人たちに?


 エリート高校の生徒が自分を拉致する意味がわからない。呆ける薫に、彼がしゃがんで話しかけて来た。


「キミ、いつかキングと歩いてたでしょう?」

「……キング?」


 ――ってなに? ミュージカルかなにか?


 キングと言う単語で薫にとっさに思い浮かぶのは、有名なライオンのミュージカルしかない。それと歩いていたとは、どんな謎かけだろうか。首を捻る薫に、相手は焦れたような顔をする。


「惚けたって無駄だよ。三校の小坂と、仲良さそうに歩いてたじゃないか。僕、見ちゃったんだよね」


 ――え、キングって小坂先輩のことなの?


 こんな状況にも関わらず、薫は吹き出しそうになった。しかし笑っていい状況でないのは重々承知なので、懸命に堪えて頬をピクピクさせるに留まった。

 それにしても、なんだからしいというか、似合うというか。一体誰が言い出したあだ名なのだろうか。

 緊迫した場面なのに妙に脱力してしまった薫に、彼は話を続ける。


「小坂にオンナが出来たなんて、見逃せないネタだろう?」


 ――オンナって、私のこと?


 薫は目をパチパチさせる。

 この場合のオンナとは、付き合っているとか恋人という意味合いで使われているのだろう。薫の場合、ただ激辛巡りに付き合ってもらっただけなのに。


 ――それにしても小坂先輩、変装失敗じゃないですか!


 他校の生徒に身バレしているなんて、変装の意味はあったのだろうか? 今度はよりバレないように、付け髭付き眼鏡でもかけてやろうか。いや、そんなのの隣を歩くのもちょっと嫌だ。

 妙なことに悩む薫を余所に、彼らはこちらの品定めをする。


「こんな地味なのが趣味とか、意外~」

「身体で堕としたに決まってんだろう?」

「味見しちゃう?」

「やめとけ、病気うつされるのがオチだぞ」


 ――失礼! コイツら色々失礼!


 盛り上がる彼らを、薫は憤然とした気持ちで睨みつける。しかし男子対女子、四対一、どう考えても変に抵抗したらひどい目に遭いそうだ。しかし、このまま大人しくしていていいはずがない。


 ――それにしても、私って馬鹿だなぁ。


 思えば知らない相手に、のこのこと付いて行った薫も迂闊だった。

 まだ学校が終わったばかりの明るい時間であること、そして相手が見知らぬ男子でもエリート高校の生徒で、変なことをするはずがないという思い込みがあり、警戒心が働いていなかったのだ。「知らない人には付いて行かない」なんて、今時幼児でも知っている注意事項なのに。


 ――私、どうなるんだろう……。


 落ち着いてくると不安と恐怖に襲われ出した薫は、転がされた床の冷たさと相まって、ブルりと震える。


「心配ない、僕らは乱暴者の不良連中とは違うからね。大人しくしておけば、なにもせずに帰してあげるよ」


そう言って、彼が優等生っぽい顔でニコリと笑った。


 ――拉致っといて言うセリフじゃないし!


 彼のその優等生っぽい笑い方が、逆に彼を薄っぺらいものに見せる。薫はどちらかというと、小坂のちょっと幼く見える笑い方が好きだ。

 これまで聞いた話を繋ぎ合わせると、彼らは薫を餌にして小坂を呼び寄せたいらしい。ならば自分は小坂が来るまで、ここで踏ん張らなければならない。


 ――アレ、ちゃんとある?


 薫はガムテープでぐるぐる巻きにされた両手で、スカートのポケットに忍ばせていたはずのブツを確認する。ちゃんと固い感触を確かめると、出来るだけ静かにモゾモゾとして、なんとかポケットから出して手の中に納めた。



それからしばらくして。


「……なんで返事がないんだよ」


彼は苛立っていた。何故なら、小坂に連絡を入れたのに、なんの音沙汰もないからだ。


 ――そう言えば先輩、用事があるんだったよね?


 ならば、スマホを見ていない可能性がある。


「あのぅ、先輩今日は忙しいって言ってたような……」


薫がそう進言しようとすると。


「今度は写メ送るか?」

「少し過激なくらいがインパクトがあるかもな」

「裸に剥いた動画はどうだ?」


他三人から、そんなとんでもない提案がなされていた。


「……それもいいかもな」


しかも彼もそれを容認する。


 ――なにもしないんじゃなかったんかい!


 あっさりと前言撤回する彼に、そもそも悪人を信用すべきではなかったのだと、薫は悟る。


「よし、いい絵を撮るぞ」


三人の手が伸びて来る。どうやら彼は高みの見物のようで、後ろで悠然と立っているのがまた憎らしい。


「なにすんのよ、触るなぁ!」

「いいから、大人しくしてろよ!」


大人しくと言われて、本当に大人しくする馬鹿がどこにいるのか。それに裸に剥かれてそれで終わりだなんて思うほど、そんなおめでたい頭もしていない。

 これは、まさに貞操のピンチだ。


「うぎぃ!」

「うわ、噛みつかれた!?」

「おい、コイツ意外と凶暴だぞ!」

「小坂め、どんなシュミしているんだか」


薫の制服を巡る攻防の中、思いっきり胸を掴んだ手がある。


 ――今、胸揉んだヤツ誰だ!?


 ジロリと睨めば、鼻の下を伸ばしたメガネがいた。とりあえずそいつの鼻っ柱めがけて、ガムテープで巻かれた両手を振り上げておく。美味い具合にかすったらしく、痛がって手が引っ込んだ。

 こんな状況ながら幸いなことに、少なくとも彼以外の三人は腰が引けているというか、乱暴をするのに慣れていない節がある。薫の制服に何度か手がかかるものの、自分が最初に事を起こすのを無意識に忌避しているのか、すぐにパッと離れるのだ。

 これは小坂が現れるまで、粘れるかもしれない。

 薫は三人に抵抗して思いっきり暴れながら、両足をピタリと閉じて必死に蹴りを繰り出す。胸を揉まれるのも気持ち悪いが、最悪スカートの中身だけは死守である。


 ――っていうか、見捨てないでよね先輩!?


 薫がそう祈りつつも、上着が三人の手によって半ば剥され。見えた下着に、三人が興奮した息遣いが聞こえる。

 いよいよヤバいと、手の中に持っているモノを使うタイミングを見計らっていた時。


 ドガァアン!


 倉庫の鉄扉が鳴った。


「……来たな」


彼が視線を鉄扉に向ける。


 ドガァアン!


 もう一度音が鳴ると、もともと蝶番が壊れていた扉が開く。

 果たして、そこにいたのは。


「井ノ瀬、無事か!?」


 ――小坂先輩だぁぁあ!


 薫はこの時の小坂に後光がさして見えた。


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