表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
2話 不良とエリートと巻き込まれた私

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/31

4 怪しむ美晴と、その時小坂は

ゴールデンウィーク明け。教室では連休中になにをしたかの話題で溢れていた。

 その中で、美晴相手に熱心に語るのは薫である。


「でね、麻婆豆腐がすっごく辛かった!

 そして美味しかった!」


麻婆豆腐だけではない、ノーマークだったエビチリとの出会いも忘れてはならない。

 そしてなにより、甘味のコーヒーゼリーでシメることができたのだ。


 ――完璧な一日だったなぁ。


 薫は語りながらも幸せの記憶を反芻して、うっとりとした表情である。

 一方そんな薫と裏腹に、冷たい視線を寄越してくるのが美晴だった。


「へえ、薫一人で行って来たの?」


「……うん?」


薫が自分の世界にトリップしていたのから戻ると、美晴はなにかの犯人を見るような目でこっちを見ている。


「ずいぶんたくさん食べたみたいだけど、アンタ食細いじゃない。

 食べきらなかったんじゃない?」


 ――しまった!?


 美晴の鋭いツッコミに、幸せなあまりしゃべり過ぎたことに気付く。

 男、しかもあの小坂と行ったとか知れたら、なにを言われるかわからない。

 ここはとにかく誤魔化す場面だろう。


「……それは、手伝ってもらったっていうか」


「誰に?」


「……弟とか」


「アンタの弟、『おねーちゃんとお出かけ♪』とかするタイプじゃないでしょうが」


 ――ヤバい、美晴が名探偵だ


 これ以上はボロを出さないために、沈黙が金である。

 しかし黙ったことこそ「怪しんでください!」と言っているようなもの。

 加えて、薫はあまり口が上手い方ではない。


「薫ぅ? 私たち親友よねぇ?」


笑顔が怖い美晴への、答えに窮した薫だったが。


 キーンコーンカーンコーン♪


「あ、予鈴! 席に戻らなきゃ!」


いつもギリギリまで駄弁る薫は、この時ばかりは天の助けとばかりに美晴から離れた。


「……怪しい」


美晴の視線が、いつまでも薫を追っていた。

 その後も一日、美晴の追及は続く。


 ――美晴もしつこいなぁ


 これも、彼氏いない歴イコール年齢仲間故なのか。


***


連休明け初日の昼休み、茶髪のソフトモヒカン頭な男子の姿が屋上にあった。

 そう小坂である。

 この季節に昼食をとるのは大抵ここなのだ。


 ――けど、ここももうじき駄目だな。


 既に日差しがジリジリとしてきており、もう少しすればコンクリートの熱で居られなくなるだろう。

 そうなると、涼しい木陰に避難場所を代えるだけだが。

 パンとお茶を昼食に、なんとなく屋上から下を眺めていると、ここ最近で見慣れた姿を発見した。


 ――井ノ瀬だ。


 飲み物を買いに行くのか、購買のある方へと友人らしき女子と一緒に歩いている。

 あれが話していた「美晴」だろうか。


「変な奴だな、アイツも」


井ノ瀬薫という人物は、どちらかと言えば背が低く、ショートヘアにパッチリとした目という外見があいまって、小動物めいた雰囲気の女子である。

 どちらかと言えば猛獣系であろう小坂とは、合いそうにない存在なのだが。

 何故か懐かれてしまった。


 これが腕っぷし自慢の男どもなら、「ウザい」とばかりに蹴散らせば済む話だ。

 しかし薫はそうではない。

 しかも話すきっかけを作ったのは自分の方だったりする。

 けれどあの時は、こうまで懐かれるとは思っていなかったのだ。


 ――実際、最初すっげぇビビられてたしな。


 小坂がなんとなく薫の動きを目で追っていると。


「おー、やっぱここだった」


開けっ放しの屋上のドアの方から、声がした。


「おっす、俺もここで飯を食うぞ」


そう言ってやって来たのは、背が高くて体格のいい男子だった。

 名を矢口といい、小坂の一つ年上の先輩で、中学まで所属していた空手道場で世話になった人である。

 矢口は小坂の隣に座るとさっさと大きな弁当箱を広げ、豪快に食べ始める。


「矢口さん、いきなりなんスか」


友人の多い矢口が昼休みに、弁当を食べるためだけにこんな屋上まで上がってこないだろう。


「おう、察しがいいな」


矢口が頬張っていた弁当をごくんと飲み込み、ニヤリと笑った。


「おめぇ知ってるか?

 二年のヤツが『不良狩り』とかいうフザけたのにやられて、入院中とかいう話」


「いや? 初耳です」


 ――そう言えば、ちょい廊下が静かだとは思ったか。


 どうやらそれは、いつも騒がしいのが休んでいたせいらしい。

 基本一人が好きな小坂は、あまり他人とつるむことをしないので、こういう話が入り辛いのだ。

 そんな小坂も「不良狩り」というのは聞いたことがある。

 このあたりの地域でいわゆる不良と呼ばれる連中が、ボコられて病院送りにされているという事件だろう。


 「狩り」のターゲットにされているのはいつも、イキがっているが腕っぷしがあるわけでもないハンパ者ばかり。

 一部の世間では持て囃されているようだが、弱い奴を狙って悦に入っているだけの、下種な連中だ。


「それに連休中にヤラれたらしくてな、今朝俺の耳に入って来た」


「あー、ハメ外して狙われたってか」


あの連中はまさしく通り魔のようなものなので、やられた奴は運がないとしか言いようがない。


「そんでな?

 ボコられた後、相手さんがお前の名前を言っていたらしい」


『お前のところのキングに言っておけ、次はお前だとな』


そんなセリフを残されたのだそうだ。


「はぁん、俺を名指しねぇ」


ここは「ご指名ありがとうございます」とでも言うべきか。

 それにしても、誰が言い出したのか知らないが、その「キング」というあだ名は止めて欲しい。


「ま、喧嘩を売られたら返り討ちにしてやりますけど」


「お前なら平気だとは思うが、一応気ぃ付けとけよ?」


そして色々と喋りながらも弁当を食べ終え、用事が済んだ矢口が立ち上がると、ふとこちらを見下ろした。


「それとな。一年の女子に餌付けされてんじゃねえぞ?」


「……!」


言われた内容に、小坂は一瞬固まる。


「練習帰りに二人並んで座っているのを見た時、笑いそうになったぞ」


ニヤニヤしている矢口に、小坂は顔をしかめた。


 ――最悪だ


 まさか見られていたのに気付かなかったとは、不覚である。


「……矢口さん、なんでアソコ通ってるんスか?」


部活動の生徒が体育館との行き来に使う道ではないはずだ。

 具体的には、実習棟を使う自転車通学の一年生しか通らない。

 二年と三年の自転車置き場は違う場所だからだ。

 そして実習棟で活動する部活動は、他には科学部しかない。

 故にあの時間通るのは、調理室を出て自転車を取りに行く薫くらいである。


 人が通らないからこそ、あそこで暇を潰しているのに。

 しかも薫が通るのは、部活動の大半が帰った後くらいだ。

 この疑問に、矢口が答えたところによると。


「部長会議で遅くなってな?

 猫を追いかけて、たまたま通ったんだよ。

 安心しな、誰にも言ってねぇから」


だそうだ。そう言えば猫好きなのだ、この男は。


「それにしても緩んだ顔してまぁ、三校のキングが形無しだな?」


矢口はとても楽しそうだ。


 ――ヤベぇ、しばらくイジられる


 矢口の笑い声が校舎内に消えていく中、小坂は片手で顔を覆った。


***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ