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辛い×甘い=恋の味?  作者: 黒辺あゆみ
2話 不良とエリートと巻き込まれた私

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9/31

3 ついでに甘味も

お腹も胸もいっぱいになったところで、二人は店を出た。待っている客のためにも、長居は厳禁である。


 ――私はすっごい満足なんだけど……。


 小坂の方はどうだろうか? 薫の弟だと「今から本番!」だとか言いそうだが。食後のデザートなんかはいらないのだろうか?


「先輩、甘いものも行きますか?」


薫がうかがうように見ると、小坂が見下ろしてきた。


「お前は入るのかよ?」


薫の腹具合を気にしてくれるらしい。


 ――少し歩けば、一口分くらいは入るかな?


 今幸せな気分なので、一口のために頑張れる気がする。


「食べれなくても、鑑賞するのは好きです。でも一口貰いたいです」


一口しか食べられないので、率先して甘味へ突撃はできないが、付いて行くのは大歓迎。薫の立場としてはそんな微妙なものなのだ。


「ま、お前がいいって言うなら、行くか」


やはり小坂は物足りなかったらしく、すぐにその気になる。

 というわけで、薫たちは甘味巡りもすることとなった。


「食べるのは先輩ですから、店のチョイスは任せます」


薫がそう告げると、小坂はしばし考える素振りをする。


「クドいもん食う気分じゃねぇなぁ」


小坂がそんなことを呟きながら歩き出す。


「あ、私の消化促進のために、遠回りでよろしく!」

「……のんびり歩くか」


薫のお願いに、小坂は面倒がらずに頷いてくれた。出会った最初のイメージとは違い、なかなか親切な不良である。

 近くに広い公園があったので、そこを散歩しながら進み、しばらくしてたどり着いたのは。


「喫茶店、ですか」


薫は看板の下がった古めかしい造りの建物を観察する。先程の中華食堂とは違って行列もなく静かで、いかにもツウが通いそうな店である。

 薫一人だと入り辛いであろう店の入り口を、小坂は物怖じせずに開ける。


「いらっしゃいませ」


いかにも「マスター」といった雰囲気のおじさんが、カウンターから落ち着いた声で挨拶をする。

 時刻は昼を過ぎたところで、店内には数人客がいる。食後のコーヒーを飲みに来た人たちだろうか、年齢層は若い人から年倍まで幅広い。


 ――なんか、先輩のイメージと合わない店だなぁ。


 不良はこんな喫茶店を知っているものなのだろうか。首を捻る薫を余所に、小坂は丁度開いていたボックス席へと向かう。


「ここ、コーヒーが美味いんだけどな。コーヒーゼリーもイケるんだ。井ノ瀬、ゼリーなら食べれるんじゃないか?」


小坂が席へ座りながら、そんなことを言う。


 ――まあ、ゼリーってほぼ水分だし。


 スイーツの中でも薫に優しい部類だろう。そこまで考えてくれてのチョイスだとしたら、少し、いや、かなり嬉しい。


「ふへへ」


薫は変な声を漏らしつつ、メニューを見る。コーヒーの種類が豊富で気になるところだが、ここはやはり小坂お勧めのコーヒーゼリーだろう。

 二人でコーヒーゼリーを注文したところで、薫は気になることを聞いてみた。


「先輩、このあたりに詳しいですね」


小坂を誘った時は、これほどこの場所に詳しいと思わなかった。

 疑問顔の薫に、小坂がネタばらしをする。


「小学校まではこの近くに住んでたからな。今でもよく出てくるし」


 ――なるほど、元地元か。


小坂がこの辺りを歩き慣れていると思っていたが、やはり土地勘があったのだ。今でも遊びに来るのも、地元では顔バレしやすいのと、慣れている土地だということがあるのだろう。


 ――小学生の頃の小坂先輩か、その頃はそれなりに可愛かったのかなぁ?


 それとも当時から恐れられる存在だったのだろうか。いわゆる悪のカリスマという奴である。なんとなく、カリスマであって欲しい気がする薫なのだった。

 こんな風に小坂の昔に想いを馳せていると。


「お待たせしました」


マスターが注文の品を持って来た。

 ガラスの器に入ったコーヒーゼリーで、クリームとシロップをお好みでかけるスタイルらしい。最初からかけてないのは、薫には嬉しいサービスである。


「いただきます!」


薫は早速、スプーンをコーヒーゼリーに刺しこむ。プルンとした弾力のある塊を取り分け、口の中へと運ぶ。

 ほんのりと甘さが感じられながらも、コーヒーのほろ苦さが上手い具合に効いている。薫には珍しく、食が進む甘味と言えよう。


「これ、イイ!」


薫の輝く笑顔に、小坂も微かに笑みを浮かべる。


「だろ? たまに食べたくなるんだよ」


 ――おおぅ、先輩の笑顔が眩しい……!


 滅多に笑わない人の笑顔というのは、一段と尊い気がする。

 けれど、薫はおかげさまでコーヒーゼリーを一個、ペロリと食べることができた。


「さぁて、満足したか?」

「はい、おかげさまで大満足です!」


店を出ての小坂の問いかけに、薫は両手を上げて肯定する。ゲームのように薫の満足ゲージが見えるなら、きっと満タンを振り切っていることだろう。


「じゃあ、帰るかぁ」

「了解です!」


というわけで、薫は小坂の後について駅までの道を戻り始める。

 ちなみに現在地がどのあたりなのか全くわからないので、もしここで喧嘩でもして放り出されたなら、迷って駅までたどり着けない自信がある。

 身長が違うので当然歩幅も違い、歩くのが断然早い小坂なのだが。意外と気配り屋なのか、ちゃんと薫の少し前を歩いてくれるのだ。

 なんとも気の利く不良である。


「でですね、美晴ってば……」

「お前ら、んなことばっかしてんのかよ」


小坂と世間話をしながら駅まで歩くと、丁度電車が到着する頃合いだった。


「わ、人が多い」

「はぐれるなよ」


駅へ移動する人波に乗る薫たちは、とある視線に気付かない。

 駅前の予備校のビルから出て来た男子が一人、笑い合ってお喋りをする薫と小坂を見ている。


「あれって、三校のキングじゃないか。へぇ、女連れねぇ」


そう零しながら舌なめずりをしているなんて、薫は思いもしなかった。



帰りの電車に揺られること三十分、先に降りるのは薫だ。


「では先輩、また学校で放課後に!」


薫は席を立ってビシッと敬礼して見せる。


 ――不良とまた会う約束とか、変なカンジ。


 ちょっと前ならば避けていた存在である小坂。けれど今では不良である以前に、大事な激辛仲間である。仲間との別れの挨拶は、「またね」しかない。

 こんな薫に小坂がびっくりした顔をした後、苦笑した。


「ああ、そうだな。また学校で」


薫はヒラリと手を振った小坂と、電車の出発ベルを合図に分かれた。

 電車のドアが閉まり、走り出す電車の窓越しにもう一度手を振る。あちらも軽く手を上げてくれた。


「……帰ろっと」


薫はそれから駅を出て帰る足取りも軽く。


 ――今日、楽しかったなぁ。


 帰宅してもしばらくニマニマしていた薫が、弟から気味悪がられたのは言うまでもない。


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