お披露目会
挨拶が終わった後、アルフォンディは父のエヴァルトや兄であるアレクラストと一緒に貴族達に挨拶しにまわった。
上級貴族も結構来ていて、挨拶ついでに交流も深めているエヴァルトを見て、アルフォンディは流石宰相だなと思う。頭の回転が速く、腹黒い。それはアレクラストもだけれど。
そんな失礼な事を考えながらもエヴァルトに振られたらしっかりと挨拶をこなすアルフォンディ。
挨拶しにまわっていると、なかには当主の息子でとてもイケメンな人達がいたが、アルフォンディはイケメンなどに興味なし。
アルフォンディは顔より中身派なので、どんなにイケメン達がほかの令嬢に囲まれていようが騒がれていようが、完全無視していた。
「アルフォンディ嬢、本日はおめでとう。」
「ありがとうございます、ハストリア様。」
そう、たとえ挨拶しに行った時に微笑まれようが、親しく近付いて来ようが、アルフォンディは一定の距離を保ちながら無表情で返していた。
アルフォンディはこのパーティ自体面倒くさく感じていたのに、イケメンに絡まれて他のご令嬢に恨まれるなどととても面倒くさい事はしたくない──と思いながら表情には出さずに対応している。
挨拶をしにまわっていたのだが、こちらから行くのはルナシス公爵家より上級の貴族達だけ。
ルナシス公爵家より下の階位の貴族達は自分からルナシス公爵家に挨拶をしに来なければならない。
アルフォンディ達が上位貴族達に挨拶をし終わった後、公爵より下級貴族である人達が挨拶をしようと一斉に寄ってきた。
エヴァルトやアレクラストは時々政務の話をしながら談話し、アルフォンディは挨拶をしっかりとこなしながら内心つまらないと何処かへ意識を飛ばしていた。
そんな中、一際目立つご令嬢がいた。
ゴンドル男爵家のご令嬢はいい意味で目立つのではなく、悪い意味で目立っている。
イケメン達に近付くご令嬢を突き飛ばしたり、罵声を浴びせたり、自分より上位貴族のご令嬢に対して睨んだり軽い口を叩いたりと悪目立ちしている。
(人のパーティでやらかさないでもらいたい…)
アルフォンディはそう思いながらも、ご令嬢の父であるゴンドル男爵にイケメン達から引き剥がされ、不満顔で挨拶しにきたご令嬢を見つめた。
ご令嬢──男爵の紹介によるとメリアと言うらしい──が、アルフォンディの兄であるアレクラストをウットリとした顔で見つめながら「アレク様…」と呟いている。
主役であるアルフォンディは勿論、エヴァルトも完全無視だ。
ゴンドル男爵はその様子に慌てて声をかけ咎めるが、全く聞く耳を持たなかった。
アレクラストがメリアに「メリア嬢、その様子はどうかと思うが。」と顔を顰めて言ったところでようやくメリアがアレクラストから視線を外し、ゴンドル男爵を見た。
ゴンドル男爵は顔を真っ青にしてエヴァルトに謝りながら、メリアに挨拶を促す。
メリアは渋々一歩前に出て、淑女の礼をとった。だが、あまりにもその礼が酷い為に皆が顔を顰める。
メリアはそれに気付かずに「ゴンドル男爵が長女、メリア・ゴンドルですわ!アルフォンディ!私が来てくれた事に感謝なさい!」と言い、アルフォンディを睨んだ。
この様子にゴンドル男爵は顔を真っ青にし、震えながらメリアを咎める。
周りの貴族達もメリアのアルフォンディに対する態度にざわざわと騒ぎ出す。
アルフォンディは無表情でメリアを見つめ、「何故そのような事を?」と問う。
メリアや周りの者は気付かないが、この時のアルフォンディはメリアの事を蔑んでいた。
そのアルフォンディの様子に、近くにいたエヴァルトとアレクラストは驚いて目を見張る。それ程までに、アルフォンディがそんな表情をした事が無いのだ。
メリアはアルフォンディの様子に気付かず、ふんっと鼻を鳴らして偉そうに喋り出す。
「アンタみたいな悪役令嬢のパーティなんて本当は行きたくもなかったのに、攻略対象者も来るから仕方なく来てあげたのよ!」
そんなメリアの様子に大勢の人が騒ぎ、ゴンドル男爵は救えないと思ったのかメリアを連れ出そうと腕を引っ張り始めた。
そんなゴンドル男爵にアルフォンディは手で制する。
「メリア嬢。貴女はマナーや淑女というものを学ばなかったのかしら?上級貴族に対しての礼儀がなっていないようだけれど。」
そんなアルフォンディの正しい言葉に、メリアは顔を真っ赤に染めた。
「マ、マナーや淑女レッスンなんて学ばないでも出来るわ!だって私はヒロインだもの!!」
そう言い切って息切れをするメリアを見ながら、アルフォンディは冷静に考える。
──メリアはところどころ私じゃないと分からない事を言っている。
『悪役令嬢』や『ヒロイン』。
そんな事をメリアが言っているのでは、メリアは転生者だろう。しかもゲームのヒロイン。
そう言われてみれば…アルフォンディはスッとメリアに視線を向けた。
──見た目もそれ程までに悪くなく、守ってあげたくなる容姿だ。まぁ、メリアがこんな態度や性格なので誰も好きにならないと思うが。
アルフォンディが考えに耽っていると、メリアが真っ赤にした顔で喚き始めた為、アルフォンディは呆れながらメリアを見据えた。
「何よ!私がヒロインなのに皆コイツばっかり…意味わかんないんだけど!」
「私も貴女が言っている意味がわからないわ。話も通じないようだし、もうお帰りなさい。2度とルナシス公爵家の前に顔を出さないで下さる?──ゴンドル男爵。貴方の娘、しっかりと教育されていないようだけれど。考えたら理由がある程度は想像出来るわ。ゴンドル男爵はしっかりと言っているのだけどメリア嬢が言う事を聞かない…とかではなくて?」
アルフォンディがゴンドル男爵に視線を向け、そう問うと「そ、そうでございます…」と言いながらアッサリと頷いた。
(やっぱりそんな事だろうと思った。)
考えが当たっている事に内心呆れながら、アルフォンディは無表情で話し続ける。
「ですわよね。…メリア嬢。次にこんな様子でしたら貴女の考えているような未来は無いと思いなさい。ゴンドル男爵。もう一度諦めずに教育をして下さい。10歳、15歳になっても無理だと分かったら修道院へ送った方が良いと思うわ。娘が処刑されたくなければその方法しか無いと思うの。」
ゴンドル男爵は目を見張りながらアルフォンディの言葉一つ一つしっかりと聞き取った。
アルフォンディが話し終わると、真剣な顔で「わかりました。私ももう一度頑張ります。アルフォンディご令嬢。本日の事は本当に申し訳ございません。」とアルフォンディに謝罪と共に深く頭を下げた。
アルフォンディは驚いて僅かに目を見張ったが、ゴンドル男爵に頭を上げさせ、ふわりと微笑んだ。
「──いえ。それよりも貴方の娘をどうにかして欲しいわ。」
2人でスッと視線をメリアに移すと、そこには喚き散らしながら顔を真っ赤に染めてアルフォンディを睨む姿のメリアが居た。
「何で!?何で私がアンタの言う事なんか聞かないといけないの!?~~っ…ふざけんじゃないわよ!」
5歳児にしてメリアはこんな状態なのだ。
これからどう頑張って態度を変えたとしても、社交界で何を言われるか分かっているのだろうか。
アルフォンディは蔑んだ視線をメリアに向けながら、近くでずっと護ってくれていた護衛の2人にメリアを屋敷から追い出すように指示を出した。
「ちょっ、何すんのよ!痛っ…ラ、ライハント様!助けて下さい!!」
護衛の2人に引き摺られながら、そう言い泣き真似をするメリアに固唾を飲んで見守っていた人達も呆れ果て、メリアが呼んだ──ヤウェリト侯爵家の長男、ライハント・ヤウェリト侯爵に視線を向けた。
皆の視線が集まったライハント・ヤウェリト侯爵は、微笑んでいた顔をフッと消すと、無表情でメリアに視線を向ける。
「──え?何故私が助けなければいけないのかい?まず…メリア嬢とは挨拶程度にしか話した事が無いよね。自分が起こした事は自分でどうにかするのが普通でしょう。」
そう言い終わると、護衛の2人に視線をやりながら「連れて行ってくれ。」と伝えた。
言われた護衛の2人はメリアの両腕を掴み、引き摺りながら扉の向こうへと消えた。それに続きゴンドル男爵もアルフォンディに、ホールにいる人達に謝罪をして帰って行った。
先程まで賑やかだったホール内も、今では静寂になっている。
アルフォンディは深く溜め息を吐くと、声を張り上げる。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。もう問題は無いので、パーティを再開しましょう。」
アルフォンディがそう言い終わった途端、ホールには音楽が流れ出し、侍女が新たな料理や飲み物を運び始める。
先程までピリピリとしていた空気が一瞬でガラリと変わり、賑やかになった。
アルフォンディはその事にホッとしながら、デフォルトが無表情であるアルフォンディには珍しく、微笑みながらホール内を見渡していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
今回はいつもより長めです。
無事パーティを終えることが出来て良かったと一安心。
この話ではアルフォンディがあまり優しく感じられないと思いますが、これもメリアの為なのです。本当はとても優しいです。
それにしても…──これ、5歳児の会話ですか?(作者が疑問を感じる。)