#13 とあるコインコーナーの日常
まさかの入江出口の女性化。
びっくりするのは本人含め、全員だ。
だが、このOBコンビは、どうしてだが信じていない。
「「構造を視せろ」」
要は、脱げ! だ。
入江の口がへの字になっていく。
(このOBコンビが!)
ド変態がッッ‼
「出口よ~今なら簡単に女装だって出来る世の中だろう? お前さんが急に、そうなったって、そのものかもしんねぇだろう?」
五十嵐が言う。
「……女装する趣味がない」
「--する必要がないもんね」
小林が意味深に突っ込む。
「‼ あ、アンタッッ‼」
入江が、ざわわわわわあわわわわわあわわわあわわわあわわ! と汗をかく。
確信に近い、もの言いだったから余計にだ。
「--何?」
事務所内は16畳ある。
入ってすぐに雑務や商談用の机がある、椅子も4つだ。
身だしなみチェック用の全身鏡も。
そして、その前にPCのある机は五十嵐が使用している。
横には4席がくっついていて、奥の窓側が店長である楡が使用し、手前奥の机を小林が使用し、その左の席には臨時社員の関本 七緒が使用している。PCも3台設置されている。
今、雑務用の椅子に五十嵐が座り、小林は自身の席に座り、入江は入口前に立っている。
「何かァ?! ここでストリッパーまがいのこたァすりゃあ満足なのかァ?!」
入江も、そう叫ぶ。
小林と五十嵐が離れた場所から、お互いを視る。
「「うん。まぁ」」
ビキ!
「わァ~~~ったよ! わァ~~~ったよ‼ 脱ぎゃあいいんだなッッ!?」
頭にきた入江も上着を脱ごうとしたときーー
コンコン……!
「ひょえェ‼」入江の口から小さな悲鳴が漏れた。
「「はい」」OBコンビも返事をする。
その扉からは。
ひょっこりと勝ち気な目に、怒っているような眉毛の少女が顔を出した。
「小林さーーーーん? いますかぁ~~~~?? あ~~いた~~!」
「寺下さん。どうかしたの?」
小林も少し息を切らした寺下幸恵に怪訝な顔をする。
「お昼です~~」
「あ。休憩?」
「はい~~。中番の磯野ちゃんも来ました~~」
「はい。了解しました」
「?? あ。入江ちゃんもいたんじゃないのさ~~」
入江ちゃん、だと??
そんな『ちゃん』づけで今まで呼ばれたことはない。
「美薗ちゃんが、忙しいって言ってたから戻ってあげて~~」
「あ。ああ」
「じゃあ! 寺下休憩入りまぁ~~す!」
バタン。
「! ほ、ほら‼ あいつだって俺の 女装に何の反応もしなかったじゃあねぇかよ!」
また二人は見つめ合う。
「「でも、まだ一人だし」」
どうしても、そうしてもーー人の裸が視たいのか。
「ド変態のOBコンビにゃあ、つき合いきえねェわ!」
バッタン‼
◆
長い髪をなびかせて、入江はフロアーを歩く。
「なんっつーか、客が多いこったな」
他人ごとのように入江は言う。
入江が引き抜かれたコインコーナー。
ぬいぐるみキャッチャーやフィギュアキャッチャーや音ゲーもある。
それは当然ながらに。
「平日なのに、どして他校の学生がこんなにおるのかねェ」
「! 出口ちゃん!」
歩いていた入江に、軽部が声をかけた。
「! あ。はいッ」
「やっと来てくれたの~~よかった~~!」
「? どうかしたんすか? クレーム? 故障??」
軽部は眼鏡の奥の目を潤ませる。
「どっちもォ」
入江は口をへの字にする。
「分かった。軽部さんは休憩に行っても大丈夫です」
「え? いいの??」
「事務所に暇人もいるんで声をかけてって下さい。そうすりゃあ乗り切れるんで」
「うん。分かったよ~~休憩に行くね~~」
「はい」
入江は舌なめずりをする。
「どこの馬鹿で、禿が、でけェ面してんのか視てやろうじゃあねェかよ!」
◆
ボタンの誤作動、人形の配置。
誤作動はメンテナンスしてサービスをしてあげれば済む。の、だが。
人形の配置が一番の厄介ごとだ。
キャッチャーのアーム移動には設定がある。
ローラーのある上につまみがあり、それで行く範囲を決めるのだ。
そうすることによって、アームはそれ以上にはいけなくなる。
しかし。入れ替えをしたスタッフが馬鹿なのか、ヤリ忘れなのか。
『ここまで動きます!』シールがそのままだった。
明らかに 店側の責任でしかない。
自分に非がない客はどうするかは、極端に言えば。
それを強く主張し、自分の有利にしょう、と打算する。
「大変、お待たせ致しました。臨時社員の入江です」
にこやかに言い分を聞く。
「アームがいかねーのは詐欺じゃね?」「書いてあんよな??」「もう3千円は使っててよ、これだよ!」「誠意とかねぇのか?!」「何だ、その態度は!」
もちろん、いい歳をした大人の主張だ。男女関係なく、皆がこう言う。
集団は、なおーーたちが悪い。
しかし、今回は二人だ。強面だが。
ざっと、こういう反応が、当然ながら店が明らかに設定をミスするとコインコーナーでは日常茶飯事にこういったクレームが勃発する。
店が悪いのも事実だが。
だが。しかし。
「申し訳ありません。そうですね、アームが……いきませんね」
入江の胸中は、
(誰だよ! 範囲ミスする阿呆わ‼)
かなり吹き荒れていた。
「「退け」」
そこへ、OBコンビが仲良くやって来た。
「あ゛?」
入江を押し退け、小林と五十嵐が、そのクレームを処理に入る。
(この野郎が! 邪魔しやがって~~)
しっしっとされてしまった入江は、がに股で巡回に行くほかない。
実際、下っ端が処置するよりは、上の熟知しているスタッフや社員が入るほうが無難なのである。当たり前だが。
しかし。
「面白くねェ~~!」
入江から感謝の言葉は出ない。




