#12 入江出口、女になってリスタート!
入江は焦げた靴下をゴミ箱を放り捨てた。
「後で買いに行っかなー」
バタン!
ようやく入江は異世界から戻り、第四更衣室から出られたのだった。
◆
ざわざわーーガヤガヤ……
ゲームセンターは賑やかで、煩い。
しかし、それにはもう慣れた。
「あ゛ぁ~~酷ェ目にあっっちまったなぁ~~」
フロアーの通路を勢よく歩く入江に、
「あー居たのか~~入江君」
楡店長が声をかけた。
「早番なの居ないから、もう少しで電話しょうと思っていたところだわ」
この店長も銀河高校のOBだ。
既婚者で三人の子供の父親でもある。
「ま。小林 主任も居るって言ってたけどね」
入江は髪を掻いた。
「さ。働いて、働いて!」
そして、ゆっくりと楡は事務所の前に、男子トイレへと入って行った。
そんな楡の後ろ姿に入江は、赤い舌を出す。口はしを掴み。
「言われなくたって働くっつ~~~の! 阿呆かってのよ?!」
ドシドシ!
大股開きで、入江は一階のメダルゲームへと向かった。
五十嵐の確認にだ。
だが。
「出口っちゃん? も~~、待ってたよぉ! おはよう~~」
銀河高校外からの入社でパートの軽部美薗が声をかけてくる。
「……おはようっす。軽部さん」
胸中で舌打ちをしながら、入江も踏み留まった。
「三時間の遅刻だよ~~」
三時間??
「はァ??」
「? はぁじゃないよ。三時間の遅刻だよ」
カシャ。
赤い縁の眼鏡を持ち上げる。彼女も既婚者だ。
「あ。小林主任が出口っちゃん見かけたら事務所に来いって言っておいてて伝言受けているのよ。事務所ね、事務所」
面倒くさいーー……
「ウッス。分かりましたー (棒)」
大根役者のように、台詞を読み上げた。
あんな男よりも、親愛なる上司が先だ。
入江は事務所に行くふりを、軽部の前でして、スタッフ出入り口へと足早に向かい、一階へとエレベーターで下っていく。
ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……!
「--女になってんなぁ」
エレベーターの壁にある鏡で全身を見る。
腰まで伸びた髪。
ダサい制服に、女性用の半ズボン。
全く胸がないーーまな板だ。
「っち。おふくろと一緒かよッ」
大きく舌打ちをし、鏡を殴った。
そんなとき、エレベーターの扉が開いた。
「あ」
眉間にしわを寄せ、声の主を見た。
「あ゛」
相手はーー親愛なる上司の五十嵐 冬生だった。
五十嵐の視線が、入江の全身を見た。
「えっとーーいつから、女装の趣味を?? っつぅーーか勤務中にそれはないだろう?? 出口????????????」
困惑する五十嵐の顔があった。
入江も思い出した。
「あ。そういや俺、何で女にーー……ぁあ゛‼ アイツだ! あんにゃろうだ‼」
沸点が超えた入江が、そうエレベーター内で叫んだ。
「いやいや。まず、女装をーー」
ポヨン。
「ぅん??」
ポヨポヨ。
「ん゛ンん????????????」
ポニュ~~……
何か考えるふりをしながら、五十嵐は入江の柔らかい平ら胸を揉んだ。
ふにふに。
触られいる事態に、入江も硬直していた。
「なぁ~~下にもチンコないの??」
下世話にも聞かれた。
「見てねェよ! いい加減揉むのもやめやがれっての‼」
「なぁ。見てもいいか? いいよな」
五十嵐は入江のズボンに手をかけ覗こうとする。
プルプル‼
「ド変態がァッッ‼」
ドゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ‼
入江は五十嵐を殴り飛ばすのだった。
◆
「帰れ」
五十嵐に連れられ入江も事務所に連行された。
小林は入江を見るなり、こう言い放った。
「女装はないな」
五十嵐は火傷を負っている小林の為に帰宅をしていたのだ。
持っていた袋の中には皮膚のキューブに、新しい靴下と蜜柑があった。
「でもよォ~~楡店長や軽部さんも何のリアクションもなかんだぜェ??」
「「んな馬鹿な」」
しかし、このOBコンビは信じることはなかった。