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9ページ目~それぞれの思い、それぞれの想い

葵の告白の翌日…俺はその日、ほぼ一睡も出来ずに朝を迎えてしまった。…葵は…大丈夫かな、昨日、最低な答えを出してしまったし…


‐「私は…勇樹君が好き…」‐


「…葵が…」


俺はとりあえず支度を済ませ家を出る。隣の家には…葵は待っていなかった。…そりゃそうか…




「…お、やっほー勇樹君!」


「…あぁ、おはよう」


普段通りに登校してきて教室に着くと真実がいつも通り挨拶を交わしてきた。葵は…やっぱり居ないか


「…あれ?葵ちゃんはどしたん?」


「あ、あぁいや…今日は俺が先に出てきたからな…」


「?…何かあったの?」


真実は怪訝そうな顔をしながら聞いてくる。…当然と言えば当然か、葵は授業に1日しか出てないが、それ以外でも俺とよく一緒にいると言うのは周知の事実となっている


「…ま、少しな」


「少しでそんなによそよそしくなる?私理解できないんだけど」


「…確かにそうだけどな…」


「話したくないことなら別に聞かないけど、勇樹が葵ちゃんを見放したら彼女はダメになる…と思うよ。記憶が無いんだし」


「…」


記憶、と言う単語で昨日の出来事を思い出す。…記憶を捨ててまでの俺への告白、それに対する俺の返事…


「…本当に大丈夫?顔色悪いけど」


「…そうか?何も問題は無いけどな…」


どうやら体調が悪そうに見えるらしい。…大丈夫、なんてことはない、なんてことは…




「…浅井、浅井!」


「…え?」


「次はお前だぞ~」


「…あ、はい」


気付いたら今は体育の授業中、今日は隣のクラスとの野球対決だった。次はどうやら俺の打順らしく、皆に急かされながら打席に着く


「いや~、女子はもう終わったみたいで観戦してるぜ~?」


「格好良いとこ見せてモテるぞ~!」


…うちのクラスの男子からそんな声が聞こえてくる。…全く、お気楽なもんだな…


「ストライク!」


…そんなことを考えている間にはや2ストライク、追い込まれた。…さすがにぼーっとしすぎだな、俺。集中集中…


相手の投手が投げた3球目、球は甘い位置…俺は目一杯の力で振り抜くと、乾いた音と共に白球が鋭く外野の守備を破る。…俺がダイヤモンドを駆け始めると周りで女子の歓声や男子の声援が聞こえてきた。…随分盛り上がって…


「…勇樹、君っ!!頑張って…っ!」


「!?」


俺は聞き覚えのある声の方向にとっさに振り向いた、そこには…今日今まで居なかった葵の姿があった。…制服だから見学なのだろうが、来たのか。それに…俺に、声援を…


だが、このよそ見が俺にとっての致命傷となった。三塁のベースを見ておらず、それに足を取られ勢いで身体が宙に浮き、地面に転がった。…立たなきゃ…と思い身体を起こそうとする…が、身体は意に反して動かない。…あれ…?


「…おい、あれまずいんじゃないか!?」


「先生!!浅井が!」


周りから何かがやって来る様な音は聞こえてくる。でも身体は動かないし、イマイチ目も見えない。…真実の言っていた通り、かなり体調が悪かったのかも知れない。…少しずつ意識が薄れる中、こんな声が聞こえて…き……


「……勇樹君っ!!ダメ…嫌っ!!勇樹君っ!!」


「落ち着け川原!!お前が何を出来る!先生に任せて…」


「でもっ!!…勇樹、君は、私の大事な…っ!」


「気持ちは分かる。友達を心配する気持ちはな、だが今の浅井は気を失ってるだけだ!とにかく落ち着くんだ!」


「…私の、大事なっ…!!」



「…ん…ぅ……」


目が覚めると、そこは白い天井が広がっていた。…どうやらあれから俺は保健室に運ばれ、残りの授業をサボったらしい。窓からは西日が射し込んでいた


「…あ、具合はどう?元気…では無いよね、急に倒れちゃったんだから」


そこに現れたのは保健室の若い先生だった。先生は苦笑いを浮かべながら俺に話しかけてきた


「にしても寝不足での貧血で倒れるって…いったいどうしたの?」


「…いや…」


…貧血?俺は確かベースにつまづいて…


「…俺、貧血だったんですか?」


「うん。君、朝御飯とか食べてないでしょ?それもあると思うんだよね。…もう今日は授業も終わったし、家帰ってご飯食べて、ゆっくり休みなさいよ~?」


「…はい」


軽く叱られてしまった。…まぁ無理も無いか…。とりあえずベッドから起き、荷物を取りにカーテンから出ると…そこには見覚えのある女子生徒が居た。…居眠りをする、葵だった


「…!?な、何でここに…?」


「あ~、そういえば君がここに運ばれるときに慌てて飛び込んできて、ここに居させて欲しいってきかなくて…担任の先生と相談して、ここで君を看てもらうって事になったの」


「そんなにゆるくて良いんですか?」


「まぁ川原さんだから~」


「…え?」


…葵"だから"?どういう…


「…ん…ゆ……き君?」


そんな話をしていると、葵が目を覚ました。軽く目をこすると俺を視界に捉え、少し狼狽えた顔をした


「あ…えと…その…勇樹君…?」


「…葵、帰るぞ」


「え?…え?」


困惑する葵を余所に、俺は先生に挨拶を済ませ保健室を出る。葵が急いで後を追ってきていた…




「…葵」


「…ん…?」


「学校来てるんならちゃんと授業出ような?せっかく来たのにもったいない…」


「…でも…勇樹君が心配で…」


帰宅しようとしたら葵に手を引かれ、半ば強引に川原家に連れてこられた。今は葵の部屋で雑談中…だが、葵は俺に背を向けて居る。…まだなんか溝がある感じだ…居心地悪い…


「…葵、昨日は…」


「…昨日の事は、気にしてないよ?だって私の本心だから…


「…その事なんだけど、さ」


俺は自分の気持ちを、素直に伝えることにした。…さすがにこのままじゃ俺も嫌だしな


「お前の気持ちは素直に嬉しい。…でも、やっぱり俺は昔の記憶を思い出して欲しい」


「…勇樹君は、やっぱり"わたし"の方が好きなの…?」


葵は俺の気持ちを伝えるとわずかに振り返り、暗い顔を浮かべた。…"わたし"と"私"…


「…俺は、やっぱりそういうのは分からない。だけど葵は…どっちも俺の大事な人なのは間違いないな」


「…大事な、人…」


「そう、大事だ。…お前が記憶を失って、かなりショックだった。だって皆の記憶を失うだなんて…。でもそれでも葵は、変わらず俺の傍に居続けた。…それで俺は思ったんだ。なら俺も…変わらず葵の傍に居続けたい、ってな」


「…私の、傍に…?」


正直かなりクサイセリフだとは思う。…だけど、葵をこれ以上一人にはしたくない、そんな気持ちになっていた


「…葵、仲直りだ。お前の気持ちの答えは出来ないけど、やっぱり一緒にいたほうが楽しいだろう?」


「…傍…」


だが傍という言葉を言ってから、葵の様子が変わった。…この反応、記憶がフラッシュバックして…!


「…私の、傍…」


「…お前、また何かを…」


「…分からないの。でも…もやもやしてて見えない…けど、何か…を…」


「…何かを?」


「……うぅっ!?」


だがそこで葵は頭を抱え、しゃがみこんでしまった。…まずい、負担が…!


「葵、もういい。もう見るな」


「…もやもやしてる、何かが見えてる感じなのに…!嫌、こんな私…!」


「…っ!」


まずい、こんな道端じゃ、葵が晒し者になる…!どこか…!


「…仕方ない!葵、少し我慢してくれ!」


「…ぅ…??」


葵の意識が乱れる中、俺は葵を無理矢理担ぎ上げ走り出す。…一刻も早く家に着けば良い!!…葵




「ごめんねぇ、ユウ君。葵を家まで運んでくれて…」


「いえ…別にこいつは軽いですし、一大事ですから」

葵は今、自分の部屋で眠っている。何とか落ち着いたようで、今は静かだ。…だが葵はまだ錯乱してしまうようだ。…自分の記憶を取り戻すのをやめようとしている筈なんだが…


「…でも、どうしましょうねぇ…」


「…どうしよう、とは?」


「…言い出しにくいことなんだけど…清一郎さんが、葵をこの町から離した方が良いんじゃないかって…」


「…え…!?」


俺は葵の母さんの言葉に耳を疑った。…引っ越す、のか?


「でもあたしは嫌なのよぉ。この町大好きだし、ユウ君と葵を離ればなれにしたくないし…。清一郎さんもそれはしたくないとは言ってるけれど…」


「…」


言葉が出ない。…葵は、このまま姿を消してしまうのか?二度と会えない、というのは大袈裟かもしれないけど…そうなるかもしれない。…そんなのは嫌だ。皆のことを忘れたまま消えるなんて、悲しすぎる


「…おばさん、葵が記憶を取り戻すのを諦め始めてる…って知ってますか?」


「え?…葵、もう思い出したくないの?」


「…分からないです。けど葵はそう言ってました。…俺が好きだから、と」


「…ユウ君が、好き…良いことじゃないの~。でもそれと何の関係が…」


「葵、もしかして記憶を失うきっかけの何かを思い出した、とか、形として残していて、それを見つけたんじゃないかって思うんです。…でもだからって、過去を捨てても良いんですか?たかが一人の男の為、他の沢山のものをなくしても…」


俺はいつしか葵の母さんに今の思いを伝えていた。葵の母さんも俺の言葉を静かに聞いてくれている


「俺は、そんな一本道しか無いレールを葵には進んで欲しくないんです。葵の周りにはもっと楽しいもの、いい人達が居るはずなんです。…それでも、葵は記憶を捨てるべきなんでしょうか?彼女はその記憶で苦しんでるのも事実ですし…」


「ユウ君」


葵の母さんが柔らかな笑みで俺の頭を撫でた。そして笑顔を崩さぬまま、俺に答えてくれた


「葵はとっても幸せものねぇ…こんなに想ってくれる子が居るんだから。でもユウ君。私は葵の意思を尊重したいと思ってるの。葵は記憶を無くしてから、うまく気持ちを現せなかった。だって何も分からないから。でも今はそうしてユウ君に好きって気持ちを伝えた…私はそれが嬉しいの、それがたとえ苦しいものから逃げてたとしても」


「…やっぱり母親、って事ですね」


「そう。あたしは葵にはなれないの。…葵がそう決めたんなら、そうしたら良いんじゃないかしら?」


「…」


…葵は、本当にこのまま…


「…納得、出来ませんよ。そんなに今までの俺たちとの思い出は薄っぺらいものだったんですか?」


…葵の母さんにこんな事言っても意味は無い、それは分かっていた。でも自分の気持ちは抑えられなかった。…やっぱり、俺は葵には元に戻ってほしい。そして一緒にその苦しみを乗り越えてやりたい、そう思ったのだ


「俺が知る葵は、そんな簡単に過去を投げるとは思えないんです。…ですから、俺に時間をくれませんか。過去と今の葵と向き合う時間が、欲しいんです」


俺は頭を下げていた。こんな事をしなくても良いのだろうが、これはある意味お付き合いを願い出てるようなものなので自然とやってしまった


「…良いわよ、好きにしなさい。家族のしたいことはさせる、それがあたしたちの家のやり方だから」


「…ありがとうございます」


「でも不健全なのはダメよ?葵はまだ初めてだと思うんだからね?」


「…へ?いやいや、さすがにそんな事は…」


「…葵の事、頼んだわよ?」


葵の母さんが一度茶々を入れてきたが、すぐにまた穏やかな顔になって頭を撫でてきた。…俺は、葵の気持ちから逃げない。そして、過去からも、今も…




―あれ、葵ちゃん?何してるん~?―


―ん?…手紙書いてるの―


―まさか、……?良いね~、葵ちゃん、青春だねぇ~―


―ち、茶化さ……でよ…み。…本気なんだから―


―そんなのわかっ……よ。相手は……くん?―


―……ん、そ……よ―


―そっか、想い……わると良い……―


―…うん…―




私は、一枚の手紙を書いていた


誰宛かは分からない


内容も分からない


でもこれは何となく見えた気がする


とても大事な


私の想いが詰まった


手紙だって



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