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13ページ目~消ゴムで消されたノートに、再び字を書き始めよう

葵が倒れ、しばらくの時が流れた。その間、葵は意識が戻らなかった。原因は医者にも分からなかった。…命に別状は無いらしいからまだ安心だが…でも俺の心は病んでいた。…今、学期末の学校で帰りのHRも終わっているが、片付けもせずに机に突っ伏していた


「…はぁ…」


「…勇樹、あれからずっとこの調子だね…」


そこに真実が近づいてきた。…真実は心配そうな顔で俺を見ている


「…仕方ないだろ、俺の責任なんだから…」


「だから…あれは勇樹のせいじゃないでしょ?もう気に病んでも仕方ないって…」


「…そうなんだろうけどさ…やっぱり割りきれないんだよ」


「…こりゃ、重症だね…。一緒に帰る?」


「…いや、これから少し寄るところがあるから…」


「…そか。つらかったらいつでも私に言ってね。愚痴、聞くからさ」


「…ありがとう、真実」




「…?浅井か、どうした今日は…って、生徒会に来たんだったな」


「…今日は、何かありますか?」


荷物を手にやってきたのは生徒会室。あれからは再び松田先輩と共に仕事をしていたのだ。ただ俺は心ここにあらずで度々怒られていた。それでも先輩は俺を追い出さなかった


「生憎だが、今日は活動は無いぞ」


「なら何で先輩はここに?」


「…引き継ぎだ、次期会長への」


「…あぁ…」


そういえば、先輩は3年だったな。…次期の会長って誰だったっけ…


「…お前、次の会長知らないだろ」


「え?…あの、ド忘れしたと言うか…」


「全く、最近のお前は腑抜けたな?…汐見だ、汐見(しおみ) (みゆき)。お前のクラスに居ないから知らんかも知れんが、彼女はおっとり系だが仕事は完璧、人気もあるんだ。…今日は来ないんだがな」


「…そうですか」


「浅井、となればお役御免だ。汐見にはちゃんと他の役員も付く、わざわざこっちに足を運ばなくても良くなるぞ」


「…」


最近こっちに来て仕事してた理由がここに居る間は、何も考えなくて済むからだった。…そうか、もう必要ない…か


「…目を覚ませ、浅井。別に川原は死んじゃいない。何か責任を感じているのならそれはお門違いだ。…分かったならとっとと見舞いにでも行ってこい」


「…見舞い…?」


実は俺は葵の見舞いは一度も行っていない。…正直、どんな顔をして会ったら良いか分からないのだ。だが先輩は俺が黙ってるのを見てため息を1つついた


「…ったく、まさか見舞いの1つもしてやってないのか。むしろそれの方が責任感じるべきだな」


「…すいません」


「…川原は、アタシの感だが、お前を待ってる。…そんな気がするな」


「…そうですかね?」


「ま、とにかく一度行ってみな。川原のため、と思うならな」


「…失礼します」


俺は先輩の言葉に背を押され、荷物をまとめ病院へ向かった…


「…そうだろ、川原。我が友、浅井を…」



「…」


病院の一室、川原葵と書かれた札が刺さるドアをノックする。とりあえず面会の許可はもらったので中に入る。すると真っ白な部屋には1つのベッドがあり、そこには…葵が座っていた。話によると最近葵は目を覚ましたと言うが、あの日の記憶はおろか、再び沢山の記憶を失ったとの話だった。何の記憶を失ったかは定かでは無いが、葵の母さんの話だと俺は「大事な人」と言う記憶のみらしい。…あの時と同じか


「…浅井、勇樹君?」


「…あぁ。身体の調子はどうだ?」


「…おかげさまで」


「…そうか。なら良かった」

…会話が続かない。何せ記憶が無いのだ。また今までのように迂濶な言葉で葵を苦しめるわけにはいかないからな…


「…あの…これ…食べる?先生から…もらって…」


そんな俺の心情を知ってか知らずか、葵は呑気にお菓子を俺に勧めてくる。…一応もらう


「…勇樹、君」


「…ん?」


「…私って、どんな子…?」


「…葵が、か」


「…うん。…私、覚えて無くて…。私に、友達とか居たのかな、とか。明るかった…とか」


「…」


葵は不安なのだろうか、自分の姿を出来る限り前と同じにしたいようだ。だが俺はあえて昔の話をするのをやめた


「…さあな、俺には分からないよ。葵は、葵でしかないんだから、昔の葵を知っても得はないさ」


「…そういうもの、かな?」


「そういうものさ」


…再び記憶を失えど、俺は気付いた。葵は俺にとっても大事な人だと。葵の記憶はノートに書いてあった字が消ゴムにかけられたように真っ白になったけど、だったらまた俺が再び書いてやれば良い。葵がこれからどうなっていくかは分からないけど、それが俺の今やりたいことだ


「…不思議だね…勇樹君の事、覚えてない筈なのに、落ち着けるよ」


「え?…そうか?」


「…うん。不思議と…笑顔で居られるよ」


「…なら良かった」


「…勇樹君、良かったらお散歩…行かない?」


「散歩?院外に出ても良いのか?」


「…さすがに院外には出ないよ。…中庭で、お日様に当たりたくって」


葵が外を見やるので俺も向く。外は快晴で散策日和だった。…病室に閉じ籠っていたら息苦しいんだろうな。だけど1つ問題が…


「…俺と一緒で良いのか?その…勘違いされるんじゃ…」


「…勘違い?…私は…勇樹君と一緒が良い…かな?」


「そ、そうか…なら行くか?」


「…うん。…行こ?」


葵は笑みを浮かべながら、俺の手を取った。…え?何さりげなく…これじゃまるで本当に…


「…どうしたの?」


「…あ、あぁ、悪い。…行くか」


「…うんっ」


…再び白紙に戻った二人の関係。だけど俺は、絶対に葵を一人にはさせない…




また私は、記憶をなくしてしまった


とてもつらい


とても怖い


でも


不思議と、勇樹君が居たら不安が無くなるの


乗り越えられる気がする


私…


…絶対に、思い出すから



再び記憶を失った川原葵


その彼女がやはり自分には大切な人と気付いた浅井勇樹


二人の関係は再び白紙になってしまった


だけど彼らは諦めなかった


再び昔のような平和で退屈な日々を書き留められるように…



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