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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第一章 帰るために、好きにさせる

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やっと、帰れる

 雪乃はベッドから降りて、脱いだ制服に袖を通し直した。

 乱れた髪を手櫛で整え、ベッド脇に置いていたリボンをつけ直す。

 玄関へと移動し、雪乃がローファーに足を入れる。

 雪乃は外へと踏み出す直前、不意に私の方へと振り返った。


「じゃあ、また明日」

「……」


 その言葉を、どう受け止めればいいのか分からなかった。

 雪乃にとっては当たり前に来る「明日」が、私にはもう来ない。


「……なんだよ、その顔。具合でも悪いのか」

「ううん。ちょっと、ぼーっとしてただけ」

「ふん。……疲れたなら、ちゃんと寝ろよ」

「うん。雪乃、今日はありがとう」

「礼を言うな。気持ち悪い」


 そう言いながらも、雪乃はすぐにはドアを開けなかった。

 数秒、何か言いたげに私を見て、それから、ふいと顔を背ける。


「……また明日。遅刻すんなよ、低能」

「うん。また明日ね」


 雪乃はいつもの口調で言い残し、玄関のドアを開けて家の門をくぐった。

 私はその姿が見えなくなるまで見送り、ゆっくりと扉を閉めて鍵をかけた。


***


 その夜の食卓は、いつも通りだった。

 この世界のお父さんは缶ビールを開け、この世界のお母さんは出来たての肉じゃがを大皿で食卓に並べる。

 向かいの席では、この世界の妹の出海が我先にと唐揚げを取っていた。


「お姉ちゃん、それ食べないなら、もらうね」

「あ、こら。一個は残してよ」

「えー、遅いほうが悪いんだよ」


 出海が舌を出して笑う。

 お母さんが「二人とも行儀が悪い」と苦笑して、お父さんはテレビのニュースに相槌を打っている。

 なんでもない、いつもの夕食だった。

 でも、この食卓を囲むのも、たぶん今日が最後になる。

 帰れば、この家族とも、もう二度と会えない。

 私は自分の皿の唐揚げを一つ、出海の皿にのせてやった。


「……どうしたの、急に」

「べつに。今日は機嫌がいいの」


 出海は不思議そうにしながらも、嬉しそうにそれを頬張った。

 その無防備な横顔を、私はしばらく見ていた。


***


 夕食を終えて自室に戻ると、部屋の中央でイルカイルがぐるぐる回っていた。


「お疲れ様イルカ!」


 イルカイルがヒレを動かすと、光を放つガラス瓶が現れる。

 瓶を満たす桃色の液体は、最上部のラインに完全に到達し、満杯になり光っていた。


「ラブエナジー、満タンイルカね!」

「……本当に、これで終わりなんだよね?」

「大丈夫イルカ! 瓶は完全に満杯イルカ! これ以上の追加イベントは、ファンディスクに期待イルカね!」

「ファンディスク!? 流石にそこまでは付き合いきれない!」

「まあ、この世界のシステム的にファンディスクは……おっと!なんでもなイルカ!」

「それで、これから私はどうなるの?」

「瓶が満ちた後の処理は、二十四時に行われるイルカ。つまり、次の日イルカね」

「処理って何?」

「実は詳しいことは分からなイルカ!」

「分からないって、ナビゲーターなのに!?」

「私は組織の末端だから、上のことはなにも知らなイルカね〜」

「組織って……」

「おっと、それ以上は話せなイルカ」

「まあいいや。とにかく、寝て起きたら何かが起こるんだね?」

「まあ〜、そういう感じイルカね」

「私は疲れた。今日はもう寝る」


 イルカイルはベッドに横になった私を見ると、光の粒子となって霧散した。

 私はベッドの上に体を投げ出し、天井の木目を見つめた。


「やっと、帰れるんだ……」


 夕飯の時間まで横になるつもりで、私は布団を被った。

 目を閉じると、元の世界の様々な光景が脳裏に浮かんできた。

 リビングで夕飯の支度をするお母さんの後ろ姿。

 居間で新聞を広げているお父さん。

 大学の講義室で他愛のない話を交わした友人たちの笑い声。

 そして、アニメのグッズで埋め尽くされた散らかった自室で、アニメキャラへの愛を喚き散らしていた、大好きな兄ちゃんの姿。

 あの何よりも愛おしかった、当たり前の日常。

 やっと戻れる。


 しかし、記憶を辿る意識の最後に、まぶたの裏へと浮かび上がってきたのは、別の顔だった。

 雨の中でびしょ濡れになりながら泣きじゃくっていた雪乃の顔。

 私の差し出したケーキを頬張り、耳まで真っ赤に染めてそっぽを向いた雪乃の顔。

 授業中、机の下で私の手をきつく握りしめて離さなかった雪乃の指の熱。

 そしてついさっき、「ぎゅって、して」と先にねだって、私の胸に額を押しつけてきた、あの無防備な顔。

 あの表情のすべてが、私の脳裏を占拠している。

 あれは決して、画面の向こうに用意された記号のキャラクターなどではなかった。

 泣いて、笑って、私を求めてくれた、等身大の女の子だった。

 私は記憶を振り払うこともできず、布団の中で目を閉じ意識が途切れた。

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