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辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?  作者: U3
第1章:追放と最強のオカン

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第9話 水脈を探して地下3000メートル

 荒野の朝、爽やかな風と共に俺の一日は始まる。

 居住ユニットのドアを開けると、足元で小さな影が跳ね回った。


「ワンッ! クゥーン!」


 銀色の毛並みをした子犬――昨日拾ったシロだ。

 マザーの治療と栄養満点のミルクのおかげで、骨折していた足はすっかり良くなり、今は元気の塊となって俺の足にじゃれついてくる。


「おお、シロ。今日も元気だな」


 俺はしゃがみこんで、その柔らかな頭を撫でてやった。

 手のひらに伝わる温もりが、ここが孤独な荒野ではないことを教えてくれる。


『おはようございます、マスター。そしてシロちゃん』


 定位置で待機していたギガント・マザーから、いつもの温かい声が降ってくる。

 今日のマザーは、整地用のアタッチメントを外し、基本形態である多脚戦車モードに戻っていた。


「おはよう、マザー。動力炉の調子はどうだ?」


『快調そのものです。マスターの魔力が馴染んで、アイドリング状態でも出力が15%向上しています』


「それは何よりだ。……さて」


 俺は視線を上げ、目の前に広がる広大な更地を見渡した。

 昨日の大掃除で、岩山と枯れ木の森だった場所は、見事な平野へと生まれ変わっている。

 これだけの土地があれば、かなりの規模の畑が作れる。

 だが、問題は「水」だ。

 温泉は湧いているが、あれは成分が強すぎて農業には向かないし、飲み水としても常用はできない。


「真水が必要だな。それも、大量の」


『マスター。広域スキャンを実行しましょうか? 以前の簡易スキャンでは浅い地層しか見ていませんでしたが、出力を上げればもっと深層まで探査可能です』


「頼めるか? かなり深く潜ることになるぞ」


『お任せください。私のセンサーは星の核の振動すら捉えますから』


 マザーの単眼が、青から深い紫色へと変化した。高深度探査モードだ。

 ブウン……という低い重低音が響き、目に見えない波動が大地へと放たれる。


 地下1000メートル。2000メートル。

 モニターに地層の断面図が表示され、次々と解析データが流れていく。


『……深度3000……反応あり。深度3200メートル地点に、巨大な液体の貯留層を確認』


「水か!?」


『はい。ですが……ただの水ではありません。成分構成が通常の地下水とは異なります。極めて純度が高く、そして……高密度の魔力を含有しています』


「魔力水……? とにかく掘ってみる価値はあるな」


『了解しました。超深層掘削用ドリルを展開します。到達まで約3時間かかります』


 ズゴゴゴゴゴ……!

 マザーのドリルが唸りを上げ、大地に食い込んでいく。

 3時間の待ち時間か。ちょうどいい。


「よし、待ってる間に腹ごしらえといこうか。マザー、キッチンを使うぞ」


『はい、マスター。今日のメニューは?』


「力仕事の前だ。ガッツリといきたい。俺の故郷の定番、『羊飼いのパイ』を作る」


 俺は袖をまくり、マザーの機体から展開されたキッチンユニットに立った。

 まずはフィリング作りだ。

 冷蔵庫から取り出したのは、先日マザーが狩ってきた「ホーン・シープ」の挽肉。

 フライパンに油をひき、みじん切りにした玉ねぎと人参をじっくり炒める。

 野菜の甘い香りが立ってきたら、挽肉を投入。

 ジューッという音と共に、肉の脂が溶け出し、香ばしい匂いが広がる。


「ここに、トマトペーストと赤ワインを加えて煮込む」


 水分を飛ばしながら、肉の旨味を凝縮させていく。

 塩、胡椒、そして荒野で採れたハーブを散らすと、香りが一段と深くなる。

 濃厚なミートソースの完成だ。


 次はパイの「蓋」となるマッシュポテトだ。

 蒸したてのジャガイモを熱いうちに潰し、バターと温めたミルクを加えて練り上げる。

 ねっとりと滑らかになるまで、丁寧に、丁寧に。

 最後に卵黄を一つ落として混ぜれば、黄金色のクリームのようなポテトが出来上がる。


「よし、組み立てだ」


 耐熱皿にミートソースを敷き詰め、その上にマッシュポテトをたっぷりと乗せる。

 ヘラで平らにならした後、フォークの背を使って表面に波模様を描く。

 こうすると、焼いた時に溝に焦げ目がついて美味そうになるし、カリッとした食感も楽しめるのだ。


「オーブンへ投入! 220度で20分!」


 マザーの高速オーブンが唸りを上げる。

 焼いている間に、喉を潤す飲み物の準備だ。

 荒野の乾燥した空気には、水分補給が欠かせない。


「デザート兼ドリンクはこれだ。『スイカのフルーツポンチ』」


 マザーが実験的に育てていた小玉スイカを取り出す。

 上部を切り取り、中身を丸くくり抜いていく。

 くり抜いた果肉と、一口大に切った他のフルーツを、空になったスイカの器に戻す。

 そして仕上げに――。


「シュワッとする『炭酸水』を注ぐ!」


 シュワワワワ……!

 涼やかな音と共に、泡が弾ける。

 マザーのプラントで生成した強炭酸水だ。

 スイカの果汁と炭酸が混ざり合い、鮮やかな赤色のソーダが出来上がった。


『ピーッ。焼き上がりました』


 タイミングよくオーブンの扉が開く。

 もわっとした熱気と共に、焦げたバターと肉の芳醇な香りが溢れ出した。

 表面の波模様が見事なキツネ色に焼き上がり、縁からはグツグツと赤いソースが吹きこぼれている。


「完成だ……!」


 俺は熱々のシェパーズパイをスプーンですくい上げた。

 カリッとしたポテトの皮を破ると、中はトロトロ、その下から肉汁たっぷりのソースが顔を出す。

 ハフハフと息を吐きながら口に運ぶ。


「……美味いッ!」


 羊肉の野性味あふれる旨味を、クリーミーなポテトが優しく包み込む。

 ハーブの香りが鼻を抜け、濃厚なのに後味はしつこくない。

 そこに、冷たいフルーツポンチを流し込む。

 シュワッとした炭酸とスイカの甘みが、熱くなった口の中を爽快にリセットしてくれる。


「熱いパイと、冷たいシュワシュワ。……無限にいけるな」


 足元では、シロが専用皿のミルク煮を夢中で食べている。

 俺たちの贅沢なランチタイムは、掘削完了のアラートが鳴るまで続いた。


『――到達しました。隔壁を貫通します』


 ガキンッ!

 食事を終え、コクピットに戻った直後、硬質な音が響いてドリルの抵抗が消えた。

 空洞に出たのだ。


『プローブを降ろします』


 モニターに地下の映像が映し出される。

 そこには、幻想的な光景が広がっていた。


「……きれいだ」


 広大な地下空間。その底に満々と湛えられているのは、淡い青白色に輝く液体だった。

 水面が揺れるたびに光の粒子が舞い上がる。


『成分分析完了。……信じられません。これ、「エーテル水」です』


 マザーの声が震えている。


『大気中のマナを数千年かけて凝縮し、液状化した高純度エネルギー流体……。原液のままでは危険ですが、これを希釈すれば、植物の成長を数十倍に加速させる「魔法の肥料水」になります』


「数十倍……!?」


 俺は目を見開いた。

 食糧問題が一発で解決するどころか、とんでもない特産品ができるぞ。


「マザー、汲み上げポンプを設置できるか?」


『可能です。今日中には「マザー特製・元気が出る水」の蛇口を設置できますよ』


「よし、やろう! これで畑作りも本格始動だ!」


 俺は拳を突き上げた。

 美味しい料理で満たされた腹と、新たな希望で満たされた心。

 俺たちの開拓生活は、この「魔法の水」を得て、さらに加速していくのだった。


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