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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
大舟ソラは、自室に監禁されていました。
監禁、とは、本人が思っているだけです。実際には、おとうさんに怒られて、言い返せなくて、すねて、閉じこもっているだけでした。
おとうさんはすっかり、ソラの敵です。おかあさんも「今回ばっかりはちょっと……」と、ソラを守ってくれません。自分の部屋以外に行くところがない……監禁されているようなものでした。
今朝、学校に行く直前、おとうさんに呼び止められて、事の真偽を問い詰められました。真偽なんて言い方をすれば、まるでソラに非がない場合があると信じているようにも聞こえますが、おとうさんはしっかり、ソラのことを疑っていました。
ソラは眠っていて気づきませんでしたが、昨夜、ソラの家に、ゲストハウス星山の管理人さんが来たそうです。そこで話し合われたのは、ソラがインターネットを通じて、日課のように、ゲストハウスの悪評を書き連ねていたということでした。
ソラのおとうさんとおかあさんは、パソコンの使用履歴を見て、がくぜんとしたそうです。ふたりは何度も頭を下げました。管理人の祖父江さんは、ソラを責めませんでした。お手伝いの女の子——くーちゃんとかいう、憎らしい女の子——あの子にも、大いに問題がある、だから、こちらの管理責任でもある、とかなんとか。
ですが、いくら祖父江さんが許すと言っても、家族の話し合いの場にいなければ、許してくれた意味がありません。
ソラはひたすら責められました。
お店を管理するのがどれだけ大変かわかってるのか。
携帯電話は没収だ。
パソコンも中学校まで使わせない。
他にもたくさん怒られて、嫌になって、ご飯も食べずに部屋に飛び込んで……いまに至ります。
時計の針は、十二時三十分を差していました。みんなは……セナは、給食を食べているころでしょうか。セナはひとりで大丈夫でしょうか。またいじめられていないでしょうか。休み時間をひとりで過ごしていないでしょうか。
——そうあってほしい。
そんなふうに思ってしまう自分に気づいて、ソラは耐えきれず、布団に頭を隠します。ぎゅっと目をつむり、暗闇の向こう側に、嫌な考えを放り捨てようとしました。でも、ダメ、それより先に息が苦しくなって、布団から頭を出してしまいました。
一度悪いほうに考え出したら、止まりません。
——セナにはもう、わたしなんて必要ない。
セナは変わってしまってしまいました。ソラが気を遣わなくても、セナはダイチくんと遊べるし、自分から話しかけに行くことだってできます。前向きで、明るく、少しずつ男の子らしくなっています。ソラだって、セナにそうなってほしいと思っていました。でも、そうなっていくうちに、セナの心から、ソラという女の子が消えていくような、見えない不安に駆られます。
わたしがセナを守らないと。
わたしがやらなくちゃいけない。
そう思っていたのに、とつぜん現れた生意気な女の子に、ぜんぶ持っていかれてしまいました。彼女のおかげでセナは前向きになっています——わたしではなく、「天使」の女の子によって——それが許せませんでした。
いまなら、「あんな書き込みをするんじゃなかった」、「やっちゃいけなかったんだ」とわかります。しかしあのとき、ソラはあの女の子をやっつけている気分に支配されていました。
悪いことだと思えませんでした。
あの女の子を叩きのめせば、わたしがあの子の上に立って、セナにふさわしい女の子であると思えました。
すべてが終わり、残ったのは、悲しさだけでした。
あんなことをした結果、余計にセナが離れていくような気がしました。
こんな薄汚い女の子に、どうしてセナが振り向いてくれるでしょう。
小学校は恐ろしいところです。親から聞いたことは、子どもたちの話題の種になります。先生たちが話していることも、子どもたちはこっそり聞いています。それらは噂になって、校内を駆け巡って、見えない網のように、学校じゅうに張り巡らされます。その網にかかってしまった友達を、ソラは何人も見てきました。
もし、ソラの悪事が広まっていたら……?
ソラが学校に来るのを、みんなは、噂の網を張って待っているのかもしれない。今度はソラが、網にかかる番なのかもしれない。でも、その程度なら、どうってことない。やり返せばいい。黙ってやられっぱなしになる子じゃないって、わからせてやれ……そんなふうに心を強く持っていても、悪い予感が消えません——ソラがいま、なにより恐れていること——噂の網の端っこを、もし、セナが持っていたら?
セナは優しい男の子です。セナ自身がいじめに加担することはないでしょう。きっと、やんわりとソラの味方になってくれると思います。セナの優しさを、ソラは信じていました。
ですが、優しいセナを思うたび、あの憎らしい女の子の背中が、立ちはだかるようになりました。ソラの想像の中でさえ、くーちゃんは憎たらしい笑顔を浮かべています。そして、ソラの目の前から、セナの手を引いて、どんどん遠くに行ってしまって……
(なんとかしなきゃ……)
でも、どうすれば?
どうすれば、わたしはまた、セナと一緒にいられる?
ふと顔を上げると、勉強机に、一枚のパンフレットを見つけました。一昨日、帰りの会で、担任の先生が「行きたい人は行ってみてもいいと思います」と渡してくれた、ちょっとしたイベントの案内です。
薄いパンフレットでしたが、ソラにはそれが、神様からのお告げのように見えました。
夕方。
おとうさんとおかあさんは、まだ帰っていません。
ソラは家じゅうを駆け回り、没収された携帯電話を見つけます——すぐに起動できるように、おとうさんたちに内緒で、パスワードのロックを外していました——たった二回の操作で、コール音が鳴り出します。
『もしもし?』
気弱そうで、優しい声。ソラには慣れ親しんだ声でした。
「……セナ?」
『ソラ? きょうどうしたの? 風邪ひいちゃった?』
ソラの悪事は広まっていないようです。
「ちょっとね」
セナが疑問を挟むより先に、ソラは口を開きました。
「ねえ、明日、遊ばない?」
『え、うん、いいけど。ソラの家に行けばいい?』
「ううん、別のとこ」
『どこ?』
ソラは手元のパンフレットを広げます——武家屋敷、改装終了、イベントの開催——わたしが、セナの手を引いてあげないと。
「お化け屋敷があるの」
強引で、急な誘いを、セナは断らない……幼馴染のソラには、わかっていました。
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