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<注意>第37回小説すばる新人賞 落選作品 を改稿したものです
ここ二日ほど雪が降らなかったおかげか、通りの雪はほとんど溶けていました。見上げればどこまでも青空が広がっていて、真っ白な太陽が街じゅうを照らしています。日差しはぽかぽかと温かいですが、肌を出して歩くには、冬の空気は冷たすぎます。
くーちゃんは寒さに身を縮めつつ、ナルちゃんの後ろを歩きます。
商店の前を通れば、嫌でも、ガラス戸に映る自分が見えます——ぶかぶかのジャケット、マフラー、両手にもこもこの手袋——天使の威厳はどこにもありません。人間が想像するように、頭に輪っかのひとつでもあれば、天使らしく見えたでしょうか。
祖父江さんが言っていたように、この町は白壁と暖簾が有名のようです。ほとんどの家屋が白い粘土質の壁でできていて、玄関には色とりどりの暖簾がかかっています。
灰色の石畳の通り。突き抜けるような冬の青空。
古き良き伝統の町、といった風情です。
ナルちゃんが折々、町を説明します。ここは江戸時代から続く宿場町だとか、備中庭神城を中心とした城下町があったとか……なんのことやらさっぱりです。
ナルちゃんが言います。
「つまり、昔から続いている貴重な町だから、町ぐるみで大事にしましょう、ってこと」
「どれくらい前からあるの?」
「いまから四百年くらい前だって」
「たった四百年? この町の歴史って、ずいぶん浅いのね」
「そんなこと言うもんじゃないよ。たかが四百年、されど四百年。人間は歴史を重んじる種族ってこと」
この町は基本的に、観光客向けに商売を営んでいるようです。が、すれ違うのは、町に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃんがほとんどで、観光客はどこにもいません。地上に疎いくーちゃんでも、ここが田舎だというのはよくわかりました。
ナルちゃんの案内で、くーちゃんは古い木造の橋にやってきました。
橋のたもとには、『旧庭神橋』と銘打ってあります。幅が狭く、造りが古いせいか、くーちゃんたちが歩くたびに、橋板がぎしぎしと軋みを上げます。川下に目を向ければ、コンクリート造りの新庭神橋が見えました。
橋の真ん中に立ち、ナルちゃんは元来た道に振り返ります。
「いい町だよ。人間の数は少ないけど、お互いの関係は穏やかで、ゆったりとした時間が流れている。くーちゃんも、きっと気に入ると思う」
「ずいぶん、人間に感化されてるわね」
くーちゃんは鼻で笑います。
「人間の作ったお酒を飲んで、酔っぱらうくらいだもの」
「くーちゃんは人間が嫌い?」
「大っ嫌い。ぐずで鈍間な人間なんて、いじめて遊んでなんぼでしょ。逆に聞くけど、あんた、人間が嫌いじゃないの?」
「ぜーんぜん。むしろ好き。大好き」
ナルちゃんはくーちゃんの脇を通り、先の通りに戻っていきます。
彼女の後を追いつつ、くーちゃんは眼下の河川敷を見ました。どこかの誰かが捨てた空き缶やごみ袋が、河川敷の砂利の上に、いくつも散らばっていました。
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