第五話 およよー
僕達が王都を発ってから、七日が過ぎた。
その間立ち寄った街の商業ギルドでは、塩を売って収入を得ていた。
だが本当の目的は、商品が売れずに困ってるような人はいないか探す事だった。
そして今、このヤッチマッタ街の商業ギルドでも、その事を聞いていた。
「それなら、ミルフィーユお婆さんが、『落花生が豊作過ぎて、売り捌けなくて困ってるんだよ。およよー』って、言ってましたね」
「落花生かー。ピーナッツバターも作れるし、いいかも。まだ、ありますかね?」
「たぶん、あると思いますよ。地図を書きましょうか?」
「お願いします」
僕は地図を受け取って、ギルドを後にした。
「ようやく、旅の目的が叶うかもしれない。でも、『およよー?』って何だろうか?」
そんな事を考えながら、シロン達の待つ駐車場へ戻った。
「シロン、シャルロッテただいま」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、僕に頬ずりをしてきた。
そんな甘えるシャルロッテを、僕は撫でてやる。
「ご主人、今回はいい情報があったかニャ?」
「ああ、落花生だってさ。豊作過ぎて困ってるんだって。早速、今から行くよ」
「落花生ニャ。大好きニャ」
「猫に油分の多いピーナッツは、良くないみたいだぞ。お前《毒耐性》も無かったし、少ししかやらないからな」
「多分、大丈夫ニャ。体質は、人間の頃と変わらないニャ」
「そうか。だけど、腹を壊したら、魔法薬を飲むんだぞ」
「分かったニャ」
僕達はそんな会話の後、ミルフィーユお婆さんの店に向かった。
◇
確かに街では、落花生があっちこっちで売られていた。供給多寡である。
これらな、交渉しやすそうだ。
僕達は、地図で案内された店に着いた。
そこには、一人のお婆さんがいた。
「およよー、およよー、今年の落花生は豊作過ぎたよー」
何か呟いている。
「在庫がいっぱいだよー。誰か買っておくれよー。およよー、およよー」
一人であんな事を呟いて、本当に困ってるみたいだ。
僕は、お婆さんに声を掛けた。
「こんにちは、僕は行商人のニコルと言います。お婆さんは、ミルフィーユさんですか」
「そうじゃよ。およよー」
「商業ギルドで、お婆さんが困っていると聞いて来ました」
「およよー。お兄ちゃん、落花生を買ってくれるのかい?」
「値段次第ですけどね」
話を聞くと、初物は例年の値段で売れてたんだが、どこの落花生農家も豊作で売れ行きが下がってしまったそうだ。
値段を下げれば売れ行きは一時的に上がったが、そのうちまた売れなくなったと、お婆さんは言う。
そして今は、当初の値段の半額で売られていた。
「およよー。どんだけ買ってくれるんだい?」
「僕が納得する位安くしてくれるなら、在庫全部買ってもいいですよ」
可哀相だが、いくらまで値段を下げられるか交渉してみた。
「畑で沢山干してあるし、まだまだ取れるんだよ。倉庫の在庫を全部買ってくれるなら、今の値段の半分でいいよ。およよー」
「半額の半額ですか。いいですね。あと買う前に、味見をさせて貰っていいですか?」
「いいよー、いいよー。およよー」
僕はお婆さんから、落花生を殻の付いたまま三つ受け取った。
既に乾燥させて、煎ってある。
そして、落花生の殻を割って食べてみた。
「うん、充分美味しいです。これなら、買ってもいいですね」
「およよー。買ってくれるのかい?」
「そうですね。それじゃ、倉庫を見せてもらっていいですか?」
倉庫へ案内されると、一辺一メートルの木箱に二十箱あった。
それらには全部、落花生が詰まっている。
旦那さんと二人いる息子夫婦と孫達で、収穫と販売と行商を手分けして行っているが、捌き切れないようだ。
「随分、多いですね。全部で、いくらになります?」
「一箱、半分の半分の値段で二万五千マネーじゃよ。木箱は別じゃよ。およよー」
「それじゃ、二十箱で五十万マネーですね。小金貨五枚でいいですか?」
「本当に全部買ってくれるのかい? それならいいよ。およよー」
「それじゃ、これで」
僕は、ミルフィーユさんに小金貨五枚を渡した。
「およよー。ありがとよ、お兄ちゃん。ところで、どうやって持って行くんだい?」
「魔法袋がありますので、大丈夫ですよ」
「およよー。魔法袋かい。お兄ちゃん凄いねー」
僕はこの後、箱に入ってる落花生を魔法袋に詰め込んだ。
「およよー。ところで、お兄ちゃん。うちの親戚のも買ってかないかい?」
「えっ!」
僕はお婆さんの紹介で、親戚の店に行く事になった。
◇
ミルフィーユお婆さんから紹介して貰ったのは、親戚の落花生販売のお婆さんだった。
こんなに落花生ばっかりあってどうするんだと思ったけど、困っているようだし腐る心配もないので買ってしまった。
その後も数珠繋ぎで、あちこちの農家を回った。
玄米・薩摩芋・里芋・椎茸・梨・柿・トマト・落花生が、大量に手に入った。
さすがに落花生はもういいと思ったけど、可哀相で断れなかった。
今年は天候が良く、どこも豊作だったらしい。
エシャット村では手に入り辛い物が多かったが、玄米が手に入ったのは僥倖である。
ただ、村では米を食べる習慣が無いので、当分自分用になるかもしれない。
僕達はヤッチマッタ街を離れた後も、街や村で同じように聞いて回りながらノーステリア大公爵領を目指した。




