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第四十六話 戦争回避とその報告

僕はダニエル商会本店を後にし、平民街へ向かって歩いた。


「まっ、くよくよしても、しょうがない」


ダニエル商会と縁を切る事で、僕の収入源は《激減》する事になった。


「王都の貴族相手に、二年以上儲けさせて貰ったんだから、良しとしよう」


この二年で、僕の懐には驚く程お金が貯まった。


王都に来てダニエル商会を紹介して貰えたのは、本当にラッキーだった。

露店だけでは、こんなに稼ぐ事はできなかった。


「本当に、ありがとうございました」


僕は改めて、ダニエルさんとメゾネフさんと、紹介してくれた商業ギルドの副ギルド長に感謝した。



これからの主な収入源は、ノーステリア大公爵領の鍛冶屋で売る《鋼のインゴット》だけである。


商業ギルドで売る《塩》と《御食事処やまと》で卸す《一味唐辛子》も収入源ではあるが、その額は鋼のインゴットに比べると多くなかった。


エシャット村でもスーパーにいろいろ卸してるが、利益は村の農産物を大量に買い取って大半が消えてしまう。

それらは売らないと、お金にならないのである。


今のところ諸事情により、《亜空間収納》の肥やしになっている。


「もう遅いし、お茶はしていけないな」


平民街に戻ると、いつもの喫茶店でインスタントコーヒーだけ買って、二人が待つ《亜空間農場》へ帰った。



夕飯を食べながら、今日の出来事を二人に話した。


「そのおやじ、ムカつくニャ!」


『同感です!』


「貴族って、やっぱり信用ならないな」


『その貴族に、勇者達と同じリングをつければ良かったんじゃないですか?』


「《悪事矯正リング》か? それも考えたけど、変装してなかったからな」


『そうですか』


貴族を威圧しといて今更だが、正体を晒してのリングの使用は、リスクになると感じた。


「ご主人。これから、どうするニャ?」


「お金は充分貯まったから、のんびりするかな」


「それがいいニャ」


『私は、もっと旅を続けたいです』


「そうだな。のんびり旅をするか」


翌日以降、僕達は馬車でのんびり仕入れの旅を続けた。



九月下旬、《ノースブルム大峡谷の砦》から程近い《ガーランド帝国軍の砦》に異変があった。


各領地から集まった兵士達が、帰り始めたのだ。


僕は帝都へ行き、アレンさんにその事を伝えた。


「勇者達が参戦できず、一週間前正式に撤退を決めた」


「良かったですね」


「まーな。それと、勇者達を手玉に取った俺達の強さが、決定打になった」


「へー」


「これで、お役御免だ」


「お疲れ様です」


「国も余計な戦力を減らさずに済んで、一安心だ。来年の《魔王襲来》に、備えないとな」


「魔王ですか?」


「ああ。何でも魔物が地上に溢れて、幾つもの街を滅ぼすらしいぞ」


「それは大変ですね」


実はその事を、僕は知っていた。


魔王は超巨大な魔素の集まりを超圧縮し、制御が危ういまま《魔界ゲート》を通ってこちらに来る。

こちらの世界で漏れた濃縮魔素からは、容易に魔物が生まれるそうだ。


魔王達に余計な物を持って来るなと言いたいが、それで恩恵を受けてる人もいた。



「ニコル。何か様子が変だな」


僕がいろいろ考えていると、アレンさんがそれに気付いた。


「そうですか?」


「ふっ、まあいい。言えない事も、あるよな」


《第六感》スキルに、ほとほと感心する。


しかし、魔王がダンジョンにいる事は、口にしなかった。

余計な争いになっても、困るからだ。


僕の心配をよそに、『ひょっとして、アレンさんはもう知ってるんじゃないか?』なんて、思ったりもする。


「それじゃ、アレンさん。お元気で。僕はもう、ここへは来ません」


「ああ。俺も、何日かしたら帰る」


僕達は固い握手を交わし、別れた。



学園の夏休みは既に終り、週休みの日にグルジット邸を訪れた。


「ニコル君。無事で安心しました」


「心配掛けたね」


「本当に、ありがとうございます。お陰で、《戦争の未来》は消えました」


「どういたしまして」


僕は謙遜する事なく、素直に感謝を受け入れた。


「ニコル君に、何をお礼すればいいですか? 何でも言ってく下さい」


「いいよ、お礼なんて。ユミナが、笑顔でいてくれれば」


「でも」


本当に、それでいいと思った。



「ユミナ」


「何ですか?」


「結婚の事だけど、まだ気持ちは変わらない?」


「はい!」


ユミナは真剣な眼差しで、返事を返した。


「正直僕達は、二年前の夏休みの時しかお互いを知らない」


「はい」


「今度、エシャット村に来ないか? 以前話した幼馴染みの事も含めて、もっとお互いを知る必要があると思うんだ」


「行きます!」


「それと、僕は貴族社会と関わる気は無い。結婚するなら、エシャット村に住む覚悟が必要だよ」


「はい!」


「それじゃ、何時にしようか?」


「学園が十二月で卒業なので、一月はどうですか?」


「そうだね。それなら、十二月の下旬に打ち合わせに来るよ」


「はい! 待ってます」


帰ろうとした時、ある事を思い出した。



「そうだ。一つ、言っておく事がある」


「何ですか?」


「実は最近、王城に呼ばれて宰相様と揉めた」


「えっ!」


「理不尽な事するから、《威圧》スキルで脅してしまった」


「・・・」


「その結果、ダニエル商会に迷惑を掛けたくないから、取り引きを止めたんだ」


「ニコル君・・・」


ユミナは、僕を心配しているようだった。


「だから、僕とユミナの事が宰相様に知られると、グルジット伯爵家に迷惑が掛かるかもしれない」


「ニコル君。お父様とお母様なら、きっと大丈夫です!」


「そっ、そうなんだ。それじゃ、また来るよ」


ユミナの決心を確認しすると、苦手な両親が現れる前にお暇した。

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