第四十七話 ダンジョンの街の孤児院、騒動①
ユミナに戦争回避を報告した時、ステータスに変化が現れた。
称号《影の英雄》の特典《戦闘時のステータス二倍》が、《三倍》になったのだ。
この称号は、ある条件を満たすと成長するらしい。
しかし、この事は敢えてユミナに話さなかった。
今は仕入れの旅を済ませ、エーテル街の孤児院に馬車で向かっている。
寄付を済ませたら、ノーステリア大公爵領に家畜を購入しに行くつもりだ。
「あっ、ニコルおにーちゃんだ!」
「ほんとだ!」
「「「「「わー!」」」」」
孤児院の前を通ると、子供達が僕に気付いた。
馬車を敷地内に停めると、みんな集まって来た。
「みんな元気か?」
「「「「「げんきー!」」」」」
子供達は、大きな声で返事を返した。
しかしふと見ると、集団の後ろにいるコニーだけ、元気が無かった。
心配になり、御者台から降りてコニーに声を掛けた。
「コニー、元気無いな」
「うっ、うん」
「何かあったのか?」
「おじいちゃん、ゲンキないんだ」
「病気か?」
「わかんない」
「そうか。それじゃ、リンゼさんに会いに行こう」
「うん」
「シロン、シャルロッテ。子供達の面倒を、頼んだぞ」
「ニャー!」
「ヒヒーン!」
「「「「「わー!」」」」」
子供達はシロンとシャルロッテに、わらわらと集まった。
◇
僕とコニーは、家の中に入った。
「ココ、久しぶり」
『ビクッ!』
「ニコルさん!」
ゆっくり振り向くココの顔は、真っ赤に染まっていた。
「おねえちゃん。かお、あかいよ」
「コニー、何言ってるの! ニコルさん、いらっしゃい」
「お邪魔するよ。ところでリンゼさん、具合い悪いのか?」
「体調が悪いとかじゃ、ないと思います。多分、貴族の使いの方がみえたのが、原因じゃないかと」
「貴族?」
「はい」
嫌なワードを、聞いてしまった。
「リンゼさんは、何処にいる?」
「自分の部屋です」
「そうか。行ってみるよ」
リンゼさんの部屋へ行こうとすると、僕の回りに子供達が集まっていた。
そして、その目は何かを期待していた。
「そうだったな。ココ、お土産だ。みんなに、食べさせてくれ」
そう言いながら、クッキーが大量に入った籠を五つ魔法袋から取り出し、テーブルに置いた。
「「「「「「「「「「わー!」」」」」」」」」」
「いつも、ありがとうございます」
「どういたしまして」
ココは早速子供達を集め、クッキーを配った。
その様子を見てリンゼさんの部屋へ歩き始めると、コニーがついて来た。
「コニー、もういいぞ。みんなと、クッキーを食べてるんだ」
「おじいちゃんが、しんぱいなんだ」
「大丈夫。僕が何とかする。だから、待っててくれ」
「うっ、うん。わかった。おじいちゃんを、たのむね」
「ああ、任せろ」
そう言って、心配するコニーの頭を撫でてやった。
◇
『トン! トン!』
リンゼさんの部屋の前まで行き、扉を叩いた。
「リンゼさん。ニコルです」
「ニコルか。入っていいぞ」
『ギー、ガチャ!』
「お久しぶりです」
「久しぶりじゃな」
実際に会ってみると、リンゼさんから覇気が感じられなかった。
「コニーとココから、元気が無いと聞きました。何かあったんですか?」
「まあな。ニコルだから話すが、孤児院の退去命令が出たんじゃ」
「えっ! ここは、街の公共施設ですよね?」
「そうじゃ。援助金が途絶えて久しいが、遂にここまでしてきおった。噂では、代官の次男の家を建てるそうじゃ」
「それは流石に、元気も無くなりますね」
「こんな大所帯、この街に行く所などありゃせん」
「四十人近いですもんね。それで、いつまでいられるんですか?」
「あと、二十日じゃ」
「期限まで、余裕無いですね。何だったら、僕の故郷の村に来ませんか?」
「いいのか?」
「いいですよ。僕が何とかします」
「何から何まで、すまん!」
リンゼさんは涙ぐみながら、頭を下げた。
「頭を上げて下さい。引っ越しの具体的な話しをしましょう」
「そうじゃな。じゃが、孤児院が無くなると、この街の新たな孤児の行き場が無くなるのう」
僕はそこまで、考えてなかった。
「ここにいる子供達だけの問題じゃ、ないんですね」
「そういう事じゃ。ここは、ダンジョンの街。親を無くす子は、少なくない」
「参りましたね。これからの事となると、行政のあり方を何とかしないと」
「わしの甥が、代官になったばかりに・・・」
「領主様に、訴えましょうよ」
「直接会う事は、難しいじゃろ。以前手紙を送ったが、音沙汰無しじゃ」
リンゼさんは、俯いてしまった。
「ヒヒーーーン!!!」
「シャルロッテ!」
突然、シャルロッテの嘶く声が聞こえた。
牡馬が寄ってきた時と、同じ感じだ。
「何じゃ。何事じゃ?」
「様子を見てきます」
僕はシャルロッテの元へ、急いで向かった。




