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第十話 王都、失踪事件

茶髪のカツラと伊達メガネを身に着け、僕は王都のダニエル商会に来ていた。


「ニコルさん。ガラスの鏡が、既に売り切れてしまいました」


「早速ですか」


「ダニエルオーナーが、贔屓にしていただいている貴族様を伺ったところ、どのお屋敷でも奥様やお嬢様の評判が大変良かったそうです」


「そうですか」


「貴族の方々は、美に関して熱心でいらっしゃいますから」


「確かに貴族のイメージは、美男美女ですよね。性格は、分かりませんが」


貴族には横柄なイメージがあるので、つい余計な事を言ってしまった。


「そう言えば、ニコルさんはラングレイ伯爵家と懇意でしたな」


「ちょっとした事で知り合いましたが、前回の呼び出し以来、疎遠になってます」


「そうですか。勿体無いですね」


「いえいえ。一介の行商人の身分で、貴族と直接商売をするなんて、気苦労が大き過ぎます」


「ははっ、ニコルさんらしいですな。それで、いつもの事ながら、お願いがあるのですが」


「えーと、何でしょうか?」


用件は分かっていたが、惚けてみた。


「分かってらっしゃる癖に、意地が悪いですね。納品の数ですよ。もう少し、何とかなりませんか?」


「やっぱり、そうですよね」


「数も少ないので店先では宣伝してないのですが、評判を聞き付け問い合わせと予約が既に入ってるんですよ」


「そうですか。それでは次回来る時、多めにお持ちできるよう努力します」


「ええ。是非、宜しくお願いします」



この後、いつものように商品を卸し大金を受け取ると、メゾネフさんが深刻な顔で忠告してきた。


「それから、ニコルさん。最近王都が物騒なので、気を付けてください」


「物騒? 何があったんですか?」


「実は子供の失踪を、よく耳にするんです」


僕は一ヶ月前に、子爵家嫡男の嫉妬心から、拉致されたばかりである。

しかし、この事はメゾネフさんに伝えてない。


「子供の失踪ですか? 成人はどうなんです?」


「今のところ、子供だけですね」


「そうですか」


子供だけという事だが、用心に越した事はない。

しかし、本当の意味で僕を誘拐できる奴なんて、そうはいない筈である。


「ご忠告、ありがとうございます。それでは、失礼します」


僕はメゾネフさんに暇を告げ、ダニエル商会を後にした。



いつもと変わらない街並みを見ながら、喫茶店に向かって繁華街を歩いた。


「誘拐事件か。物騒だな」


一見平和そうに見える王都でも、僕以外に誘拐に会う人がいる事を知って、思わず口から漏れてしまった。


「たすけてー! だれか、たすけてー!」


そこに、《ご都合主義》かと思うようなタイミングで、微かな叫び声が聞こえてきた。


街の喧騒に掻き消され、僕以外には聞こえていないようだ。


「んぐぐっ、んぐっ!」


そして、その小さな声は呻き声に変わった。

どうやら、口を塞がれてしまったようだ。


その呻き声を追い掛けると、人通りの少ない路地に辿り着いた。

しかし、その呻き声は、突然途切れてしまった。


「さっきのは、子供の悲鳴だよな。誘拐か?」


そのまま路地を走って行くと、繁華街の裏通りに辿り着き、男が大袋を肩に乗せ馬車に乗り込んで行く姿を見付けた。


「あの袋の中身、怪しいな」


このまま放っておく訳にもいかず、馬車を追跡した。



暫く追跡すると、馬車は貴族街に入っていった。


「よりによって、貴族街か。面倒だな」


僕はそう言いながらも、《転移魔法》で貴族街に侵入した。


そして、引き続き馬車を追跡すると、どこぞの貴族の屋敷の敷地に入っていった。


《検索ツール》の地図で確認すると、僕は以前この場所に来ていた。

地図にはしっかりと、マーキングがされていた。


「嘘だろ!」


そこは、僕が拉致されて連れて来られた、子爵家の屋敷だった。


以前来た時は、頭に袋を被せられていたが、ちゃっかり地図で場所は把握していた。


「取り敢えず、緊急事態だ。不法侵入だが、入るしかないな」


僕は《転移魔法》で敷地に侵入し、馬車を追跡した。


その間に、身バレしないよう《変装魔法》で姿を変えた。



馬車は例の如く屋敷の裏口にまわり、大袋が男に担がれ中に運び込まれた。


その瞬間袋を鑑定してみたが、中身はやはり子供だった。


「さて、どうしたものか?」


取り敢えず現状を把握する為、《検索ツール》の地図で屋敷を探ってみた。


「十人か。随分いるな。この一ヶ月の間に、よくやるよ」


屋敷を調査した結果、誘拐されたのは地下牢にいる男の子五人と女の子五人のようだ。


誘拐の実行犯は地下から出て行くようだが、見張りが二人いる。


「アルフォードは酷い奴だったが、親譲りなんだろうな」


これ程の規模となると、まだ学生であるアルフォードがやったとは考えられない。

黒幕は、父親の子爵の可能性が高い。


「犯人を突き止めるのは、後回しだ。取り敢えず、子供の救出が先だな」


僕はこの後、子供達を救出をする為、屋敷に侵入する事になる。

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