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第七話 ニコルの仕返し

ユミナには、昨年ダンジョンの同行を断って以来会ってない。


用事がある時は、ダニエル商会経由で連絡をとる事になっていた。

しかし、今まで一度もその連絡は来なかった。


彼女は伯爵家のお嬢様なので、身分の違いもあり僕から会いに行く事も無かった。


「お貴族様は言い掛かりをつけて、裁判も無しにこんな仕打ちをして許されるんですか?」


「『言い掛かり』とは何だ! 貴様は身分の差を、まだ分かってないようだな」


そう言いながら、アルフォードは鞭を振るった。


『ビシッ!』


「うあっ!」


これは、演技である。


「僕は、無実です!」


「だから貴様は、不敬罪と逃亡罪だと言ってるだろ!」


アルフォードは、再び鞭を振るった。


『ビシッ!』


「うあっ!」


これも、演技である。



「あなたに、裁く権利は無い。裁きは、法廷で下すものだ!」


アルフォードを睨み付け、強い口調で言い放った。


『バシンッ! バシンッ!』


「うあーー!」


先程より、鞭を振るう手に力がこもっていた。


「平民のくせに、少しは学があるようだな。しかし、貴様は世の中が、本当に公平だと思っているのか? 証拠なんて、どうにでもなる」


「情報操作や、買収をするつもりか? やっぱり、この国にもあるんだ。腐ってる!」


『バシンッ! バシンッ! バシンッ!』


「うぐあーーー!」



「本当に、貴様は生意気だな。おい、《首輪》を寄こせ」


「はい!」


アルフォードは、男から金属製の首輪を受け取った。


その首輪を《鑑定》すると、《隷属の首輪》となっていた。

人を、奴隷にする事のできる魔道具だった。


『この男が僕に向ける感情は、度を過ぎた嫉妬心だと思っていた。しかし、今日ここへ来て考えが変わった。こいつは、『貴族』という権力を笠に着た、ただの悪党だ』


そう思いつつ、僕の心は妙に冷めてしまった。


「もういいや。《睡眠》」


僕は《闇属性魔法》の《睡眠》で、アルフォードを眠らせた。


『バタリッ!』


「アルフォード様!」


「貴様、何をした!」


「《睡眠》」


『『バタリッ!』』


僕に近付いたところで、従者の男二人も眠らせた。



「《開錠》」


そして、鎖の鍵を《無属性魔法》の《開錠》で解いた。


「こんな物騒な物、回収しておこう」


そう言いつつ、アルフォードが手にしている隷属の首輪を奪い取り、《亜空間収納》にしまった。


回りを見渡すと、牢屋が幾つかあったが、幸いにも人が囚われている様子は無かった。


「さて、どう落とし前をつけるか? 正直、仕返しするのも面倒だ」


僕には、人をいたぶって喜ぶ趣味は無かった。


「勝手に、自滅してくれればいいのに」


だが、嫌悪に満ちた言葉が、不意に出てしまった。


結局、僕がアルフォードにした仕返しは、地下牢に寝たまま置き去りにするだけだった。



人目に付く前に《転移》で自宅に帰ろうとも思ったが、少しだけ屋敷を散策する事にした。


地下牢の場所は地下二階にあり、部屋を出て階段を上った。


地下一階には部屋が幾つかあったが、人の気配は無かった。

やばい物でも、隠してありそうだ。


地上に上がると、地下専用の階段室になっていた。

内側からは、手で鍵が開けられる仕組みになっていて、鍵を開け階段室から出た。


階段室の外は狭い廊下になっていて、薄暗かった。

すると、廊下の先で光る目が僕を見据えていた。


「ニャー!」


「猫か」


この屋敷の主人は、シロンを『ミーシャ』と名付けて、一時期飼っていた子爵である。


「ニャー!」


猫は僕の足元まで来て、尻尾を立てながら体を摺り寄せた。


「何だお前。お腹でも、空いてるのか?」


僕はしゃがみ込み、猫を撫でてやった。


「ニャー!」


「今は、あげられないんだ。ごめんな」


「ニャー!」


そう言うと、猫は去っていった。



薄暗い廊下を進むと、明かりのある広めの廊下に出た。

見渡すと、この屋敷は随分広い事が分かる。


更に進むと、豪華に装飾されたエントランスに出た。

そこには、使用人が何人も見受けられた。


「あれっ、シロンの像があるぞ」


エントランス階段の横には、シロンをモデルに作ったガラスの像があった。

大きさは、おおよそ実物大である。


「シロンも、ツイてないな。ガラスの像になってまで、嫌ってる相手に飼われてるよ」


だからと言って、売った物をどうこうするつもりは無かった。


「シロンには、内緒にしておこう」


シロンに教えたら、騒ぎ出しそうな気がした。



僕は、隠れて様子を伺っていた。


「ニャー!」


さっきの猫が、僕の足元にやって来た。


「しー、静かにしてくれ」


口元に人差し指を立てて、猫を諭した。


「ニャー!」


すると、別の猫がやって来た。


「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」


理由は分からないが、何匹も猫が集まって来てしまった。


「お前ら、これじゃ見付かるだろ」


「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」「ニャー!」


「失礼ですけど、どちら様でしょうか?」


「ほらー!」


メイドさんに声を掛けられて、思わず猫達に当たってしまった。


「えっ!」


「いえ、何でもありません。僕はアルフォード様に、連れられて来ました。もう、用事が済んだので、帰ります」


「はー、そうですか」


「では、失礼します」


こっそり家を出ようと思っていたが、見付かってしまったので、逆に堂々としてみせた。


それが功を奏してか、玄関からすんなり出る事ができた。

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