第三十四話 ニコルの誤算
二人の事を父さんに相談すると、正式に養鶏場で働く事が決まった。
今は養鶏場に戻り、二人に仕事の内容を、説明しているところだ。
「へー、飼育するのは、ニコルが仕入れてくる鶏肉とたまごのご先祖なんだ。この仕事が上手くいけば、いつでも食べれるって訳だな」
「そうなんです。正式には《赤色野鶏》と言いますが、僕は《野鶏》と呼んでます」
「ふーん、赤色野鶏か。ところで、ニコル。その赤色野鶏は、どこにいるんだ?」
《亜空間農場》から野鶏を移す前だったので、まだ養鶏場は空だった。
そんな状況を、ダリルさんに追及されてしまった。
「やっぱり、気になりますよね」
「ああ、建物が空だからな」
「野鶏のいる場所は、分かってるんですよ。遠いですけど、明日にでも捕まえに行きます」
「それなら、僕手伝うよ!」
「俺も行こう」
「二人共気持ちはありがたいけど、僕一人で大丈夫です」
「えー!」
「エレン。ニコルがこう言うんだったら、大丈夫なんだろう。我侭を言ったら駄目だ。諦めろ」
「分かったよ、父さん」
ダリルさんは、僕の事を過剰に評価してるような口振りが時々ある。
僕はウソを吐いてるので、少し後ろめたかった。
僕は《亜空間農場》の秘密を守る為、再び旅に出る事になった。
◇
二週間後、エシャット村に野鶏を持ち帰る日になった。
その間、《鳥かご型荷車》を作ったり、王都やノーステリア大公爵領に行って商品を卸した。
その他の日は、プラークのダンジョンで過ごした。
そのお陰で、ドロップ品が大量に溜まってしまった。
そして今は、野鶏を《亜空間農場》から鳥かご型荷車に移しているところだ。
「あれ? たまごが一個も無いぞ。殻も無い」
今頃気付いたのかと思うだろうが、今まで結構忙しかったのである。
そこで《検索ツール》で、野鶏の産卵について調べてみた。
「何だ、そうだったのか。野鶏って、たまごをあまり生まないんだ」
元々野鶏は、春に十数個しかたまごを生まないそうだ。
たまごをほぼ毎日生む《鶏》は、品種改良した賜物らしい。
「ご主人、大丈夫か二ャ?」
「ヒヒーン!」
「たまごを産む数が少ないと、育てるのに経費ばかり掛かって、スーパーに卸せないんだ」
「ご主人」
「ヒヒーン!」
僕はエシャット村の近くに転移し、沈んだ気持ちのまま馬車を走らせた。
◇
ワン太に迎えられ、エシャット村に到着した。
「ただいま」
「ワンッ!」
その足で養鶏場に向かうと、ダリルさんとエレンがいた。
「ニコル、お帰り」
「ニコルにーちゃん、お帰り」
「ただいま。ダリルさん、エレン」
「ニコル。なんだか、元気無いな」
「えっ! ハハッ、分かります?」
「まあな」
「ニコルにーちゃん、どうしたの?」
僕は二人に、野鶏の産卵について話した。
「ニコル、落ち込む必要無いぞ。これだけ、野鶏を持ち帰ったんだ。狩猟組より、よっぽど凄いじゃないか」
「そうだぞ、ニコルにーちゃん」
「二人共ありがとう」
「エレン、仕事だ。馬車から養鶏場に、野鶏を移すぞ」
「うん、分かった」
僕は二人の前向きさに、励まされた。
錬金術に《品種改良》の能力はあったが、植物にしか使えなかった。
僕はこの二人と、『年月を掛けて、少しずつ改良できればいいのかな』と思った。
◇
翌日、養鶏場に来ていた。
「コケー! コケー! コケー!」
「コケー! コケー! コケー!」
「雄同士は、仲が悪いな。一羽ずつケージにいれるか?」
「どうしよう。ニコルにーちゃん?」
「捌いて肉にしちゃえば、いいんじゃないか?」
「ニャー、ニャー、ニャー」
「「コケッ?」」
一瞬、野鶏の動きが止まった。
しかし次の瞬間、羽ばたきながら僕の前から走り去った。
「コケッ! コケッ! コケッ!」
「コケッ! コケッ! コケッ!」
「あれ? 喧嘩を止めて、慌てて逃げたぞ」
「ニコルの言葉が、通じたみたいだな」
実はシロンが、僕の言葉を野鶏に通訳していた。
「雄鶏は少ないから、そんな事したくないんですけどね」
たまごを当てにしていたので、雄は全体の一割だった。
「それじゃ、任せても大丈夫ですかね」
「ああ、何かあったら呼びに行く」
「任せてよ!」
僕は養鶏場を後にし、一旦自宅へ向かった。
するとそこには、サジとスギルがいた。




