第三十二話 ダンジョンの街の孤児院、訪問
2020/10/07 第五章のタイトルを変えます。
朝食を済ませた後、プラークの街の屋台でいろいろと買い込み、エーテルの街に転移した。
シャルロッテが引く馬車で孤児院へ向かうと、早速子供達に気付かれた。
「あっ、ばしゃにニコルにーちゃんがのってる!」
「ほんとだ!」
「「「「「わー!」」」」」
馬車の周りに、子供達が笑顔で集まって来た。
「ニコルにーちゃん。また、きてくれたんだ」
「ああ、また来たぞ。コニー」
子供達は、僕が来ると期待した顔をする。
「今日は、美味しいパンを持って来たぞ。お昼に食べさせてやる」
「「「「「わー!」」」」」
子供達は、いっそう笑顔になった。
そして、僕の影からシロンが顔を出した。
「あっ、ネコだ!」
「もふもふ、させてー!」
「だっこしたーい!」
シロンをここに連れてくるのは、久しぶりだった。
「シロン、遊んでやってくれないか?」
「ニャー」
シロンは子供達の輪の中に入り、モフられていた。
「ニコルにーちゃん。うまにのりたいな」
「コニー、ごめんな。この馬は、僕しか乗せてくれないんだ。荷車の方なら、乗せてやるぞ」
「うん、荷車でいい」
コニーを抱えて、御者台に乗せてやった。
「コニーばっかり、ずるい。わたしも、のりたい!」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」
子供達は馬車に乗った事がないようで、みんな乗りたがった。
「分かった。それじゃ、リンゼさんに断ってから乗せてあげるよ」
「「「「「やったー!」」」」」
暫くすると、子供達に連れられてリンゼさんが現れた。
「お久しぶりです。リンゼさん」
「おお、ニコル。また、来てくれたか。今日は、馬車で来たんじゃな」
「ええ、そうなんです。子供達にせがまれて、馬車に乗せてもいいですか?」
「ああ、よろしく頼む」
今までも二ヶ月に一度のペースで、一人で孤児院の様子を見に来ていた。
その都度食料の差し入れをし、お金も半年ごとにまとまった金額を渡していた。
「ニコルにいちゃん、はやくばしゃにのせてよ」
「ああ、分かった」
今回は、オーソドックスな幌付きの荷車だった。
コニーを御者台の僕の横に座らせ、その他の子供達を荷台の方に乗せ馬車を走らせた。
「わー、はやーい!」
「おうまさん、ちからもちー!」
「ばしゃって、たのしーねー!」
子供達を一度に十人ずつ乗せ、数回に分けて馬車を走らせた。
◇
お昼になり、魔法袋からコッペパンとオレンジジャムを取り出した。
今の孤児院は、朝と夕の一日二回食事をとれるようになった。
リンゼさんの方針で、三食にはしないらしい。
「ココ。パンにジャムを塗るのを、手伝ってくれないか?」
「はっ、はひぃー!」
「それじゃ、このパンの真ん中に、ナイフで切れ目を入れてくれ」
「わっ、分かりました」
ココは相変わらず、僕に慣れてくれない。
未だに、恥ずかしそうにしている。
人数分のパンにジャムを塗り終わり、子供達に配った。
そして、お祈りを済ませた。
「このパン、しろいねー」
「ふわふわしてるー」
「もぐもぐ、やあらかくてあまくておいちー」
オレンジジャムを塗ったコッペパンは、子供達に好評だった。
この後、僕が抱えているエシャット村の農作物と、プラークの街のダンジョンで確保した肉と、オレンジジャムとピーナッツバターを差し入れした。
「いつも、すまんのー」
「いいんですよ」
「ところで、今回あれは無いのかのー?」
「あれ?」
「あれじゃ、あれ」
「もしかして、これですか?」
そう言いながら、ボトルワインを魔法袋から取り出し、リンゼさんに差し出した。
「おお、これじゃ」
前回来た時に何気に渡した、錬金術で熟成させた安物のボトルワインだった。
「あんな美味いワイン、初めて飲んだんじゃ」
「それは、差し上げます。一本じゃ足りないだろうから、もう一本あげますよ」
「おお、ありがとう。まるで、催促したみたいじゃの」
「えっ、今催促してましたよね」
「なっ、なっ、なんて事を言うんじゃ。ニコルは、年寄りに意地悪じゃの」
「ははっ」
リンゼさんは食いしん坊な上に、お酒も好きみたいだ。
日頃、子供達の為に我慢しているので、これくらいの要求は可愛く思えた。
僕はこんなリンゼさんを、尊敬していた。
「それじゃ、そろそろお暇しますね」
「そうか。もう、帰るのか。気を付けてな」
この後、子供達にも挨拶し孤児院を後にした。
そして、僕達はエーテルの街を離れ、仕入れの旅を続けるのであった。




