無理しなくてもいいのですよ
「………なるほど。これは確かに、私の助けは必要ありませんでしたね…。」
「剣の筋は良かったって言ったでしょう?これだけは先生からも褒められていたのよ。」
未だ呆然とする私に、アリア様は少しだけ照れたように笑った。
こちらの存在に気付いて襲いかかってきたホーンラビットを一突きで絶命させ、もう一体も危なげなく討伐。
初めて見るアリア様の姿に開いた口が塞がらない。
「身体強化もしていないというのに、凄まじい運動神経ですね…。」
「こういうところだけは自分にセレンディアの血が流れていて良かったって思うわ。」
さすがに魔物相手は慣れていないのか、少々ぎこちない動きではあったが、それでも充分に冒険者としてやっていけるレベルだ。
アリア様に戦わせるのは不本意ではあったが、これは嬉しい誤算だろう。
逃亡生活をする上で自衛ができるということはとても重要である。
「でも、体を動かすのは久しぶりだからか、まだまだ本調子じゃないわね。これからは毎日素振りでもしようかしら。」
「…無理はしないようにしてくださいね。」
これは、いつか本当に私は必要無くなるんじゃないだろうか。
そう思ってしまうほどに、アリア様の剣術と身体能力は素晴らしいものだった。
もしもアリア様に魔法が使えていたのなら、セレンディア家でも屈指の騎士になっていたのではないだろうか。
そう考え込んでいると、心配したアリア様に顔を覗き込まれてしまった。
「セレナ?そんなぼーっとしてどうかしたの?角と魔石を回収するから短剣を貸してちょうだい。」
「あぁ、すみません。はい、どうぞ。」
不思議そうにしながらもアリア様は受け取った短剣でホーンラビットを解体していく。
シルバーベアとの戦闘で欠けてしまった短剣だが、この程度であれば問題なく使うことができる。
森を逃亡している時も何度か動物の解体を手伝ってもらっていたが、未だ慣れないのかアリア様の表情は険しい。
「アリア様、私が代わりにやりましょうか?」
「…だめよ。これにも慣れていかなければいけないわ。いつまでも逃げてばかりじゃいられないもの。」
「…分かりました。」
思わず声を掛けたが、キッパリと断られてしまった。
……薄々勘づいてはいたが、恐らくアリア様は戦闘が好きではないのだろう。
私が魔物と戦う時はいつも、隠してはいるようだがアリア様の表情には暗いものが浮かんでいた。
それもあってアリア様には戦闘に参加しなくていいと言っていたのに、見た目に反して強情な方である。
その後もひたすらホーンラビットを狩り続け、気が付けば空はうっすらと茜色に染まっていた。
夜の森は危険であるため、私達は急いで森を出て街へと戻った。




