第十八話 入学式放課後~諦めたくない~(白水望)
本格的にやばい。
先程の第1ゲームを振り返りながら、私は素直な感想を頭の中で思い浮かべる。
男子同士のゲームなら、サーブ権を持っている方が圧倒的に有利。だから、あれぐらい簡単に取られても問題ないけど…。
何が不味いって、終盤になっても落ちない、寧ろどんどん精度が上がっている厄介なフラットサーブ。
まぐれで速いならまだ諦めが付くけど、フォルトも全然ないし、あれがスタンダードなプレイって事だよね。
相手のサーブコースはもう山を張った方が良いと思う。後は、返す時に…。
「タイムバイオレーション。早く打ちなさい」
その時校長先生の声が聞こえる。
そうだ、私のサーブ権だ。
ふと自分のサーブ権だと言うのを忘れて、ボールを持ったまま考え事をしていたのだ。
急いで打たなきゃ。
そんな考えで打つサーブは当然。
「フォルト」
入らない。
入れないと、入れなきゃ。
焦れば焦る程。
「アウト」
入らない。
ダブルフォルト。0-15。
焦ったら駄目焦ったら駄目。
私は自分に言い聞かせる。
「すぅー、ふーっ」
私は今一度、大きな深呼吸をする。
残り15秒。
脳に酸素が行き渡ったかいがあるのだろう。次のサーブの選択肢が幾つか頭の中で思い浮かぶ。
安定のスピンサーブ、トップスライスサーブ、そして―。
そうだよ。私にはこのサーブがある。
冷静に考えよう。
私は今サーブを2回ミスしている。
次のサーブは、1stサーブ扱いだけど。2回ミスしている事を考えたら、例え1stでも普通は安定を取りたくなる。
残り10秒。
でもこのサーブなら私は基本ミスをしない。
サーブ動作に入る前に、私は体を捻り始める。
このサーブを女子でも威力を出す為には、サーブ動作に入る前に体を軽く余分に捻る事が重要なのだ。
この捻りは何度も何度も練習して、外見では全く判断が付かない程度に抑えている。
残り5秒。
私はボールを軽く3回、地面へ突く。
もう、迷いは消えた。