98. 三者面談 その1
お読みくださりありがとうございます。
次もこの下りの続きになります。
先ずコレットが、客間に皆を招き入れた。クロエとオーウェンも客間に入る。
彼女は自身を抱き上げているオーウェンに
「あ、アタシ降りるよお兄ちゃん。お兄ちゃんには、ソファに座ってもらわなきゃ。抱っこしてくれてありがと!」
とお礼を言って降ろして貰おうとした。
しかしオーウェンは彼女を降ろさず、そのまま案内されたソファに腰を下ろし、膝にクロエをちょこんと座らせる。
「あの、アタシ重いし……。降りるよ、お兄ちゃん」
とクロエは背後のオーウェンを見上げながら、もう一度伝える。
そんなクロエにオーウェンは優しく頬笑み
「可愛い妹を離したくないんだよ。クロエが嫌じゃなければ、このままで居てくれないかな?
1才なら普通にこんな感じで抱っこするでしょ?
……やっぱり嫌?クロエはしっかりしてるし……」
と残念そうな表情に変わり始める。
そんなオーウェンの様子に慌てた彼女は
「全然!全然問題ないよ、お兄ちゃん!重いかな~って思っただけ。じゃ、このまま膝の上に居て良い?」
と頷いて大人しく膝の上に納まった。
オーウェンは嬉しそうにクロエの頭を撫でて、しっかりと彼女を抱える。
そして2人して正面を向いて座ると、同じ黒髪、同じビリジアンの瞳、顔立ちもどことなく似通う2人に、周りは改めて2人が兄妹だと感じる。
そんな2人を目の当たりにしたコリンが
「うわ……クロエとオーウェン様って凄く似てる。髪色と目の色が同じせいかな?
何か僕より本当の兄妹みたい……。
ダメだダメだ!こんな変なこと考えちゃ!クロエが気にしちゃう。
……視察の間だけだもの。焼きもち妬いちゃダメだ!我慢しなきゃ」
と呟きながら自身に言い聞かせる。
それを耳にしたライリーが
「……大丈夫だよ、コリン。クロエは僕達皆の大事な妹。オーウェン様ももうそう感じていらっしゃる。
そしてクロエは僕達一人ひとりが大事な兄姉だとしっかり理解してくれてる。
……盗られちゃうとか、兄だと思われなくなるとか、そんな余計な心配は要らない。ディルク先生の講義で、クロエの気持ちをしっかり聞いただろう?だから安心しろ。
視察の期間中、オーウェン様にはクロエと出来るだけ共に行動して頂こう。
……僕達だってもしクロエを失ったらどうする?考えたくもないだろう?
オーウェン様は既にその苦しみを味わっておられるんだよ、コリン。
だからせめて此方に居られる間は……“妹”との時間を過ごしてもらうんだ。良いね?」
とコリンを諭す。
コリンはライリーを見上げて
「そうだ、さっきクロエも言ってたけど、オーウェン様には妹さんが居たの?亡くなられたってホント?
僕聞いたことない。何で皆は知ってたの?僕だけ又仲間外れ?」
とコリンが膨れて聞く。
ライリーは苦笑しながら
「……悲しくて辛いお話だからね。僕とミラベルは去年アナスタシア様からお聞きしていたから。それにクロエの場合は妹君に似ている事もあって、多分ディルク先生から事前にきかされていたんだろうし。
……大事な家族を亡くされた話だから、勝手にコリンに教えて良いものかどうか解らなくてね。ごめんよ」
と詫びた。
コリンは頷いて
「……去年の僕なら、ほらやっぱり仲間外れだって未だ怒ってただろうけど……今なら解るよ。謝らなくて大丈夫だよ、兄ちゃん。
クロエを亡くすなんて……考えたくない。もうあんな思いは絶対嫌だ!あの怖さは……忘れられない。
そうか……オーウェン様はあの思いを知ってるんだよね。そして本当に妹さんを……。
うん、兄ちゃんの言う通りだ。クロエも納得してるみたいだし、僕もオーウェン様には少しでも悲しみを癒してもらいたいよ。
クロエにはいっぱいオーウェン様に甘えて貰おうね!……でもクロエって甘えるの下手だからな~。そこだけ心配」
と頬に手を当てて首をかしげる。
ライリーが可笑しそうにコリンを見て
「甘え下手ね、確かにそうかも。コリンの方が甘えるの上手いよな」
と相槌を打つ。
「……何か上手いって言われても嬉しくないけど。でも僕のが上手いとは自分でも思うよ。
クロエって、甘えるのは悪い事って考えてる気がする。何でだろう。
でも、だからクロエって甘やかしたくなるんだよね。頼らないで頑張ろうって姿を見てると、僕も見習わなくちゃって思うし。
でも時々寂しく感じるときもあるんだよね、もっと頼ってくれたら良いのにって。
オーウェン様も焦れったく思われなきゃ良いんだけど……。まぁ、クロエだからなぁ~」
とコリンが心配だ~という表情をする。
ライリーはクスクス笑いながら
「……コリン。その台詞、実はミラベルも言ってたんだよ。先生から聞いた。僕も思ってたし。
だからクロエの兄姉になったら皆、その歯痒さに焦れったくなるんじゃないかな。でもしょうがないんだよ、それがクロエなんだもの」
と彼女が聞いたら赤面する様な話を2人でする。
暫く大人達は話をしていたが、やがて視察日程は1週間でその予定が話し合われる。
前回同様守るべき地に皆を案内する他には、森の探索等がある。
そして今回、オーウェンのみはシェルビー家の子供達の講義を共に受講させたり、武術の鍛練も共にする手筈となった。
オーウェンも喜んだし、子供達も大喜びした。
そしてクロエの成長度合を見極めると言うことで、ディルクとジェラルドとクロエの三者面談も予定された。実はジェラルドが、転生者と云うクロエと今すぐ直接話がしたいとディルクに申し出があったのだ。話には聞いていたが、実際に当人と顔を会わせてみると想像を遥かに超える知能を見せつけられたため、居てもたっても居られなくなったらしい。
これは直ぐにでもと言うことで、オーウェンと子供達に断りを入れ、ディルクは早速ジェラルドとクロエを連れて小屋に向かおうとする。
オーウェンは小さなクロエが怯えては可哀想だと異議を唱えたが、シェルビー家の者達は皆、彼を宥めるように声を掛け
「大丈夫ですよ。クロエだから、寧ろ先生とジェラルド様が言い負かされるかもしれません。
あの子が怯えるなんて無いですよ、オーウェン様。
なにか先生には考えがお有りの様ですし、こちらで僕達と待っていましょう」
とライリーが代表してオーウェンを諭した。
オーウェンは渋々頷き、ディルクにクロエを渡す。
クロエはオーウェンを安心させるように
「だーいじょーぶですよ!アタシお喋り得意なだけで、後は何にも出来ないから、却ってジェラルド様をがっかりさせてしまうかも~」
と呑気な台詞を残し、ディルク達と小屋に向かった。
オーウェンは心配そうにその3人の後ろ姿を見送っていた。
「さて、暫く待っておれ。結界を張る。ジェラルド、石を寄越せ。貴様の我が儘で話をするんじゃ。結界魔力は貴様持ちじゃ」
とディルクがジェラルドに噛み付く。
ジェラルドは頭を掻いて
「しまった、向こうに袋を置いてきた!
先生、お願いしますよ~。悪気はないんです、ちょっと忘れただけで……」
とディルクにこの場に魔晶石を忘れたことを告白し、石の提供を頼む。
ディルクはニヤリと笑い
「3倍返しな。しっかり回収する。貴様を甘やかすつもりは無いからの」
と懐から魔晶石の袋を取り出し、結界を張り始めた。
ジェラルドはその台詞を聞き
「3倍……。いくらなんでもそりゃキツイ!せめて2倍で~!」
と泣き言を言ったが、勿論ディルクが聞く筈は無かった。
2人の些かセコいやり取りに
「魔晶石ってそんなにお高いのですか?じゃあ、そんな贅沢な石を使わなくても小さな声で話すとか、紙に書くとかして気をつけて話をすれば……」
とクロエがおずおずと気を遣う。
老人2人はそんな小さな幼子の気遣いを聞いて、ばつ悪そうに顔を歪める。
「いや、なに、そんなつもりの会話では無かったのだ。クロエに気を遣わせるとは、儂達の配慮が足りなかったな。すまぬ」
とジェラルドが言うと
「大丈夫じゃ、クロエ。バンバン使たらエエんじゃ。儂達と違って、ジェラルドの懐はそんな小さな物で痛みはせぬ。節約など、こ奴が得をするだけじゃ。
それに魔晶石はガルシア達がかの地で見付けてジェラルドに献上しておるのだ。こ奴は儂等のように購って所持しているわけではない。
だからジェラルドにはそんな気遣いは無用じゃ、解ったの?」
とディルクがニヤリと笑う。
クロエは呆気に取られたが、やがてクスクス笑いだし
「やっぱりお2人は仲が良いんですね~。見ていて本当にそう思います」
と2人に言う。
ディルクが苦虫を噛み潰した顔になり
「……気持ち悪い事を言うでない、前にも止めろと言うたじゃろ?」
とクロエに注意する。
ディルクとクロエのそんな会話を耳にしたジェラルドは
「……本当にこの子は子供では無いな。確かに優秀な子供と云うのとは訳が違う。会話でわかる。こんな事があるのか……」
と信じられないといった声音で呟いた。
結界を張ったディルクがソファに2人を座らせ、お茶を入れてテーブルに置いた。そしてクロエの隣に腰掛ける。
「さて、ジェラルド。聞きたいことがあるのだろう?クロエは全て問題なく答えてくれる。何でも聞いてみるがよい」
とクロエを見つめ続ける彼に質問を促した。
クロエも苦笑しながら
「何からお話したら良いですか?余り見つめられると恥ずかしいんですけど……。何て言うか珍獣?として見られている感じがしますし」
とジェラルドに余り凝視しないでほしいと遠回しに伝える。
ジェラルドはハッとして
「あ、ああ済まぬ。何だか確かに去年の赤子の其方の面影は確かに有るのだが、全く違う娘を見ているように思えて……」
と言い訳をする。
クロエは頷いて
「ですよね。無理もないと思います。アタシは去年お会いした時点で、既に意識は今と変わらなかったのですけど、何せ歯も生えていなかったから発音は不明瞭でしたし、言葉が今ほどには修得出来てませんでしたから。
でもあの魔力暴走の合併症とも云える急成長が体に起き、こんな風に珍獣化しちゃいましたんで」
と茶化すように笑う。
ジェラルドが慌てて
「珍獣等と……。去年、儂と会った時には既に今のように考えていたのか?やはりあの帰り際の様子は……」
とクロエに聞く。
クロエは照れ臭そうに
「不思議なんですけど、アナスタシア様がお帰りになられるのが物凄く辛かったんです。……可愛がって下さったせいでしょうか?まるで本当のお母さんから離される様な……とにかく離れたくなくて。物凄く泣いちゃいましたよね、あの時は。アタシのこんな気持ち、コレット母さんが聞いたら私が母よっ!て怒るかも知れませんけれど~。……だから内緒にしてくださいね?
亡くなられた赤ちゃんの替わりでも構わないって……確かそう考えてしがみつこうとした記憶があります。考えたら勝手な話で、喋れなくて幸いしたなぁって今じゃ思いますけど。両親にも申し訳無いったら!あの時は理屈じゃなく、只感情で泣き叫んでしまったから……。
本当に失礼をしました、申し訳有りませんでした!」
とペコリと頭を下げる。
ジェラルドは何か衝撃を受けたかのように、体を強張らせ顔は驚愕した表情のまま固まった。
ディルクも今の告白は初めて聞いたので驚いてクロエを見る。
「そうであったのか?!クロエ、其方……一体いつから意識をしっかり持っておったのだ?……生まれてどのくらいから記憶があるのじゃ?」
とディルクが固まったジェラルドの変わりに質問をクロエにぶつける。
クロエは固まったジェラルドを自分の喋りが流暢すぎるせいだと感じて、スルーすることに決め、ディルクの質問にう~んと考えながら
「一番最初は……確か大きな部屋で寝かされていたんです。で、何か喋ろうとしたら「ほんぎゃ~!」て泣き声しか口から出なくてビックリして!
あ、アタシ生まれ変わったんだーっ!てその時思いました。目が余り見えなくて、体も力が余り入らないと感じてました。で自分の手を見たらちっちゃくて可愛くて……思わず食べたいくらい可愛い~!って口に手を放り込んで、ヨダレでベタベタにしちゃって、アタシ馬鹿だな~と早速思いました。
で恥ずかしいんですけど、直ぐにお漏らししたんで、泣いて誰かを呼んだんです。直ぐに誰か来てくれてオムツを替えてくれて、その後フワッと抱き上げてくれたんです。確か母じゃなくもっと……下世話な話、胸が豊かな女性だったと思います。そう!めっちゃ巨乳だった、あの女性!羨ましいったら!」
と手をポンと叩いて羨ましがる。
ディルクが呆れたような情けないような表情を浮かべ
「きょ、巨乳……何をお主は言い出すやら……。今見てくれは正に誰もが認める美少女、いや美幼女なんじゃぞ?
もう少し、こう……いや、良い。其方は見た目は美幼女、中身は残念で良かったのだったな……。無理をしないと言っておったの。もう、ここは諦めるしかないのう……」
と溜め息を吐く。
クロエは頷き
「だってアタシはアタシですもん。飾ったってどうせぼろが出るのは間違いないです。今度はしっかり考えて生き抜くんですからね!無理はしない、自然体が一番ですよ~!
ああ、さっきの続きでしたね。
その巨乳の女性がアタシを抱き上げて、そのまま大きな部屋を歩いて、誰かにアタシを渡したんです。多分その女性が母さんだったと思うんです。アタシその女性に抱かれた時、無条件に安心して「ああ、この女性がお母さんだ、凄く安心する~」って感じたんですよね。
だけど……何だか妙なんですけど、コレット母さんとはちょっと違った気もするんです。目が余り見えなかったから、顔がわからなくて……。でもその女性の香りが、コレット母さんとは違ってたように思うんですよ。そうだなぁ……、寧ろアナスタシア様の香りに近い感じ?偶然なんですけどね。でも、たまたまその病院の病室の布がそんな香りだったのかも知れませんね。病室だからお見舞いの花とか有ったかもしれないし。
で、多分おっぱい飲んで寝ちゃって……。次に記憶にあるのが多分退院して、コレット母さんに抱かれて馬車か何かに乗って移動している風景です。
アタシ馬車に揺られて、お腹が空いておっぱい飲ませてもらって……、で何故か凄く泣きたくて仕方無くなった時に、母さんが凄く安心できる香りのする布をアタシに掛けてくれて……、あっ、やっぱり入院中もあの布を嗅いでたのかもな~。
で、アタシ馬車の中で、一生懸命にアタシをあやしてくれる母さんと父さんにお礼がしたくて、めっちゃ良い笑顔をした記憶があります!エンジェルスマイル~って!
一番最初の記憶はそんな感じですね~」
とそこまで話し切るとクロエは目の前のお茶を飲んだ。
そして固まっていたジェラルドをチラッと見て、彼女は慌てた。
……ジェラルドの目に涙が光っていたからだ。
「ジェ、ジェラルド様?!どうかしましたか?!アタシ何かジェラルド様を傷付ける様な事、話しました?
ど、どうしましょう、ディルク先生~!」
と焦ったクロエは横に座っていたディルクに助けを求める。
ジェラルドは目頭を押さえながら
「……すまぬ。慌てさせてしもうたな。大丈夫……クロエ、其方は何も可笑しな事は話しておらん。安心せよ。
只、こんな奇跡があるんじゃと……其方の話に感銘を受けたまでの事。やはり母と子の絆は凄い……。……コレットとガルシアを大切にな、クロエ」
と少々鼻を詰まらせた声で、クロエに詫びるジェラルド。
クロエは戸惑いつつも頷いて
「はいっ!アタシってホントもう、家族皆に心配ばかり掛ける、ある意味問題児なんです~。
だからこれから皆の役に立たなきゃって思います!皆アタシに甘いから~。
アタシって恵まれてますよ、ホントに!」
と嬉しそうに話す。
ディルクはジェラルドをチラリと見て
「他に聞きたいことは無いのか?」
と問う。
ジェラルドは顔を上げると
「ああ、そうですな……。
其方……クロエとして生まれる前は確か異界の女性として生きていたと、そう先生から聞いたが……。差し支えなければ、其方の口から話して貰えるだろうか?
……当人の口から聞いてみたい。良いですかな、先生?」
とディルクを窺う。
ディルクは頷き
「ああ、それが良い。又聞きより、本人の口から聞くのが一番じゃ」
と同意した。
それを受けてクロエも頷くと
「……少々長くなります。お許しくださいね」
と前置きしてディルクに話したときと同じ様に、前の世界の話をジェラルドにも語って聞かせていったのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




