97. 視察団到着
お読みくださりありがとうございます。
視察団が到着し、主人公と実の兄が直接顔を会わせます。
ジェラルド率いる視察団一行が森の家に到着した。
ジェラルドと孫のオーウェン、護衛の騎士であるシュナイダーとテオ、主達の身の回りの世話をする側仕えのアレクと一行の紅一点であるモニカの計6名だ。
ガルシアが森の入口まで迎えに行ってきたのだ。
「おお、皆息災か?此度も連れが多くて迷惑を掛けるが、良しなに頼む。
……先生、相変わらずお元気そうで。私も緊張しますな、今回の視察は先生の目が光る」
とジェラルドはガルシア夫妻とディルクにまず挨拶をした。
ガルシアは一礼して
「ジェラルド様、オーウェン様、随従の方々、大変お疲れ様でした。こちらこそお越しいただくのをいつも楽しみにしております。此度もどうか視察も勿論ですが、ゆっくりこの森で癒しの時間を過ごして頂ければと願っております」
と簡単な挨拶を述べた。
ディルクはフンッといつものように鼻を鳴らし
「ジェラルド、お主視察は口実でガルシアの家で怠けるのが主目的であろう?
一体この森の何をお主が見るんじゃ?グレースに報告するためにも、お主の行動一部始終を儂がしかと目を光らせるほどに覚悟するがいい。
あ、随従の者は緊張せんでいいぞ?出来の悪い主を支えるために、仕えるものは日々さぞかし苦労しておるであろうからな。
……但しテオ、其方は別じゃぞ?ジェラルドと其方は緊張の日々を過ごすがよい」
と名指しでテオをからかう。
テオは真っ青になり
「あ、あの……イ、イビキはもうかかない様にしますから!皆様に迷惑を掛けない様気を付けますんで!
き、気合い入れて任務を遂行致します!」
と何故か決意表明をするに至った。
周りの他の随従達はテオの狼狽え振りに苦笑する。
ジェラルドが苦笑しながら
「私の優秀な部下をからかわないでください、先生。テオ、どうやら其方は先生に大層気に入られたようだな。先生の悪い癖なんだよ、お気に入りは苛めて楽しむお人じゃからな」
とテオに気にするなと言う。
しかしテオは直立して
「いえ!私が失態を犯したのは紛れもない事実です。ノーブル先生がこの様に仰られるのは無理もないこと。
私は視察の間の働きで汚名返上し、きっと先生から認めていただけるように頑張ります!」
と生真面目に答える。
ディルクはニヤリと笑い
「それは楽しみだ。よぉく見させて貰うとしようかの。
ああ、すまぬオーウェン殿。其方の挨拶が未だだったのに、邪魔をしたな」
とオーウェンに目を向ける。
オーウェンが深く一礼して
「お久しぶりですディルク先生。後、“殿”は止めてください。是非呼び捨てでお願いします。そして初めまして、森の守護者ガルシア・シェルビー殿。
僕がオーウェン・ウィル・インフィオラーレです。以後お見知りおきを。
ジェラルドお祖父様に無理を言って、視察に加えていただきました。ずっとこの森を訪れたかった……。漸く実現し、今とても感動しています。
滞在中は何かと気を遣わせてしまうと思いますが、どうかよろしくお願いします。
御細君のコレット殿ですね。母や祖母から貴女のお話は聞かせて頂いてます。ご迷惑をお掛けしますが何卒よろしくお願いします。
……ライリー殿、ミラベル殿ですね、初めまして。どうか滞在中仲良くしてください。
君がコリン殿ですね?初めまして。とても3才とは思えないほどしっかりされているそうですね。どうか仲良くしてくださいね。
……確かもうお一人、守護者殿にはお子様が居られるとお聞きしましたが、そのお嬢ちゃんはどちらに?」
とオーウェンはライリー達とにこやかに挨拶を交わし、逸る気持ちを抑えながらさりげなく姿の見えない“末娘”のクロエの姿を探す。
するとミラベルがにっこり笑い
「はい、こちらに。“妹”のクロエです。
ほらクロエ、オーウェン様にご挨拶をして?」
と自分達の後ろに隠れるように控えていた“妹”をスッ…と自分達の前に押し出した。
オーウェンは目の前に照れ臭そうに現れた、会うことを願い続けた黒髪の小さな女の子に目が釘付けになった。
「……初めまして。君がクロエ……殿かな?」
と震える声でオーウェンは目の前の小さな幼女に名を尋ねる。
照れ臭そうに立っていた幼女はパッと顔を輝かせると
「はいっ!初めまして!わ、私が一番下の娘のクロエです!
どうかよろしくお願いしますっ!」
と頭を深く下げてお辞儀をした。
そのしっかりした挨拶や1才にはとても見えない成長を遂げた姿に、オーウェンのみならず、周りの随従の者達もジェラルドも驚嘆する。
思わずジェラルドが
「其方……誠にクロエなのか?話には聞いておったが、まさかここまで成長していたとは……。
言葉も全く兄姉達と変わりない位流暢になったのだな……。ああ、儂が解るかな?クロエ」
とクロエに話しかける。
クロエがジェラルドを見て、大きく頷き
「勿論です!お久し振りです、ジェラルド様!アタシ、じゃない私が昨年より大分大きくなっちゃったからさぞ驚かれましたよね?でも、間違いなくクロエです!
赤ちゃんの時もお喋りでしたけど、益々お喋りになっちゃいました~!……って、あれ?え……と?
……あ、あの、やっぱりアタシって変ですか?皆さんの視線が、あの……怖い……ですぅ」
と言いながら、クロエはミラベルの後ろに又隠れようとする。
クロエが戸惑いを見せ、怯えて隠れようとしたのを見たオーウェンとジェラルドは大慌てで
「ま、待てクロエ!そうではない、すまぬ!
儂の想像を遥かに超えた、しっかりした良い子に育っていたので驚いただけだ!変などとんでもない!」
と声を掛け、又オーウェンも
「そ、そうだよ、クロエ!あんまり賢いので、ビックリしただけなんだ!隠れないで、お願いだから!」
と、今までの丁寧な態度をかなぐり捨ててクロエを止める。
クロエは2人が自分を必死に止めようとする声を聞き
「そ、そうなんですか?
アタシ、“家族”とディルク先生位しかお話したことなくて……。
……あの、オーウェン様?どうかなさいましたか?アタシ、何か失礼なことを言っちゃったのかな……」
とクロエが又戸惑いの声を出す。
皆がオーウェンを見ると、彼は顔を歪め、唇を噛み締めながらクロエを見つめていた。
ディルクがクロエに近づいて屈み
「……多分亡くした妹を思い出したのではないか?話したであろう、クロエ。オーウェンのご家族の話を……」
と小さな声で話す。
クロエはハッとすると、トコトコとミラベルから離れてオーウェンに近寄り、彼に手を差し伸べる。
「あの……お聞きしました。私位の妹さんを亡くされたって。私と同じ黒髪の……。お母様のアナスタシア様からも……。
え、えと、オーウェン様がお嫌でなければ……後、ホント失礼だとも思いますし、お怒りになられるかも知れないですが……、せめてこちらに滞在される間だけでも、私をその妹さんだと思って色んなお話しませんか?!
私、お喋りだけは得意ですし!後、お兄ちゃん?お兄様?……え、えとオーウェン様をお呼びするときにそうお呼びさせていただいたりとか、あの!お、お嫌でなければ……ですけど。い、如何でしょーか?!」
と手を差し伸べたまま、オーウェンに対して一気に言い切る。
だが、オーウェンの反応がない。
クロエは次第に笑顔を陰らせ
(……ヤっちゃった感が半端ないんですけど~!さ、流石に無礼が過ぎたか……。やっぱり身分差って厳しいんだよね。平民のアタシに変な提案されて固まっちゃったよ、オーウェン様。参ったなぁ~。
……待てよ、これって実はヤバくない?アタシ不敬罪で、この場にて捕獲とか?……捕獲って害獣か、アタシは……。
そうだ!アタシだけじゃない、家族や先生にも迷惑掛かるじゃない!ヤバいって、この流れ!不味いまずいマズイ~!
……こりゃ直ちに、ど、土下座かな?土下座して謝れば何とか穏便に……すむかな?
よし!善は急げ!迷うなアタシ、家族を守れ!)
と差し伸べた手を引っ込めて、スライディング土下座に自分の体勢を変えようと
(……とおっ!)
と心のなかで掛け声一発、オーウェンの前に飛び込んで手を付こうとしたその時。
前傾姿勢になって、今まさに水泳の飛び込み姿勢になったクロエを誰かがフワリ……と抱き締めた。
「……ぶにゃ?!」
と猫が何かに顔をぶつけた様な妙ちくりんな声を、クロエが上げる。
「……良いの?僕をお兄ちゃん……て呼んでくれるの?クロエ……」
と震える声でクロエの前に膝をつき、彼女を抱き締めるオーウェン。
その声を聞いて、クロエは漸く自分がオーウェンに抱き締められていることを認識した。
「は、はい!アタシ、怒らせたんじゃなかったんだ~!良かった~!
てっきりオーウェン様、じゃなかった、オーウェンお兄ちゃんを怒らせたかと~」
と安堵して明るい声でぶっちゃけるクロエ。
後ろの家族はそんなクロエの声を聞きプッと吹き出す。
反対にジェラルドや随従の者達はオーウェンの姿を見て、思わず目頭を押さえたり、後ろを向いて嗚咽を堪える。
2人を挟んで対照的な反応を見せる周りの人々。
やがてクロエを離したオーウェンがにっこり笑い
「じゃあ君の素敵な提案に乗らせてもらうね。
……僕もクロエって呼び捨てにして良いかな?
僕にはもう一人、エレオノーラと言う妹がいるんだけど、あの子もエレオって略称にして呼び捨てにしてるから、だから……」
とおずおずとクロエに尋ねる。
クロエは破顔して大きく頷くと
「あったり前です!良いに決まってますよ~!どうぞどうぞ!ご遠慮なく~!」
とどこかのお店の呼び込みの様な声を出す。
コレットがオーウェンとクロエの話が一段落したのを見て
「さ、こんなところでお引き留めしては失礼だわ!
皆様、どうぞ我が家にお入りになってください。
ああ、クロエはオーウェン様をご案内して差し上げてね。
さあ、どうぞ~!」
と視察の面々を自宅に招き入れる。
クロエはオーウェンと手を繋ごうとしたら、オーウェンがクロエを抱き上げた。
「わっ?!オーウェンお兄ちゃん、アタシ歩けるよ?……じゃない歩けますよ~?」
と慌てるクロエ。
オーウェンがにっこり笑って
「妹を抱き上げたのは、僕の前から“あの子”が居なくなって以来だ。
……小さくてね、温かかった。きっと“あの子”も君のような元気な女の子に育ってたと思うんだ。だからこのまま抱っこさせてくれるかな?クロエ」
と彼女に乞う。
オーウェンのお願いに、クロエは
「はいっ!あ、でも……アタシ普通よりおっきいから重いと思うんだけど、大丈夫?お兄ちゃん」
と体重を気にする。
オーウェンはクスッと笑って
「全く問題ないよ。クロエ一人位軽いものさ。普段から鍛えてもいるし、なんたって僕は君のお兄ちゃんだからね、妹くらい抱き上げられなくちゃ!」
と悪戯っぽく話す。
その台詞にクロエが微笑んでいると、彼等の後ろに居たコリンが
「……僕も鍛えなきゃ。クロエのお兄ちゃんなのに、あんな風にクロエを抱き上げられない……。これじゃクロエに頼りないって思われちゃう~!
うう、ライリー兄ちゃんにも勝てないのに、オーウェン様までクロエのお兄ちゃんになっちゃうなんて……。僕どうしよう……」
と1人顔を青くして焦っていた。
そして更に後ろに居たライリーとミラベルは、そんなコリンの呟きを耳にして、笑い出さないように必死に口を押さえていたのは、勿論コリンは知るよしもなかったのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




