38. ミラベル、怒る
お読みくださりありがとうございます。
暴君の天下が終わります。
女帝が目覚めたのです。
主人公と賢者はとばっちりを受けて避難を余儀なくされてしまいます。
昼御飯が済んだ後、クロエは暫くお昼寝の為寝室に下がった。
加えてとても集中して刺繍など針仕事を頑張って疲れたミラベル、コレットにこっぴどく叱られ尻を叩かれ、おまけに宣言された通りにとても大きなオムツを付けられて落ち込んだコリンが、共にお昼寝をする為寝室に下がる。
ミラベルが大きなオムツを付けたコリンのお尻を見て
「コリン……アンタこのままじゃ歩けなくなるわよ。オムツ未だ大きく出来るって母さんが言ってたし。今でも重いしキツいんじゃない?蒸れるわよ~。でも確かに今までのオムツじゃ間に合わなくなって、部屋も臭いが着いてきたものね。母さんの気持ちは物凄く解るわ。……クロエは大して汚す量も無いし、未だ未だ小さいからオムツしてても良いのに、もう外すしねぇ。……その内大きなオムツのせいでズボンが穿けなくなるわよ?アタシ知~らない!」
とからかった。
「酷いよ!何でオムツでそんなにからかうんだよ。人に意地悪したらいけないんだよ!ライリー兄ちゃんにミラベル姉ちゃんを叱って貰うからね!」
とコリンが鬼の首を取った様に勢い込んで言う。
ミラベルは鼻をフンッと鳴らして
「構わないわよ~。お兄ちゃんに言っても。お兄ちゃんも母さんの話に頷いていたし、アンタが単に面倒くさくてオムツに頼ってるの、皆にバレバレだしね。……何、その顔?まさかアンタ、お兄ちゃんまで騙せてるつもりだったの?バカね、とうに皆気付いてるわよ、アンタの考えなんて。口が達者でクロエみたいに小さくて弱い相手にはキツいくせに、自分には凄く甘いのよねアンタって。……いい加減に少しはお兄ちゃんらしくしたら?クロエは小さいからアンタに何にも言わないけど、アタシはアンタを見てるわよ。可愛い妹いじめるなら、アタシもアンタに容赦しないわ。……母さんと決めたの。クロエに手を上げたりするアンタの我が儘はもう許さないって。クロエが怪我する前にアンタのその曲がった根性を叩き直してやる。可愛い弟への姉の愛よ、有り難く思うことね!」
と眼光鋭くコリンを睨んで、コレットを彷彿とさせる毅然とした態度で言い放った。
コリンはその迫力に怯んで、今度はミラベルをウルウルした目で見つめ返す。
どうやら戦法を切り換えたらしい。
か弱い(?)いたいけな弟にシフトチェンジしたコリン。
余りにあからさまなコリンの態度の豹変に、ミラベルは芝居がかった大きな溜め息を1つ吐き、首を横に振った。
「……浅い!媚びてなんとかアタシを味方に就けようとする考えが物凄く情けないし、全く底が浅すぎる!コリン、ホントに頼むわ。これ以上アタシをイライラさせないで。……アンタは頭の回転は早い筈よ。直ぐに変な作戦立てるし、態度切り替えるし、口は達者なんだからね。だからこそ残念すぎるのよ!今は無駄に使ってるその頭、別の事に使いなさい。……疲れた。アタシも昼寝するわ、お休み~。」
手をヒラヒラと振りながらベッドに潜り込んだミラベル。
コリンはチッと舌打ちしながら同じ様に自分のベッドに入った。
そこでコリンは愕然とする。
オムツが大きすぎて、まるで自分がボールに乗っかったように海老反りになってしまうのだ。
横になろうが、うつ伏せになろうが結果は同じ。
朝からコレットにされたお尻ペンペンに加え、さっきのミラベルの叱責で苛立ちが溜まっていたところに、このオムツの思わぬ“抵抗”を受けたコリンは、あろうことか起き上がってその苛立ちをクロエを起こしていじめることで晴らそうと考えた。
ククッと笑いをこらえながら、クロエのベッドに近付いて行くコリン。
クロエが幸せそうにスウスウ寝ている寝顔が見える位置まで近付いて、彼女のベッドの枠に手をかけたその時。
「……させると思うの?このバカがっ!」
コリンの頭を鷲掴みにして、金色の瞳をランランと怒りに燃やしたミラベルが頬をヒクヒクさせて彼を睨む。
振り返ってヒィッ!と飛び上がって驚いたコリンは首根っこをガシッと掴まれ、リビングに居るコレットの元に連れていかれそうになる。
「な、何にもしてないじゃないか!クロエが寝てるかなって気になっただけだよ!起こしていじめようなんて考えて無いよ!離してったら!」
騙るに落ちた弟を一瞥し
「アンタは自分で何言ったか解ってないの?アタシは何にも言ってないわよ。自分で自分の首絞めたわね。さあ、母さんと眠りを妨げられたアタシの怒りを味わいなさい!……ああ、父さんとお兄ちゃんも畑から帰ってきたようね。丁度良いわ。アンタは今の言い訳をもう一回皆に聞いて貰うのね!」
と冷たく突き放すミラベル。
ギャアギャア悲鳴を上げながら、岡っ引きに引っ立てられていく下手人の様に引きずられていくコリン。
幸か不幸か、ミラベルはこの1ヶ月余りライリーと共に護身術や小刀の鍛練を重ねていたお陰で腕力握力が大幅にアップしていた。
元々怠け者のコリンがこの姉に敵うわけがないのだ。
リビングに引っ立てられたコリンはその後、クロエ以外の家族全員からチビる位雷を落とされ続けたのだった。
「んあー!よきゅ寝ちゃ~。……あえ?誰みょ居にゃい。アチャシしょんにゃに寝ちゃっちゃにょきゃ…。起きにゃきゃ!」
クロエがお昼寝から起きると寝室には誰も居なかった。
頭を掻きながら、クロエは自分が思いの外長い睡眠を取ってしまったんだと思い、ベッドの横にある呼び鈴を鳴らす。
未だ未だ小さいクロエはベッドから降りることもままならないからだ。
少し前、クロエはいつも昼寝後に母や兄姉を呼び鈴を鳴らして呼びつける自分が余りにも不遜じゃないかと思い、ベッドから一人で降りようと試してみたことがあった。
たまたま寝室にクロエの様子を見に来たコレットが、ベッドの枠の鍵棒を外し枠に掴まりながら足を宙に浮かせてブラブラしているクロエの後ろ姿を見て悲鳴を上げ、慌てて彼女を抱き上げながら
「絶対にクロエは一人でベッドから降りちゃいけません!もし又こんなことしたらお尻ペンペンですからね!」
と厳しい口調で彼女を叱ったのだ。
だから起きたら必ずこの呼び鈴を鳴らす事になったのだ。
程無くライリーがやって来た。
クロエがお座りしてるのを見てニッコリ笑うと
「ああクロエ起きたんだね?じゃあリビングに行こうか。皆リビングに居るからね。さあおいで」
と両手を伸ばしてきたクロエを優しく抱き上げる。
「はい。ライリーお兄ちゃん、アチャシ寝過ぎちゃっちゃんれしゅにぇ。キョリンお兄ちゃんみょミヤベユお姉ちゃんみょ起きちゃりゃ居にゃきゃっちゃきゃりゃ。」
とライリーを見上げながらばつ悪そうに笑うと
「そんなこと無いさ。クロエはいつも通り起きてるよ。コリンとミラベルはちょっと今リビングで家族会議中なんだよ。ああ、クロエは母さんにオムツを換えて貰ってからディルク先生の小屋に僕が連れて行くからね。父さんも会議中だし、僕も先生の小屋で一緒に居るから」
とライリーが苦笑しながらこの後の予定を説明した。
クロエはキョトンとライリーを見上げ
「はい……アチャシにょ事じぇ会議にゃにょ?お兄ちゃん。何かしちゃちゃにょきゃにゃ、アチャシ」
と不安そうにし始めた。
ライリーは笑いながら
「まさか!クロエは良い子なのに何でそんなこと思うんだい?クロエじゃないよ。コリンの事でね。ただコリンはクロエのお兄ちゃんだから、あんまり格好悪い姿を妹に見せたくないだろう?だからクロエは会議の間、先生と僕と一緒に居ることになったんだ。ミラベルは当事者なんで、会議に居ないといけないしね。じゃ、母さんに替わるよ……母さん、クロエのオムツをお願いします」
とリビングの扉を開けて、母に声を掛ける。
コレットがリビングから出ようとすると
「クロエ!僕も小屋に行くよ!一緒に連れてって、兄ちゃんを助けて!」
と言うコリンの悲愴(?)な懇願の叫びが聞こえた。
コレットが後ろを振り向き
「貴方はどうして反省もしないで、そんな恥知らずな頼みが言えるの?!……ガルシア、解ったでしょ。悪知恵だけは兄弟で一番働くのよコリンは!少し待ってなさい。クロエのオムツを換えたら母さんが又お尻ペンペンします!」
とリビングのコリンと父に怒鳴り、リビングから出てきた。
(コリンお兄ちゃん?!どうしたの?アタシに助けを求めるなんて、何があったの?!)
クロエが心配そうに顔を歪ませたのをライリーが見て
「母さん、クロエが気にしているからあんまり今は怒鳴らない方が……」
と母を諭すと
「え?あ、ああそうね、ごめんなさいクロエ。貴女が気にしなくて良いのよ。ライリー、リビングの方を少しお願い。クロエのオムツを換えたら替わりますからね。さあいらっしゃいクロエ」
と謝りながら、コレットがライリーからクロエを受けとる。
ライリーは溜め息を吐くと一つ頷いて、コレットと入れ替わりにリビングに入った。
「か、母しゃん?キョリンお兄ちゃんに何ぎゃあっちゃんれしゅきゃ?!大変にゃ事ぎゃ起きょっちゃの?アチャシも何きゃお手伝い……」
オロオロし出すクロエを優しく擦り
「優しい子ね貴女は。大丈夫、オムツの事なの。コリンは貴女がオムツをしているから、自分も未だ未だ良いじゃないかって主張してるのよ。……流石に3才過ぎても平気なのはいけないわ。ただ貴女は妹だから、お兄ちゃんであるコリンが格好悪い理屈を話しているのを聞かせるのは私達も辛いの。だからディルク先生の小屋へ避難していてくれるかしら。……ライリーもね。コリンはライリーが怖いらしいんだけど、ライリーに見つめられるからチビるんだって訳の分からない話をし出してねぇ。ライリーも流石に開いた口が塞がらないって顔をしてたし。お陰でミラベルは今日怒りが爆発しちゃって……。さあ、綺麗になったわ!クロエ、このまま待っていてね?ライリーと替わってくるわ。貴女をリビングに連れていくと又コリンが恥知らずな言動をしかねないから」
と家族会議の訳を話しながら、テキパキとクロエのオムツを換えるとコレットは、オムツ換えをしていた客間にクロエを残し、汚れ物を持って出ていった。
一人で客間に居ると隣のリビングからコリンの泣き声が聞こえてきた。
続いてガルシアが何かを喋っている声とミラベルの高い怒鳴り声がした。
クロエはビクッと飛び上がりながら、不安気に扉を見つめる。
(コリンお兄ちゃん、無事かなぁ……。でも皆の気持ちも解るから、今回は助けてはいけないよね。でもあんまりコリンお兄ちゃんを怒らないで上げてほしい……泣き声が悲惨すぎて聞いてるのが辛い。でも皆そうだよね……家族だもん。心を鬼にしないと、かな)
直ぐに扉が開いてライリーが入ってきた。
「お待たせクロエ。さあ小屋に行こうね。……心配なんだね。でも大丈夫だから。皆に任せておこう」
クロエを抱き上げると頭を優しく撫でて、ライリーはクロエを連れて家の玄関から出ていったのだった。
次は家族会議の様子か、避難小屋の様子を中継したいと思います。
次話は明日か明後日投稿します。




