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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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36. 子供達の学習時間

お読みくださりありがとうございます。


クロエのオムツ外しがもう間もなくとなり、実はコレット母さんは内心焦っています。


勿論焦りの原因は、大王様です。


母さんと不肖の息子の小さなバトルです。

この世界は週6日で動いている。

シェルビー家の子供達は2日勉強したら1日休み、又2日勉強したら1日休みのサイクルで授業が組まれている。


伸び伸びと育った子供達に余り急いで詰め込む必要もあるまいくと、初日にライリーやミラベルと話してディルクが判断したのだ。


だが実際未だ1ヶ月程ではあるが、ゆったり組んだ筈の指導カリキュラムを大幅に前倒ししなくてはならなくなったライリー、又彼程では無いにせよこちらもカリキュラム前倒しを余儀無くされているミラベルを見て、ディルクは自分の想定が別の意味で甘かったのを認めざるを得なかった。

詰め込む等とんでもない、ここまで利発だとカリキュラムの組み方が寧ろ緩すぎて授業の組み立てが間に合わないのだ。

反復学習は学習内容の定着に必須ではあるが、詳しく教える前に既にその時点までその学習内容の理解が終わってるなど本来はあり得ない事だ。

特別に学習させていたのならいざ知らず、全くそういう教育を施されていなかった子供達だから驚嘆を隠せない。

良く良く聞くと、父の書斎の本を幼児時代に読ませる絵本代わりに自由に読ませていたと言う。

ほぼ挿し絵の無い小さな文字ばかりの本を、文字数を覚えたばかりのライリー達はその文字を自分で読んで理解出来ると言う事実が余りにも嬉しくて楽しくて、気が付いたら兄のライリーは書斎の本を全てほぼ丸暗記状態、ミラベルも挿し絵がある本など兄ほどでは無いが何冊も丸暗記出来ていると言う、理解しがたい状況になったそうだ。

子供達にとっては、まるで暗号を紐解くゲームのように楽しかったのだろう。


また、その“学習”の副産物というべきか、ライリーは子供とは思えない落ち着いた口調で話すようになり、ミラベルは好奇心が隠せないしっかりした口調で話す子になっている。


ライリーに何でそんなに落ち着いているのかと、ディルクが問うた事がある。


ライリーは苦笑しながら

「父さんの本に書いている事が最初理解出来なくて、聞いたりまた別の本で調べたりしている内に、慌てると見落としている事が多いのに気付いたんです。読んだ筈の箇所に調べていた事が書いてあったり、ゆっくり読むと今度は理解出来たり。だから極力自分に気持ちを乱すなと常に言い聞かせてます。でないと又大事なことを見落としてしまいますし、自分の知りたいことに辿り着くのに却って遠回りになりますからね」

と話したのには参ってしまった。


ディルクは今寧ろ、2日学習1日休みは完全に自分の学習の下調べに必要なインターバルだと感じている。


同じような質問をミラベルにもぶつけたら

「お兄ちゃんに負けてられないもの!だって、口惜しいじゃないですか!だけど文字ばかりの本は余り好きになれなくて。だから挿し絵付きの本ばかり読んじゃいました!」

とあっけらかんと話す。


但しミラベルの言う挿し絵は分解図など、とても挿し絵とは言えないものであるが。


又ライリー程出来る子供であれば、天狗になっていても可笑しくは無いのだが、幸いなことに他の子供と自分を比べる機会が皆無であった事、元々ガルシアに似ていて性格が穏やかであった事などから全くそういう要素は見られない。


ただミラベルには生まれた時から兄のライリーが居たので、強いて言うならライリーがライバルなのであるが、差が開きすぎて競べることを思い付かないし、ライリーが優しいのでとても反感が持てないらしく、明確には対抗意識を燃やすことはない。


しかし兄が理解しているものは自分も理解出来て当然であると言う妙な競争心だけはあるようで、兄のやっていることを必死に真似ようとはしている。


ディルクにとっては今まで貴族の子息達に教えてきたノウハウがほぼ使えない状況になってしまったが、彼には却ってそれが楽しい。


砂が水を吸うように教えることが全部入っていき、未だ足らない、もっと知識をと求められるのは、教師冥利に尽きることこの上無いからだ。


そんな異様な状況に今度はクロエである。


未だ1歳に満たない赤子に、教えるどころか教えを乞う状況になったのだ。


ディルクにとって全く予測不可能な存在のクロエは、未だ未だ底が知れない知識を持っているのは間違いない。


教えがい有る事この上無い子供達に加え、摩訶不思議な異世界の知識を持つ赤子に囲まれ、ディルクは今とても充実した毎日を送れているのである。






今日は1日休みの日である。


ライリーはガルシアに連れられて畑仕事に行き、ミラベルはコリンを見つつコレットに針仕事を教えてもらっている。

コリンが暴れそうになると、ここのところ目に見えて厳しい態度で望むようになったコレットが眼光鋭く彼に声を掛けるので、コリンは前のように駄々を捏ねて泣くこともままならない。

お陰で以前に比べてミラベルの負担は明らかに減り、針仕事を母に丁寧に教えて貰う事も可能になったのだった。


さてクロエは1日ゆっくり休んだので、とても体調が良い。

コレットはくれぐれも気を付けるようにとディルクに言い含め、クロエを預けた。


余談であるが、クロエがディルクに連れられて小屋に向かう際、自分の玩具を持ってさも当然だと言う顔でコリンが共に行こうとした。


ディルクは彼に気付いたが、止めるのも可哀想なので共に連れていこうとしたら、コレットがコリンの襟足を掴み家に引きずり戻した。


「自分の片付けも出来ない人が、勉強部屋に行くことは絶対に許しません。行きたければオムツを外すことと玩具を自分でお片付けすること、後駄々を捏ねないことを1週間続けて出来てからにしなさい!」


「クロエは!出来ないじゃないか!」


「お黙りなさい!自分では努力もしないで小さな妹をだしにするなど、とんでもない心得違いです!やるならライリーやミラベルを見習って、午後の厳しい体練からになさい。直ぐに音を上げるでしょうけどね。コリン、貴方を私達は甘やかしすぎました。これからは間違っていることは絶対に通しませんから覚悟なさい!」


「クロエも厳しくしてよ!オムツじゃないか!」


「この子は全く!3才の自分と1才にならない妹と一緒にするなど恥ずかしいと思わないの?!因みにクロエはもうオムツ取りますよ。つたい歩きが一人歩きに変わったら直ぐです。さあ、クロエが取れればコリンだけよ。どうしたいのかしら、コリンは?母さんは自分で出来ることをしない子には厳しくいきますからね。クロエが歩き出すまでに返事なさい、コリン」


「そんなの無いよ!クロエがオムツとれても僕と関係無いもん、知らない!」


「……これからは特別に大きなオムツにしますからね。もうベッドを濡らしたりはしないようにしないと。コリンが頑張らないなら、オムツに頑張って貰います」


取りつく島もないコレットにこれ以上対抗する言葉が出てこないコリンは、苛立ちの余りその場でコレットの足を蹴ってしまった。


コレットは頬をヒクヒクさせながら、直ぐ様コリンを膝に腹這いに乗せ、オムツを外して裸のお尻をペンペン平手打ちした。


コリンの悲愴な泣き声が家中に響き渡り、それを聞いたミラベルは苦笑しながらハンカチに刺繍の練習を続けたのだった。





小屋についたディルクとクロエは、家から小さくはあるが継続して聞こえてくるコリンの泣き声を聞き、顔を見合わせた。


「……まあその、何だ、コリンはコレットのお許しが出ないとな。一応クロエはお許しが出ておるし。……今は儂達が下手に入らん方が良いの。コレットの邪魔をしちゃイカン。コレットの対応は未だ未だ優しいのじゃよ、クロエ。だから任せような?」


頬を掻きながらディルクが言うと、クロエも小さな溜め息を吐いてから頷いた。


「しょうれしゅね。母しゃんがコリンお兄ちゃんに無体にゃ事しゅりゅ筈無いれしゅかや。……しゃあ先生、アチャシ達も頑張りましょう!」


「そ、そうじゃな。其方の言う通り、儂達もそろばんを作るために頑張らなくてはの。素材は何が良いか、大きさや厚み等、決めにゃあならんことは山積みじゃからな。こうしている時間も惜しい!」


「はいれしゅ!しょれにまりゃ先生に聞いちぇほしい計算にょ事もありゅんれしゅよ。しゃくしゃく進ましぇにゃいちょ!」


「おお、それは大変じゃ!では早速この前の続きから参ろうかの」


そう言うとディルクは扉を閉め、リビングにクロエを抱き上げたまま入っていったのだった。

次話も頑張って明日投稿します!

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