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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
34/292

34. そろばんと云う物

お読みくださりありがとうございます。


物作りの回ですが、説明って難しいですね。

未だ他にも出したい物有るのに、これは中々大変だと今更ながら気付きました。

ボチボチ書いていきます。

「さて、まあ小言の時間はここまでじゃ。クロエよ、頭ははっきり目覚めたか?さっき其方が話しておった良い計算機の話をしようぞ!」


 今までクロエを優しく諭していたディルクは一転、うって変わった様に目をキラキラさせてクロエを急かし出した。


 クロエが落ち着いたのを見て安心したらしく、今度は自分の興味を満たしたいとばかりに身を乗り出してくる。


「ひぃ!あ、びっくり、した!

 せんせい、あわてる、しない。いま、いいます。

 さき、けいさんき、え、かく、です。

 せんせい、こくばん、ください」


「おお、そうじゃったそうじゃった!待っとれ、直ぐに用意するからな。儂の紙とペンも用意せんとな。ホイホイっと!」


 テーブルに座っているクロエに背を向けて、あちらこちら行ったり来たりしてクロエの前に黒板や白蝋石を細くしたものやボロ布を置き、自分の傍らに大小さまざまな紙とペンを2・3本、あとインクを置いた。


 さあ座ろうとしたかと思うと手をポン!と叩き、何かを思い付いたように足取り軽く又テーブルから離れる。


 “教室”の隣にある物置に入っていったらしく、ガチャンドタンと何やら物を引っくり返す音を響かせ始めた。


(ディ、ディルク先生?!な、何かめちゃくちゃテンション高いよ?今まであんな先生見たこと無い。

 若干その期待が怖いんですけど~!どうしよう、期待裏切ってしまったら、先生どうなっちゃうの?!)


 戻ってきたディルクの手には物差しの様な細長い板と何やら半円形の小さな石を幾つか、あと木の種類が違う板切れが何枚か、紙が収まる蓋の無い木箱があった。


 それこそ鼻唄でも唄いそうな様子でそれらを又脇に置き、今度は大小二つのカップに果実水を淹れていそいそ持ってきた。


 手などが当たって零れない様に、テーブルの少し離れた位置にカップを置くと満足そうに頷き、クロエの前に座る。


「さあて!これで準備万端じゃな。ささ、クロエよ。早速その計算機の説明をお願い出来るかの」


 目をキラキラさせたまま、クロエの黒板を食い入る様に見つめるディルク。


 クロエは唖然としていたが、身を乗り出すようにして

「早う早う!」

 と急かすディルクが何だかとても可愛らしく思えてクスッと笑う。


「じゃあ、かく、します!

 おおきさ、この、くらい。かたち、こんな、もの。

 ここ、わける、き、はいる。

 あと……」


 クロエは黒板に長方形を書き、その中の上から4分の1位の位置に横線を引く。


 その後適当に何本か間隔を空けて縦線を引くと、縦線に菱形の珠を横線を境として上側に1つ、下側の長い方に4つ串に刺さったように上に書き足していく。


 それが終わると中に書いた横線の上に小さな丸を、縦線が4本毎に打っていく。


 クロエが小さな体で細々した“絵”を描いていく様を、感嘆したように見つめるディルク。


「うん。これ、かたち、かけた。あと、けいさんき、なまえ、あるです。

 なまえ……」


 そう言うとクロエは黒板に描いた“そろばん”の絵の下に、この世界の字で“そろばん”と書いた。


「これが其方の言う計算機なんじゃな。“そろばん”…?何やら面妖な名前だの。其方が名付けたのか?」


 ディルクが首をかしげながら聞く。


 クロエは苦笑しながら答える。


「はい。なんと、なく。つかいかた、いま、いいます。

 これ、たま……」


 クロエは使い方をディルクに説明し始めた。


 何分現物が無いので、ある程度想像力も働かせてもらわなければならない。


 ディルクはクロエが話す内容を黒板の絵を凝視しながら聞いていたが、クロエに少し待つように言うと先程持ってきた小さな半円形の石をクロエの描いた“そろばん”の珠の上に重なるように置いていく。


「動かしにくいとは思うが、これで実際に計算をしてみてくれんか?この石がどう動くか見たいんじゃ。出来るかの」


「はい。でも、さんぼんぶん、いし、ほしい。ある、ですか?」


「フム、ならば後5つ要るな。待っていなさい。持ってこよう」


 そう言うとディルクは立ち上がり、又物置に入っていく。


 ガチャンドタンと音を響かせた後、両手に5つより更に多くの小石を乗せて持ってきた。


 そしてクロエが描いたそろばんの珠の絵の上全てに石を置き終えた。


「よし、こんなものかの。さて、これをどう動かせば計算出来るのかの」


 クロエはその石を少しずつそろばんの最初の位置になるように調整して置き直し、白蝋石を持つと上の石の列の横にこの世界の5の数字を書き、下の石の列の横には1の数字を書いた。


「このせん、より、うえ、たま、1つ、5、あらわす、です。

 せん、より、した、たま、1つ、いち、あらわす、です。

 せんせい、けいさんもんだい、いくつか、つくる、おねがい、できる、ですか?」


 ディルクは頷くと、別の黒板に計算問題を幾つか書いた。


 そして未だクロエに計算記号を教えていなかったことを思い出し、慌てて四則の記号を教える。


 クロエはその記号を理解すると、問題のかかれた黒板をそろばんを描いた黒板の横に置き、計算し始めた。


 パチパチ音ならぬコトンコトンという音を鳴らしながら、先ずは足し算をする。


「フム。おお!そうか、そう動くか!……成る程、数が大きくなろうがこの棒の数だけ対応出来るんじゃな!おお!凄いじゃないか!これは分かりやすい…。クロエよ、この“そろばん”はほぼどの計算にも対応可能なんじゃな?」


「はい。かず、おく、ばしょ、かえて、たいおう、できます。

 どう、ですか?やく、たつ、ですか?」


 ディルクは黒板を見つめたまま黙りこんだ。


 クロエは徐々に不安になる。


(あ、あれ?先生の反応、手応えアリと思ったのに。

 やっぱりアタシの説明じゃ分かりにくかったのかな?

 あ~あ、プレゼン失敗したか。しょうがない又徐々に、って……キャア!)


 ディルクは急に立ち上がり、クロエを抱き上げると高い高いをして笑い出した。


「クロエ!其方は大したもんじゃ!この“そろばん”は凄い!

 これは算学界に革命を起こすぞ!

 あのような計算機は誰も思い付かんかった!

 造りは至って簡単だが、使い方は数の配置により多岐に渡る!桁が大きくなろうが問題なく対応可能!理論上は無限にじゃ!

 まあ、使い勝手の問題があるんでソコは有限にはなるが。

 よくもこんな優れた物を考え付いたものじゃ!

 儂はお主を尊敬する!其方は天才じゃー!」


 ディルクは箍が外れた様に大声で笑い、クロエを持ち上げたり頬刷りしたり、その取り乱しっ振りは尋常ではなかった。


 クロエはクルクル回されながら

(ひゃあー!わかった!先生、わかったからやめてー!

目が、目が回るー!助けてー!

アタシ吐いちゃうー!うげー!)

 とパニックになっていた。


 しかし助けは来ず、老齢のディルクがフラフラになって初めて興奮しすぎた自分に気付いた。


「ちょ…ちょっと興奮しすぎた様じゃ…。うお……気持ち悪い…。

 ク、クロエよ、大丈夫かの?……クロエ?

 げっ!目を回しとる!しっかりするんじゃ!

 ほれ!起きんか、これ!クロエ!」


 頬をペチペチ叩かれ、目を回していたクロエは薄目を開けたが、又コテンと気を失う。


 ディルクは慌ててクロエをソファに寝かせると、台所で布を水に浸して絞り、クロエのおでこに載せる。


「すまんかった!儂は嬉しい余り、興奮し過ぎてしもうた!

 クロエ、死んじゃあイカン!目を覚ますんじゃ!

 未だ“そろばん”を作っとらん!死ぬなら作ってからにしておくれ!」


 とても励ましとは言えない酷い台詞を吐きながら、それでも甲斐甲斐しくクロエを扇いだり水に濡らした布を換えたりして、介抱するディルク。


「……う、だい、じょぶ。アタシ、いきてる。でも、きもち、わる……」


「おお、気がついたか!

 すまんかった。お主は未だ赤子なのに、儂はお主を殺すところじゃった!

 気持ち悪いか?吐いた方が楽か?!どこぞ痛い箇所は無いか?

 クロエ、返事をしておくれ!」


 ほぼ半泣きでクロエを介抱するディルク。


 クロエは苦笑しながらディルクに答える。


「はい、だいじょぶ、です。め、まわった、だけ。

 おちつく、してきた、みたい。

 せんせい、もう、たかい、たかい、だめ、です。オェ……」


「おお、もちろんじゃ。すまん、本当にすまんクロエ!

 今日はここまでにしような。お主は休まにゃイカン。

 そうじゃ、コレットに説明せねばの。クロエ、少々動かすぞ、良いか?」


 そっとクロエをブランケットで包み、優しく抱き上げて小屋から家に向かうディルク。


 家に入ると直ぐコレットが気付き、ディルクが謝りながら状況を説明すると彼女は真っ青になり、ディルクを急かして寝室に急ぐ。


 意識は戻っているクロエを確認すると安心して、コレットはクロエの服を緩めて楽に息が出来るよう半臥位を取らせ、呼吸を確認する。


 ディルクが小さくなってると、コレットは苦笑しながら大丈夫だと声を掛け、水や着替えを準備するから暫くクロエの横に居てくれるよう彼に頼み、寝室から出ていく。


 ディルクはクロエを撫でながら心配そうに顔を見る。


 クロエは次第に眠くなってきたので、微笑みながら

「せんせい、アタシ、だいじょぶ。だから、せんせい、しんぱい、もう、しない。あんしん、して。

 すこし、ねる、します。おやすみなさい……」

 と言いながら目を閉じる。


「ああ、お休み。しっかり看病するからの。

 クロエよ、早く良くなっておくれ」


 ディルクはこれ以後クロエに高い高いは絶対しないと固く誓ったのは言うまでもなく、次いでに帰ってきたミラベルにこっぴどく叱られたのであった。






次話は明日か明後日投稿します。

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