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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
33/292

33. 姉の苛立ちと妹の遠慮

お読みくださりありがとうございます。


ミラベルとクロエの関係が又近付くための回です。


謙虚さは行き過ぎると駄目ですね。

 やがて泣きながら本当に寝てしまったクロエを、ディルクは優しく抱き抱えたままソファに寝かせた。


 目元を優しく拭ってやると、自分のブランケットをクロエに掛けてやり、その隣に腰を下ろす。


(前世のこの娘はさぞかしおっとりしたお人好しであったのじゃろうの。気遣いが出来すぎて、苦しいことも多かったんじゃないのかのう。

 もっと自分を大事にせにゃならんぞ、クロエよ。

 其方は痛々しいまでに自分を卑下し過ぎる。

 謙遜は美徳なんじゃが、過ぎると自分を傷付ける刃にしかならぬ。其方はもっと自分を縛る遠慮を無くさねばの。

 この子を導くのは中々に大変そうじゃ。生来の価値観をその身から引き剥がすのじゃから)


 スウスウと眠る赤子を見つめながら、小さな溜め息を吐くディルク。


 程無く小屋の扉をノックする音がしたので、ディルクは扉に近付き

「誰じゃな?入りなさい」

 と声を掛けた。


 扉が開き、ミラベルが入ってくる。


「先生……クロエは大丈夫?」


 小さな包みを抱えてミラベルはディルクに心配そうに聞く。


「ミラベルか。大丈夫じゃ。なんにも心配はいらぬよ。

 クロエはとても賢いが未だ未だ小さな赤子じゃ。

 さっきはコレットがクロエにとってとても嬉しい言葉をくれたんで、この子は思わず泣いてしもうた様だの。

 変なことを聞くが、ミラベルはクロエが気味悪いかね?」


 突然ディルクが問い掛けた言葉にミラベルは眉を潜める。


「なんですか、それ?

 クロエが何で気味悪いの?幾ら先生でもアタシ怒りますよ!

 どういう意味なんですか!」


 ミラベルが目を吊り上げ始めたので、ディルクはにっこり笑って頷く。


「すまんすまん。

 実はクロエは自分が気味悪い赤子じゃと思い込んどるんじゃよ。何故だか解らんがね。

 この子は賢いが、自分を駄目だと思いすぎる癖がある。自分には厳しいが、人にはとても甘い。

 とても不思議な子じゃ。

 ミラベルはクロエをどう思うかね?」


 ミラベルはディルクに促されるまま隣に腰を下ろすと、う~んと唸り始めた。


「……なんかわかります。

 クロエはいつもニコニコ笑ってて可愛いんだけど、甘えてこないの、コリンのように。

 コリンが意地悪しても余程危ないとき以外はそのまま我慢してて、アタシ達が気付くまで何とか一人でコリンをなだめようとしたりなんかしてて。

 アタシも手が掛からない出来の良い妹だって思ってるけど、実は寂しかったりするのよね。

 もっとクロエに甘えてもらったり頼りになるお姉ちゃんだと思われたいのに。

 先生の言うようにクロエが自分をそんな風に考えてたなら、可哀想だし腹が立つ!」


 ミラベルが憤然と鼻息荒くそんなことを言った。


 ディルクが面白そうにミラベルに又聞く。


「ほう、腹が立つかね、ミラベルは。

 誰に腹が立つんじゃ?クロエかね?」


「クロエもだけど、気づかなかった自分にもです!

 だって待っててもあの子絶対言わないでしょ。

 ならアタシ達が気付いてやらないといけなかったのに。

 あー、なんかモヤモヤする。

 クロエみたいな赤ちゃんが周りに気を遣うなんて!

 まさかクロエにコリンの事見習わせたいと思う日が来るなんて、アタシ自分が信じられない位だわ。コリンの半分でも図々しくなるべきよ。

 う~ほっとけない!どうすりゃ良いですかね!全く!」


 プンプン憤懣やる方無いミラベルの様子に、安心したようにディルクは笑う。


「なんも特別な事はせんでも、ただクロエにミラベルの気持ちをはっきり言ってやったら良いだけじゃ。

 もっとコリンに怒りなさいとか、出来ないことは甘えなさいとか、気付いた時に優しく時に厳しく言ってやるだけで良い。

 ミラベルが姉でクロエは幸せじゃよ。きっと本人もそう思うておる」


 ディルクの言葉に頷きながら、未だ納得しきれてない風のミラベルは、眠っているクロエの横に移動し、彼女のほっぺをつつく。


「全く!こんなにかわいくて凄く賢いのに、どうしてそんな風に自分を悪く考えちゃうのよこの子は!

 起きたらもう思いっきり抱き締めちゃうから!

 覚えときなさい、クロエ!」


 ミラベルがそう言うと又図ったかのようにクロエがニパァ~と笑う。


 その呑気な笑顔にミラベルは口元をヒクヒクさせて俯くと、体を震わせて拳を握りしめて力説する。


「クゥ~!何でこうこの子は空気読んだ様に笑うかなー!

 ねっ先生!あざとい位に可愛いでしょ!これにやられちゃうんですよ、もぉ!

 只でさえクロエは良く笑うのに、寝ててもこれだもの!

 ……可愛くない訳あるかっ!あー、つねってやりたい。ほっぺグニグニしてやりたい!」


 ミラベルはクロエの笑顔に堪えきれず、そっとほっぺにキスをした。


 可愛らしい姉妹のじゃれあいをディルクは目を細めて見守っていた。


「あ、忘れてた。先生これっ!

 さっきお昼ご飯殆ど食べずにクロエを抱いて帰っちゃったから、母さんが食べてくださいって。サンドイッチです。

 お腹減ってるでしょ、先生?」


 ディルクは考えていなかったようで目をぱちくりして、漸く自分のお腹が未だ全く満たされていないことに気付いた。


「おお。確かに儂の腹が鳴っておるわ。すまんのミラベル。助かったわい。

 ああ旨そうじゃ。ミラベルもどうかね?一人で食べるのは味気のうてな」


「あ、じゃあ1つ貰っちゃいまーす!

 でも、母さんには内緒にしてくださいね、先生?」


「ほっほ、わかっとるわかっとる。コレットは優しいが、怒ると怖いからのう」


「そうなんですよ!先生の分けてもらったなんて言ったら絶対怒るわ、母さん」


「おお怖いのう。ミラベルは果実水かね?ミルクが良いかね?」


「あ、果実水が良いです~!アタシが入れますよ!

 先生。座ってて下さい」


「じゃあ頼むよ。儂はミルクが良いのう」


「は~い!お任せください!」


 ミラベルが勝手知ったるとばかりに小さな台所で飲み物を準備する。


 テーブルに二人分の飲み物を置くとディルクの横に座りサンドイッチを一緒に食べた。


 一頻(ひとしき)り二人はサンドイッチを食べながら会話を楽しみ、結局1つどころか半分サンドイッチを食べたミラベルが

「う~!食べ過ぎたー!先生、アタシ小刀の練習に行ってきます。

 これは体を動かさないと絶対不味いわ。

 じゃあクロエをお願いします!失礼します~!」

 と言うが早いか皿を持って小屋を出ていった。





 嵐の様なミラベルが帰ると小屋が途端に静かになった。


 程無くクロエがモゾモゾと動き出し、やがて目を覚ました。


「せんせい?おはよう、ですか?

 あれ、アタシ、ねてた?あれれ?」


 クロエが起き上がって、ソファの上で縫いぐるみの様にちょこんと座る。


「目が覚めたか。少し喉が乾いとるじゃろ。果実水はどうじゃ、要るかね?」


「はい。のむです。アタシ、ないた、のど、からから、です」


 クロエはディルクが淹れてくれた小さな木製カップの果実水を、両手に持ちながらゴクゴクと飲んだ。


「ぷひゃあ~!おいしい!ごちそうさま!」


 ディルクは笑いながらクロエの飲む姿を見ていたが、真顔に戻るとクロエを抱いてテーブルの上に座らせた。


「クロエ、さっきまでミラベルが其方を心配してここに来とったぞ。

 其方が起きる直前まで居ったんじゃがな」


「え、ミラベル、おねえちゃん?

 やっぱり、しんぱい、させた。アタシ、わるい、こと、した」


 クロエが申し訳なさそうに俯くと、ディルクはクロエの頭をそっと掴み上向かせる。


「え?せんせい、なに、ですか?」


「ミラベルが寂しいと言っとったぞ。

 可愛い妹の其方に甘えてもらえない、頼ってもらえないとな」


「え。それ、ミラベル、おねえちゃん、いった?」


 クロエは目を丸くしてディルクを見る。


「そうじゃ。其方はいつもニコニコ笑っていてとても可愛い妹なのに、コリンの様に甘えてくれなくて寂しいらしい。

 姉として頼られたいとも溢しておったよ。

 そうなってくれるには、一体どうしたら良いのかと悩んでおったよ」


 ディルクの言葉が衝撃だったクロエは固まっていた。


(甘えてもらえないって……だってコリンお兄ちゃんも居て大変なのに。アタシまでそんなの…家族の負担になっちゃうよ)


 クロエの様子を見ていたディルクは、クロエの言葉を待たずに話を続ける。


「なあクロエよ。其方はとても控え目で謙虚じゃ。言葉が難しいが其方なら分かるじゃろ。

 だが謙虚な態度はとても好感が持てるが、行き過ぎると卑屈であろう?

 況して可愛い妹が変な遠慮をして兄姉に全く甘えず、頼ろうともしない。

 それは其方の兄姉にとってとても悲しいことなんじゃよ。

 せっかく助けたいと差し出した手を取って貰えず、行き場を失った手をさ迷わせてしまうのは、差し出す方にとって虚しいことこの上無い。

 其方は気の遣い方を間違えてはいないかね?

 可愛い妹から頼りにされるのは、あの二人にとって喜びなんじゃよ。まぁコリンには少々早いがの。

 もう少し家族に心を開いて、甘えたり泣いたり怒ったりしてみなさい。

 でないと其方はシェルビー家のお客でしか無くなるぞ。

 家族なんだから遠慮は要らん。もっと感情を表に出しなさい」


 ディルクはクロエの目を見ながら、そう諭した。


 クロエは固まっていたが、徐々に体の力を抜きディルクの話を聞いていた。


 ディルクの話が落ち着くと暫く考えるようにテーブルの一点を見つめていたが、やがて顔を上げるとディルクにこう言った。


「アタシ……なに、やってる。

 ミラベルおねえちゃん、だいじ、かぞく。だけど、あまえる、わるい、おもってた。

 でも、これ、かぞく、ちがう。

 あまえる、たよる、できない、かぞく、それ、おかしい!

 せんせい、アタシ、かんがえる、します。

 おねえちゃん、おはなし、します!」


 クロエがさっきまでとうって代わり、吹っ切れた様な笑顔を見せる。


 ディルクは頷くと

「そうじゃな。それが良い。急には中々難しいじゃろうが、其方等は元々仲が良い姉妹じゃ。

 ライリーもミラベルと同じじゃろう。心配そうにしておったからな。もっと甘えて良いと思うぞ。

 其方は可愛くて出来の良い自慢の妹なんじゃろうからな」


 ディルクがイタズラっぽく笑ってクロエを持ち上げる。


 クロエがその誉め言葉に少々頬を赤くして、照れ臭そうに微笑んだ。


次話は明日か明後日投稿します。

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