289 真実【3】凪の過去編、END
この話で不快に感じた方がいれば、この『忘れられた運命』を読むのをご遠慮ください。
私は私の都合で『R18指定』を付けることができないので、どうしても不快に感じる方はいると思います。
「ありがとうございました。おこずかい、ちゃぁんと高額支払ってくれますよね?」
暗くて臭いトイレの中で、私は上着を着ながら聞いた。
「ああ、も、もちろん払うよぉ。いくらがいい?」
いつ聞いても気持ちの悪い声。
適当に、「そうですねぇ……」と考えてる風の声を出す。
「じゃあ……前回は写真を撮るだけで一万五千円だったでしょ? 今回は内容が少し踏み込むから、それなりに高くしてもらわないと困るよ」
おじさんが「つまり?」と聞いてきたので、ぼかさずに伝える。
「二万五千。これくらいが妥当でしょ?」
実際には足りない。もっと高いシャンプーとかコンディショナーとか、肌のケアに必要な道具もいっぱいあるのに!
……次回は、三万を要求してみようかな。
・・・
それからどれくらい経っただろう。
私がお金を稼がなければならない理由となった人物、弥月さんが交通事故で死んだそうだ。
――だったら、もうコスプレ写真とかに付き合わなくていいの?
人が死んだというのに、喜ぶのはダメなことだと思う。
でも、正直辛かったから、もう縁を切れると思ったら心が軽くなった。
(明日、おじさんに言わなきゃ!)
そんな喜びの感情を隠しきれずに、おじさんにその話をした。
するとおじさんは――
「じゃあ、今までのお金返してよ」
と、言って来た。
「……え?」
理解できずにそんな声が漏れた。
いや、なんで返さなきゃいけないの? アレはもう使っちゃったし、何より私のお金なんだよ?
「え? じゃないよ。おじさんのお金なんだからさぁ、ちゃんと返さなきゃでしょ」
「え……でも、くれるって……」
思わず後ずさった。でも、この変質者には話は通じない。
たとえ『あげる』と言ったから何なんだ。このジジイにはそんな事通用しない。
「……私が悪いの?」
「そうだよ。キミが悪いんだよ。おじさんのお金勝手に使ったんだよね?」
「でも……」
目の前がぼやけて、頬を生暖かい水が伝う。
おじさんはにちゃり、と気持ち悪く微笑んで、言った。
「ちゃんと今までのお金、おじさんに返すまで、働こうね」
「ど、どうやって……」
「おじさんの写真仲間のコスプレ撮影も手伝ってよ。安心して、顔は取らないから。それを売ったお金の一割が、君への報酬。つまり、おじさんへの借金返済の一部になる」
……私が、悪いの?
売上金の一割? そんなのいくらか分からない。写真を格安で売れば、その分一割も小さくなる。
そんなの……終わりが見えないよ。
そう分かっていても、この時の私には、従うしか選択肢がありませんでした。
だから仕方なく撮影を手伝って、家族をだまして、笑顔を作って……。
「まだまだ、足りない……」
一割の金額が安すぎる。今まで稼いだお金はその借金とやらの全体の金額の一割にも満たない。
誰かに助けを求める? いいや、こんな話聞いてくれるわけない。聞いてくれたとしても、きっと見放されるだけ。
私が悪かったのか、それとも周りの環境が悪かったのか……。
冬、弥月の兄の弥一が死んでしまった時、私が一番に思ったことはこれでした。
『やっと……あの忌々しい兄妹が消えた』
一番にそう思ってしまった自分を、嫌悪感が襲う。
助けて……。
「鏡さん、私を助けて……!」
私は夜、廊下でたまたま会った鏡さんに、自分の状況を打ち明けた。
・・・
その数日後。
あの公園に、数人の鬼族が立っていた。
怒りに染まった彼らの表情を見て、公園に来た人々は思わず引き返したという。
鬼族の中心に立つのは、鏡とその親。
その後ろに、鏡の両親の側近と紀章、凪もいる。
凪を地獄に引きずり落とした脂性のおじさんは、その後どうなったのか……。それを知る者は、あの日、公園にいた面子以外誰も知らない。
凪は鏡のオキュロフィリアという異常癖を。そして鏡は凪の暗く重い過去を知った。
互いが互いの秘密を知っている。ある意味この夫婦は、お似合いと言えるだろう。
そして現代。凪は時折暴走を起こす。
その暴走をなだめられるのは、現状鏡だけ。
「何で私なの……? だって、女の子は私しかいないわけじゃないのに……」
「凪が悪いわけじゃない。だから、自分を責めないで」
「私が悪いの」
「っ……それは、違う」
「ごめんなさい。だって、私がお金なんかにこだわるからあんなことになったのに。今だって、ずーっと前からこうやって迷惑かけてる」
「……迷惑なんかじゃない。俺が悪いんだ」
鏡はそう言って凪の頭を撫でる。それでも、小さく聞こえる嗚咽は収まらない。
「……どうせまた気まぐれなんでしょ? 紀章さんやお義父さんやお義母さんに言われたからやってるんでしょ? 仕事なんでしょ?」
本当に……似たもの夫婦だ。
二人は過去起こした過ちを今だに引きずっている。
そう思い、紀章は小さくため息をついた。
当主はあの双子に目をやるばかり凪の異変に気付かなかった。ことを、今だ後悔してる。
凪さんは、公園であのおじさんに会ったあの時、逃げなかったことを悔いてる。
凪さんは大きく後悔している。過去の過ちをすべて。でも当主とはそこが違う。
彼は後悔なんてしていない。弥一を殺したことを。
それでも、自分には何もできないこと。過去の紀章が何もしなかったことを、紀章は引きずっている。
自分が今鏡の側近なのは、二人の過去を知っている数少ない人物であること。そして、二人の後悔の感情を軽く扱わないこと。
そんな頭数合わせのような自分の立場を、紀章は嫌ってなどいなかった。
「紀章さん」
何も感じていないような平坦な声に呼ばれ、紀章は目線を上に上げた。
するとそこには、安藤啓介こと鬼桜啓が立っていた。
「風邪ひくよ。それともまた……」
啓は眉をひそめた。啓は、彼らの過去を知っている。
だから、今の紀章の行動が、自傷行為に近いものということも、よく理解していた。
啓には止められない。痛みによる安心感を知っているから止めない。
彼はにこりと妖艶な笑みを浮かべ、何も言わすにその場を立ち去った。
ナ「うわっ……」
感想薄っ!
ナ「だってコレ、なんも言えねぇよ。ていうか、鬼桜啓くんって陸の同級生だよな? 14か15歳じゃん」
……どうでしょう。ナレーターさんより年上かもよ?
白「次からは、本当の主人公、陸の語りに戻るってわけ? ようやくストーリーにギャグが混ざる……」
ホッとしてるとこ悪いけど、今この話2000文字くらいで、いつも1000文字くらいなのね? この回で終わらせたかったってのもあるけど、ここに入りきらなかったストーリーもあるから、この次に『番外編 弥一の葬式』があるよ☆
作「弥一の葬式……ろくなことなさそう」
さっすがぁ、鋭いね作ちゃん。でも番外編はもう一つあって、『桜井家の墓の前』があるよ。修学旅行で言っていた墓参りの小規模戦争サ☆(あともう一つくらい番外編あるかも)




