287 真実【1】
別に、大した意味はないけれど。
――ピン、持ってない?
そう言われた瞬間、何かが変わる、そう感じた。
・・・凪の過去編・・・
鏡さんとは親が決めた婚約者という関係であり、別に特別な感情は抱いていない。
それでも、体制的には仲良くしておいた方が良かった。その方が双方得をするし、両親からも何も言われない。
だとしても。だとしても! 私ですら、直感的に感じるものがあった。
――きっとこれから、何かが壊れ始める。
・・・
もう壊れ始めている――。
それに気づいたのは、学校。休み時間などでたまに見かける彼は、いつも不思議な少女と一緒に居た。
桜井弥月。黄緑色っぽい変な色の髪に青い瞳を持った六年生。
それを知っても、大した感情は感じなかった。
ああ、そうなんだって感じ?
それでも、私はある事をきっかけに弥月さんに嫉妬するようになった。
親に責められた。私が鏡さんと仲良くしていた方が立場的には楽なのに、鏡さんが他の女の子にかまっているのはお前のせいだと。
別にいいでしょと。そんなのは個人の自由だと言えたらよかった。けれど私はその時、物凄く傷ついた。
そう言われた日から、なるだけ可愛く見えるように努力して見たり、会話術を磨いたりして見たけど、鏡さんの態度が変わることはなく……。
「はぁ……」
学校からの帰り道、家に帰るのが嫌で、遠くの公園に寄り道した。
遠くの公園の、ろくに掃除もされていない臭いトイレの建物の裏。夕日もささない影を歩くアリの列を見つめ、私は一人、考え事をしていた。
そんな、誰を好きになるかなんて個人の自由だ。
じゃあ、そう思っているのなら、なんで私は傷ついたの?
ただひたすらにグルグルと考えを巡らせて、無意識に奥歯をかみしめる。
『――……私が悪いの?』
口に出ていたか、心の声なのかは考えなかった。
そうだ。私は悪くない。悪いのはあの弥月とかいう女の子で、私が悪いんじゃない。
そう言い聞かせて見ても、傷ついた事実は変わらない。
「……っ」
気づいたら、静かに立ち上がっていた。無言で。
足をあげて、地面を踏みつける。
そーっと足をあげてみると、そこには、無残につぶれたアリの死体。
「フッ……ハハッ」
無意識に高い声が上がった。
それから何度も何度も、両手両足の指の数になんて比べられないほど何度も、アリをつぶした。
アリは何も悪くない。悪いことをしたから私に踏みつぶされているんじゃないの。
――私が殺したいと思ったから、殺しているの。
「あは、あはは……! ふは、あはははははははは!」
やった、やったぁ!
――私が、壊してやったの!
・・・
何日もその公園に通い、アリをつぶす。それが日課になっていた。
しかしある日、呼吸の荒い変なおじさんに声をかけられた。
「ね、ねえキミ、毎日ここにいるよねぇ……!」
アリをつぶす足を止める。
「……誰ですか?」
「ねえ、おじさんがおこずかいをあげる」
どうやら、話は通じないみたい。質問は華麗に無視された。
「お金……」
「そうだよ。お金だよ。お金が欲しかったら、おじさんと一緒にここのトイレに入ろうね」
ああ、なるほど。
このロリコン変質油糞爺の目的はなんとなく分かった。
防犯ブザーを鳴らそうか。
ちらり、とランドセルについている防犯ブザーを一瞬見るが、穏便に断るべきか、と思いおじさんの顔を見た。
……まあ、いいか。
断る事さえも、面倒臭かった。
・・・
別に変なことはされなかった。代わりに、よくわからないポーズをたくさん取らされた。
おじさんの趣味のコスプレ撮影に付き合った。二十枚くらいだろうか? 写真をどう使うかは知らない。でも、顔は映っていなかった。それはちゃんと確認した。
謝礼として、一万五千円を受け取った。
「何に使おうかなぁ……」
夕日を見上げ、私は帰り道を歩いて行った。
ナ「キキ、過去になんかあったの?」
え? 何が?
ナ「いやキョトンとしてるんじゃないよ! こんなストーリー思いつくなんて異常だよ!? 自称義務教育中って設定なんでしょ!?」
失礼な。私は実際に義務教育中ですよ。それに、異常なのは理解しています。プンプン。
作「あ、理解、してるんだ……」(プンプンって……口で言うこと?)
白「私も作者の意見に同感。こんなストーリー展開思いつくのは、やっぱりそれなりの経験がある大人じゃないと……」
いや、私はまだ十年とちょっとしか生きていないしがないガキですよ。
ナ「いやいや、それはあり得ないって」
はぁ……。ナレーターさん、私がガムテープ切らしてるときにわざわざその話題持ってくるってことは、狙ってたね?(圧)
ナ「えへ、バレた?」
フッ……今度ナレちゃん専用に超強力接着剤とガムテープ買ってきてやるよ。
ナ「い、嫌だあァァァァ!!」




