285 朱に交われば赤くなる
「弥一、なんでそんなことに……」
いや、今はそんな事言ってる場合じゃない。
弥一を連れて、山を下りるか? それとも助けを呼ぶか?
いやでも、連絡手段は持ってない。
弥一を連れて山を下りる? そんなの無理だ! 俺にはそんな力はないし、まだ山は急で、風も強いから危険だ。
第一、この崖を上れるとは思えない……。
自分が落ちてきた崖を見上げる。
どう考えても無理だった。移動してもいいが、足が折れている弥一を連れてだと時間がかかる。
「鏡は……怪我は?」
「俺には大したケガはない! だから……心配するな! 絶対助けるから――……」
そう言って弥一に向き直った瞬間、弥一の青い目と目が合った。
弥一の額からは、相変わらず赤い血が垂れてきていて、弥一の顎から滴り落ちている。
「……ッ」
――弥一が心配で、ここまで来たはずだった。でも、気が変わった。
青い目。『痛み』を帯びたその目に見られて、俺の体はゾクゾクと反応した。
(……そうだ。どうせもう助からないんだ)
気づけば俺の手は、弥一の方へと伸びていた。
赤色が嫌いだ。普段から隣にいる人に、当たり前のように居座る人の目や髪は、大体が赤だから。しかもそれは、経済的な戦略。あからさまな『媚』に、うんざりしていた。
だから、真反対の澄んだ青い瞳に惹かれた。
『……ああそうだ――』
弥月の目を見た瞬間、心のどこかで響き、全体に侵食して言った声。
『――これが、欲しいんだ』
口角が上がる。大した意味もなく、意図的に上がったわけでもない。
裏社会で染まった黒と、何も知らず純粋に生きている白!
……美しい対比だと思うだろ?
――だから、赤色風情が、俺の”青”を汚すんじゃねぇ。
弥一の額を伝う血を、親指でふき取った。
そしてそのまま右手を下ろし、彼の瞳を指差した。
「……ごめんね。弥一」
――誰だって、綺麗なモノには惹かれる。
だから、俺は何も躊躇しない。最後の最後まで、笑顔で。
そんな中途半端な思いやりの笑みが最後の光景だなんて、どこまでも報われない双子だ。
朱に交われば赤くなる。では逆は。
白と交われば白くなるのか? 答えは一言。
「否」
そんな事あるはずがない。
白い絵の具は赤を白にするためにわが身を削る。朱よりももっと時間がかかる作業だ。
そしていつの間にか、白い絵の具は使い切られる。それでも、赤は赤のまま。
理不尽、そんな言葉は、意味もなく無に溶けていくために生まれてきた。
あの……人体にはあまり詳しくないんですが、弥一くんの口から血が出ているのは、内蔵に傷がついたからって設定になってます。なのであのまま弥一君を連れて移動しても、弥一くんは貧血かショックで気絶。体力に限界を迎えた鏡も寒さで倒れてしまい、ジ・エンドです……。
ナ「これが……桜井家の、呪い!??」
おやおや。黙れや。私がネタバレになると判断しガムテープを取り出す前に前に。
作「笑顔怖すぎ(笑)」
ナ「いや笑い事じゃねーよ下手したら俺死ぬぞ?」
白「まーでも大丈夫じゃない? ギャグのノリで殺せば次の話では復活してるし」
ナ「そういう問題じゃないの!」




