270,5 幕間
「はぁっ、はぁっ、はぁ」
鏡は、息を切らしながら道路の橋を走り続けていた。
傘はない。服は一応着替えてきた。
適当に選んだ長そでの服は腕に張り付き、正直言って気持ち悪かったが、今はそれどころじゃなかった。
とりあえず、本家を脱出した後は西村家の家に向かう。
陸が消えたのはここ。目を閉じ、深呼吸をして、五感を研ぎ澄ます。
簡単に言えば、残り香のようなものを探っていた。
気配も匂いと同じように、通った場所に多少残る。しかし、この能力は現代の鬼族にはあまり受け継がれていない。
現代で使える者と言えば、媿野家の家を継ぐ者くらいだろう。
鏡は十人近くいる兄弟姉妹の中の末子。一番家を継ぐ確率が低い鏡が、当主になった理由。
それは、気配の残り香のようなものを感じ取れるからだろう。
今でも三世代くらいまたいで現れるそうだ。残り香が分かる者――それを、『残香鬼』と呼ぶ。
現代の残香鬼は、言わずもがな、媿野鏡だ。
(陸は……なぜに屋根の上に気配が残っている?)
鏡は向かいの家の屋根の上を見上げた。
まあいい。陸の気配がそっちにあるのは違いない。
もしかしたら、媿野家を恨む妖が誘拐したのではないか、という考えが頭をよぎる。
空と陸の情報を手に入れることは非常に困難なはずだ。紀章が言っていたから信用度は高い。
しかし、裏を返せば分かる者なら分かるということだろう。
非常に困難というだけで、できないわけではないのだからな。
しばらく走って、全く知らない場所まで来た。
まさかこんな場所にいるとは思わないだろう。そういう点では、鏡でしか見つけられなかった。
「っ! 陸……」
陸は見つけた。しかし、陸の周りには見知らぬ人間が三人いる。
しかもその三人、気配がない!
紀章ならこんな時、
「当主は希少な残香鬼なんですから、そこで見ていてくださいね」
と言うだろう。
でも今はどうでもいい! 紀章は今、ここにいないのだから。
背に腹は代えられない。そんな思いで、一度深呼吸をし、その三人組に話しかけた。
「ふぅ~……………すみません。ちょっといいですか?」
・・・
鏡は陸を背負って帰る途中、考えていた。
あの三人、声をかけた瞬間に気配が出た。
気配を完全に消せるくらいの強者なのに、なぜ俺の気配に気づかなかった?
※喧嘩のせいで気配が察知できなかった。
(……まあいいか。陸は見つかったし、この能力も……っ……――)
その時、鏡は思い出してしまった。
最後にこの能力を使った、あの日の光景を。
最悪だ。まさか思い出してしまうなんて。
鏡は奥歯を強く噛みしめた。ギリ……という小さな音が聞こえる。
もう一度、高ぶる感情を抑えるように深呼吸をし、一度目を伏せてから、気分を変えるように声を出した。
「よし! この能力も役に立ったしね!」
鏡の過去編はもう少し後になるから、ちょっとだけ待ってね☆
ナ「いや……楽しみだったけどなんだか怖くなってきたから遠慮します」
え? ナレーターさんの人生と似たようなもんでしょ(笑)
ナ「鏡さんの人生知らないけど、同じにしないでもらえます?」
白「まあ確かに、あんなになんかこう……重い感じで匂わされたら怖くもなるよ」
作「それは同感しかないけど、残香鬼の能力はちょっとうらやましいなって思った」
でもあの能力あったら自分の意思関係なく媿野家の当主だよ?
作「……………よし! 遠慮します!」




