268 死者に『クズ』は通用せぇへんのよ
過去、自殺を図った優斗に対し、『春日星輝』と名乗ったことがある青年、リゲルは暇つぶしに散歩していた。
すると偶然、屋根の上に寝転がる西村陸を見つけてしまったではありませんか!
(……………え? 何あれ)
そう思ったリゲルは、少し考えた後、頭がパンクし、自分の弟、レグルスを呼び出した。
「何すか」
面倒くさそうに現れた弟を前に、屋根の上に雨に打たれる赤髪の病人を指差す。
すると案の定、レグルスもフリーズ。やはり兄弟なんだなぁと実感させられたが、それもなんだか癪で急いで打ち消す。
「兄さま、どうします?」
「何のためにあなたを呼んだかちゃんと理解してください」
のんきに聞いてくるレグルスにそう返す。
レグルスは少し考えた後、「あー、あれをどうするか考えろってことか」と納得したように頷いた後、「……あれ? これ結構だるくね?」でも言うようにジト目になった。
「あー、とりあえず、雨に打たれないところに移動させません?」
「まあ……無難ですね」
哀楽兄弟は短い会話を交わした後、どちらも動かずその場に立ち尽くした。
「……何してるんですか?」
「いや兄さまがやってくださいよ。オレ濡れたくないので」
「私だってそうです。私は手袋ですよ?」
「皮手袋だからちょっとくらいなら大丈夫なのでは?」
「そういう問題ですか?」
お互い陸を見つめたままそう会話を交わした後、レグルスは小さくため息をついた。
「よし。やらせよう」
「クズ」
リゲルはわざと強調して『クズ』と言った。
だがレグルスは気にした様子もなく、パシリ――違う。主人(?)を呼び出した。
数分後、呼び出されたレグルスの主人である少女、ルシフローラは息を切らしてやってきた。
「さっすがオレのご主人様やね。オレなんかの為に息を切らしてやってきてくれるんやもん」
相変わらず兄以外の人間と話すときはしゃべり方に変えるレグルスに、リゲルは少し呆れる。
レグルスがルシフローラを主人と呼んでいるのが、リゲルにとって奇妙でたまらなかった。
「ルシフローラの事を主人として扱うのはやめてくれませんか? 実際にはあなたがこき使っているのに……不愉快です」
「失礼やね……あ、間違えた。失礼ですね、兄さまは正しい権力の使い方ってもんをちゃんと知ってください」
「あなたに説教される筋合いはありません。あなたこそ、ルシフローラに対して権力を――」
「うるさいなぁ、立場で言えばルシフローラの方が権力を持ってるはずだろ? だったらルシフローラが望んでオレの手伝いをしてくれてるんだよ」
「……悪趣味です」
「そやろね」
眉をひそめるリゲルに対し、レグルスは気にするそぶりもなく微笑んだ。
・ルシフローラがレグルスに逆らえない理由:
七日七晩水一リットルのみで監禁されたことがあるから。
・リゲルがレグルスを叱れない理由:
死者を生き返らせてしまったという負い目があるから。
・レグルスがルシフローラに使えてる側を名乗ってる理由:
いざとなった時の責任は主人であるルシフローラにもいくから。
・レグルスがリゲルにだけ標準語な理由:
生きていたころの名残と、他人行儀で接することで兄に一生責任感を負わせることができるから。
レグルスの目的→他者に傷跡を残すこと
「ずっと覚えていてほしい」「忘れてほしくない」
「オレが生前酷い目に合っていたということを忘れるな」
リゲルがレグルスを生き返らせた理由
→兄として、弟が自殺に追い込まれていたことに気づけなかったことを謝りたかった
「何もかも忘れて、最初からやり直したい……!」
「どいつもこいつも金がすべて。そんなクズに生きている勝ちなんてあるわけないだろ」
結論・哀楽兄弟はキキのお気に入り!
「こういうタイプのすれ違いって美しい!」




