267 多忙な当主
西村こと媿野鏡は、目の前に積まれた山積みの紙の束に、思わずため息が出そうになる。
ここにある紙の山は、妖の頂点に立つ者の仕事だ。
めんどくさい、と思う。
くだらない報告書なんかわざわざよこすなよ、と何度も思った。
頬杖を突くのもめんどくさくて、そのまま頭を前に倒して机に突っ伏す。
(誰が誰との約束に遅刻したとか、どうでもいいんだよ)
先代当主の時代、そういうちょっとしたミスでも、多少給料に響くところはあった。
しかしそれは先代当主、つまり鏡にとっての親の時代で、そんな時代の名残なんかでわざわざ報告書よこすな! くだらない。そんな事で給料減らすなんて、家の親はどんだけケチだったんだ!
今更ながら親のケチさにため息が出る。
先ほどこらえたばかりのため息と一緒に出て行ったから、いつもより大きなため息になった。
妻の凪は今、媿野家が経営する会社の社長としての仕事に行っている。いいなぁ、当主よりも社長の方がいくらか簡単そう。
とその時、机の隅に置いていたスマホに電話がかかってきた。
電話に出ると、その第一声に思わず目を見開いた。
『当主! 海斗のスマホから失礼します! 陸が消えました!』
無礼だとか、そんな事考えていない様子だった。
「はぁ?」と、思わず素っ頓狂な声が出る。
しかし、しばらくその説明を聞いていて、それは本当のことなのだと分かった。
電話を切った時、必死に冷静を装っていた。
……いや違う。こんな時だからこそ、冷静にならなくてはならない。
一度深呼吸をして、ふすまの奥に控える気配に話しかけた。
「紀章、今、元鬼嶺滝家の長男から電話がかかってきた。陸が行方不明になったそうだ」
冷静だった気配に揺らぎが見えた。
まあ、捜索願のようなものだ。
紀章が他の鬼族に指示をしている声が聞こえる。つまりこれは、当主は今は自分の仕事に集中してくれということだろう。
つまり、俺は動くなと! 実の息子が行方不明になっているのに!?
目の前の紙山に目線を動かす。
「………………」
思わず半目になってしまい、微妙な笑みしか浮かんでこない。
数分後・・・
「当主が消えた!!」
胃を押さえながらそう叫ぶ紀章の姿が目撃されていた。
「ええ!? 嘘ですよね紀章様! 当主は本気になったらもう見つけられませんよ!」
「屋根裏とか通るもんな……」
「まあ、仕事が溜まってたし……」
「仕方ないのかも……」
陸の捜索はこちらでやるから仕事に専念しろとちゃんと口で言えばよかったと紀章は心の中で叫ぶ。
だが、当主が仕事から逃げないように屋根裏には黎牙と紫乃、部屋の周囲にはちゃんと人員を配置していたつもりだったが、どうやって逃げ出したんだ!!
紀章は、いつか自分の胃に穴が開くのではないかという恐怖を覚えさせられた。
ナ「仕事ってたまると逃げたくなるもんなのか?」
白「そうなの?」
うわっ、ニートがほざいてる。
白「失礼!」
ナ「なんならここにいる全員ニートだろ!!」
※キキ&作者、義務教育中
※白銀&ナレ、無職同然
作「……笑えるほどに救いがなさすぎるニート巨大ブーメラン!!」
こうなるとちゃんと仕事してる当主が常識人に見えてくる……。
ナ「え、普段は常識人じゃないの? あの人」
変態だよ! ナレちゃん同じく!
ナ「同類にすんなよ」(失礼)




