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259 ミシロの発言権、オトの失声


 一階で一人、ぬいぐるみで遊びながら江見桜子は考えた。


 右手には赤黒く汚れたクマ、左手には使い古されて首の皮一枚つながっているだけの白うさぎ。

 海斗はこの人形の組み合わせを、奇妙だと言った。でも、桜子はこの組み合わせを一番に気に入っていた。


「ミシロ、陸さんがお熱になっちゃったの。どうしたらいいと思う?」


 ミシロ、白うさぎの名前だ。

 桜子はミシロの気持ちになりきり、裏声で言った。


「むかし、ままがやってくれたことを、おもいだしてみたら?」


「……やってくれたこと……。オトは何かある?」


 オトは赤黒いクマの名前だ。

 この二つの名前に対した意味はない……はずだ。


 オトは何もしゃべらない。

 この赤黒いクマには発言権が無かった。桜子はオトに”声”を与えない。


 桜子は天井を見上げて考えた。

 ママがやってくれたこと……? ぁ。


・・・


 桜子は風呂場の洗面器に台所の蛇口から水をため、適当なタオルを濡らして思い切り絞った。

 四歳児の力なのでビショビショだが、今の桜子にできる最大限だった。


 桜子には、熱を出した時には母親が濡れたタオルを額にのせてくれていたのが記憶の中にかすかにあった。

 現代にはもっと便利な粘着力のある物があるというのを、桜子は知らなかった。


 洗面器を両手に持ち、台所の台を下りた。

 しかし、水がいっぱいに入った洗面器は予想以上に重く、階段に辿り着くより前によろけてしまった。


 このままじゃ、コケて、お手伝いしたいのにかえってお仕事を増やしちゃいます!

 何が何でもコケるわけには……!


「は、白銀! 手伝って! ほら……あの、淳さん助けたときの女の人の姿! なれるんでしょ!? 助けて!」


 その絞り出された悲鳴もむなしく、白銀は見下ろすばかりで桜子はついにひっくり返ってしまった。

 冷たい水を頭から浴びて「うっ、うぅ~」と涙目になった。


 桜子は床に突っ伏した状態で白銀をちらりと見たが、白銀は何も気にした様子はなかった。


「うっ、うわぁ~ん!!」


 最近、白銀が自分の言う事を聞いてくれない。それが桜子の悩みだった。

 彩華は七番の言っている事や、アルバトロスを通して五番、瑞祥の言っていることも分かるのに、なぜ自分の蝶は何もできないのかが不思議だった。


 自分が怪異として中途半端だから、そうやって何度も自分を責めた。

 役立たず、恥さらしなどの言葉を言われるのを、ずっとずっと、何よりも、恐れていた。


『お前は一族の恥さらしだ』


 そう言われた記憶がフラッシュバックする。


 もちろん、自分が生まれた家はごく普通の一般家庭だ。

 だからきっと、自分の思い込みだ。空想の記憶の一部でしかないものだと。


ナ「ねえ白銀、一つ聞いていい?」

白「何?」

ナ「白銀ってさ、本当に物語に登場する『白銀』なんだよね!!?」

白「そうだよ? 七不思議六番によって作り出された、白銀だけど」

ナ「ねえキキ! どう思う? 本当に同一人物!?」

 え?(喧嘩なら二人でやってよ……巻き込むなっての)

作「同一人物かどうかは、ネタバレなんじゃ……?」

 同一人物だよ? 私はなるべく、同じ名前の登場キャラクターは作らないようにしてるから。

ナ「はぁ~? 俺は別人だと思うけどね? だってキャラが全然違うもん! こっちの白銀は喋るけど、向こうの白銀は喋らない上に助けてあげないじゃん!」

白「いや私は――」

 ああそうそう。ガムテープ、昨日新調したんだ。

白「……ナレーターさん、黙ろっか」

ナ「そだね」

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イイネ等、よろしくお願いします。 え? なぜかって? しょうがないなぁ、そんなに言うなら、教えてあげないこともないですよ。 モチベにつながります。
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