246 ボイスレコーダー常備とかマ?
そうして僕たちは、白鳳中高の制服を着ている学生を求めて歩き出したはいいものの……
「全ッ全見つからん」
「いないですね~」(棒)
天を仰ぐ僕の隣を、桜井さまが平然と通り過ぎる。
そうして歩きながら、僕はふと、桜井様に聞いた。
「……あの、一つ聞きたいことがあるんですけど……」
陸がそう言うと、捌夢はピタッと立ち止まった。
(また漆雅のことか……)
と、半分諦め気味でもあった。しかし、陸の質問は捌夢の予想とは違った。
「その赤い目って……カラコンだよ……ね?」
その言葉を聞いた捌夢は、拍子抜けする。今までそう聞いてきた人は、九割以上が漆雅のことだったからだ。
(もし桜井様の目が地目? だったら鬼の妖ってことになっちゃうけど、人間だよね……?)
陸の質問には、そういう意図が込められていた。
「ん……フフッ、はい。カラコンです」
そう言って捌夢は、うっすらと、笑みを浮かべた。
「え? じゃあ……黒なの? 目の色って」
「あ、いえ、黒ではなく……」
そう言って捌夢は、片目のカラコンを取った。
「実はぼくの目は、青色なんですよ」
カラコンに隠されていた目は、大きな夏の青空を連想させる、綺麗な青色だった。
「……………キレイな色だね」
「そうですね」
捌夢はすぐ、カラコンを元に戻した。
・・・
「もう何分歩いただろう。だんだん痛くなってきた足の悲鳴を無視し、世界は無情にも、僕たちを同級生にめぐり合わせてはくれない――」
「そんなこと言ってないで早くいきますよ……といいたいところですが、少し休みましょう。さすがに疲れました」
陸と捌夢は近くにある森林公園で、少し休むことにした。
森林公園に入って少し歩くと、ベンチで眠る大学生くらいの男性がいた。
「……寝てますね。どうします?」
捌夢の問いに、陸は空を見上げた。
空には分厚い雲がかかっている。もうすぐ雨が降りそうだ。
「……起こそうか」
陸はそう言って男性に近づき、男性の体を軽く揺すった。
「あのー、もうすぐ雨が降りそうですよ……?」
「ん……あと五……ん……」
「いや、五分……くらいなら大丈夫かな? どうする桜井様、ほっとく?」
「うーん……まあまず様付けをやめていただいて(笑)そうですね。先輩、この人の言葉ちゃんと聞きました?」
「え? どういうこと? 桜井さ……ん」
捌夢はポケットをゴソゴソと漁り、一つの機械を取り出した。
「ボイスレコーダーです。常に持ち歩いてます」
(怖っ!)
陸はのどまで出かかったその一言を、必死に押し戻した。
捌夢はボイスレコーダーの音声を流す。
『あのー、もうすぐ雨が降りそうですよ……?』
『ん……あと五……ん……』
すると捌夢は「ここです」と言って音量を大きくし、もう一度流した。
『ん……あと五時間……』
陸はその声を大音量で聞き終えてから、捌夢に言った。
「……聞き取れてなかったけど、ちょう図々しいねこの人」
「でしょう。初対面ですけどね」
ナ「ボイスレコーダー常備か……まあ……一旦離れるか?」
酷いな。てか大学生には触れないのね。
白「というかこの大学生、『五……ん』とか全員五分と勘違いするでしょ! 計算ずくか?」
だろうね。意外と頭いいだろうから。
作「キャンパスライフ、イエーイ!」
作ちゃん、ズレてるよ。ちょっと。普通ここはヤムか大学生に触れるとこでしょ。
作「はーい。陸のジョークを華麗に受け流す捌夢すげぇってことでオケ?」
うーん、いんじゃない?